岩の世界 3
レナーは、イドの男友達である。
もちろん現実の世界の友達で、夢の世界では接点を持っていない。
イドは、顔見知りの夢の世界へ行かないようにしていた。
夢の世界で自由に動き回れるようになったばかりのころ、痛い目にあったからだ。
それはイドが、興味本位で友人の夢の世界を覗いた次の日のことだった。
現実世界で会った友人が、不思議なものを見る目でイドの顔をのぞいてきたのだ。現実世界のイドと夢の世界のイドの顔はまったく違うのに、なぜかイドが夢の中に現れたと解ったらしかった。
以来イドは、二度と知り合いの人間の世界に行かなくなった。
とはいえ、イドは夢の世界でまだまだ遊びたかった。
自分の夢の世界だけは足りなくなったので、他人の夢の世界をのぞきたくて仕方がなかった。
とすれば、できるかぎり赤の他人の夢の世界を選ぶしかない。しかし残念なことに、他人の夢の世界へ行くには、相手の顔と名前を知っておく必要があった。
悩んだ末にイドが旅する先は、友達の知り合いのそのまた知り合いのような、自分とは距離がある人間の夢の世界となった。
「レナー、おじさんの具合が良くないって言っていたけど……。なんだかこれは、本当に……心配になってきたなあ」
岩だらけの世界を見て、イドは眉根を寄せた。
物は試しと、イドは魔法で水を作り出し、荒廃した地面にそっと落としてみた。
すると、地面が大きな穴を開けた。
落ちてきた水を穴で受け、貪るように飲みこんでいく。やがて水がなくなると、地面は元通りになった。
「ひええ……私も食べられちゃうんじゃ……」
ごくりと唾を飲みこみ、イドは硬直した。しかし、荒廃した地面が再び穴を開けることはなかった。
「水をあげつづけたら、少しマシになるのかな?」
辺りを見回しながら、イドは考える。
自身の手のひらと荒廃した地面を交互に見て、ううんとうなる。
「いやいや、よくない」
頭を横に振って、イドは自制した。
他人の夢の世界の中で余計なことをすると、突然追い出されてしまうことがあるからだ。夢の世界そのものの自衛のためなのだろうとは分かっているが、追い出される瞬間がイドは嫌いだった。悲鳴や怒鳴り声につつまれ、身体の奥底まで締め付けるようにしてから追い出されるからだ。その後、恐怖にふるえて泣いたこともある。
「どこかに人がいると思うけど」
石と岩ばかりの世界をイドは歩きつづけた。
夢の世界には必ず一人は、人がいる。
見た目は様々で、人ではない奇妙な姿をしている者もいる。イドもまた奇妙な姿をしている者の一人だ。見た目は少女だが、人間とは違う。男でも女でもない身体だからだ。しかしイドは、夢の世界の自身の身体が好きだった。これほどしっくりとくる身体が、他にあるだろうか?
細身の身体で、目の前に立ちふさがる岩山を登っていく。
夢の世界なので、筋力は関係ない。細い手と腕でも、楽々と岩をつかみ、登っていくことができる。なんとなく登りはじめた岩山はずいぶんと高かったが、イドは長い時間をかけて登り切った。