私が知らないあなたを知った時
僕は一つ隠し事をしていた。
仮装だ。
仮装をすると、なんか気分が楽しくなる。
親からもらったお小遣いをためて服を買い、いろんなものに仮装をしている。
たまには作って着ることもあるけど。
最初に仮装にはまったのは小学5年生。
あのハロウィンの一日で、僕の世界観は結構変わった。
あの日、友達と仮装をしたあの日、僕はとてつもない高揚感を覚え、以来、それが人生の楽しみになってしまった。
仮装とは言うけれど、いつもアニメのコスプレやハロウィンのかぼちゃみたいな仮装をするわけではない。
むしろ、そんなのはイベントだけだ。
たまにカラオケ屋にある服を着るためにカラオケボックスに入ってしまうこともある。
むろん、女装なんて最近は抵抗がなくなった。
なので、日常でも、たまにちょっとセーラー服を着ることもある。
そして、仮装していくたびに、色々な事件や悩みがあった。
まず、これは自慢になるのかもしれないが、前に、アイドルっぽい格好で、渋谷という街のセンター街から109の通りを歩いていたことがある。
ただ歩いていただけ…いや、仮装してるからただ歩いているわけじゃないのか、なのに、
「君可愛いね。どこの事務所?」
と言われたことがある。
僕は別に女の子になりたいわけじゃなく、ただコスプレで遊んでいるだけなのだ。
だけど、恥ずかしくないように、それなりにきれいにして、ちゃんとアイドルっぽい感じで色々気を付けてたのだ。
でもやはり、そういう言葉を聞くと、とても背筋が震えた。
何か、怖かったのだ。
私は、無視して歩き続けようとした。
「君、名前は?どこから来たの?」
と詰め寄ってきたので、真剣に
「ついてこないでください」
と言ったのだが、もとより高い声であるため、圧はかけられなかったようだ。そのままそいつはついてきた。
「いやーこんなかわいい女の子いないからさあ、うち、今、女性アイドルを作ってるんだけど、どうかなって…お願い!何でもするから!」
そんなにせがまれても、僕は男の子だ。
もちろん入る気はさらさらない。
けど、ちゃんとアイドルっぽい女の子に見てもらえたということが嬉しくて、振り向いてしまった。
え…どうしよ。
とにかく口実をつけて、逃げださなきゃ!
えっと…そうだ!
「お気持ちは嬉しいのですが、私、今から大事なお仕事があるので、ごめんなさい」
と全力の笑顔で言って、走って逃げた。
今考えると、あれは、無言で逃げてもよかったんだなとは思ってる。
そして、調べたら、ああいう勧誘は詐欺まがいなこともたくさんあるから、気を付けたほうがいいとも知った。
東京はこわいとつくづく感じた。
とここで、一か月前の話に行こう。
僕は高校では空気みたいな存在だから、寝るふりをして、近くの人の話を聞いている。
「そういえばさあ」
と大きな声を出したのは、同じクラスのリーダー格ともいえる前田くん。
いつも輪の中心にいて、話に花を咲かせている。
とても背が高く、すらっとしている。
物理や数学など理系科目が得意で、その反面、卵焼きが作れないほど不器用なのがコンプレックスだそうだ。
おっと、前田くんの説明はここまでにしよう。
結構いろんなとこの話を聞いていると、その人の特徴とかついまとめてしまう。
クラスの人のいろんなことを僕は結構知っているだろう。
そして、前田くんは続けた。
「俺の家庭教師のお兄さんが、なんかアイドルグループの所属事務所的なのやってて、全然活気づかないからって渋谷のセンター街に嫌々スカウト行かされたんだって」
「ほう…てか、お前、家庭教師やってたんだ」
「あれ、言ってなかったっけ」
「俺は前に聞いたぞ」
男子たち[坂田くんと福島くん]が色々反応する。
ほうほうなるほど、それは興味深い
「そんでさ、なんか、アイドルっぽい格好しためっちゃ可愛い子がいたらしいのよ」
「ふ~ん」
「んで、話しかけたら、警戒したのか、ついてこないでくださいって言って無視するわけ」
ほう…私もそんなことあったな…。
「だからしつこく詰め寄ったら、仕事がどうとかでめっちゃ笑顔作って走って逃げ出したんだって」
「そうなんだ…」
「俺は直接見てないけど…どう思う?」
「その子も色々大変なんだろうね…事務所とかうるさいのかな」
「まあねーおれもなんかスカウトされてみたいわーはははは」
「お前は芸人にでもなったら?…ふふ、てかさー次のシス単って―」
とたん、私の鼓動は跳ね上がった。
今の話を総合すると、
アイドル衣装の女の子がスカウトされて笑顔で走って逃げた…
それ僕じゃない?
さすがに自意識過剰かもとは思うけど、思い当たる点が多すぎる。
ちょっと前田くんに訊いてみた。
「あの…今話してたのって…いつくらいの話?」
「お、瀬川じゃん。えっと…確か…二週間前くらいだって言ってたかな?瀬川も興味あるのか…」
「いや…えっと…ありがとう」
「そっか。てゆか、瀬川も結構美男子だから、スカウトとかされそーだよな」
「えっ!えっと…あ、ありがとう」
「おーい前田―」
「はーい前田―」
そして前田くんはまたそっちの世界に入っていった。
やっぱりそうだ…
今言ってたのは、僕のことだった。
でも、本当にアイドルスカウトだったんだな…
てか、近いのか遠いのかわかんないけど、そんなところでつながっていたなんて…世界は狭い。
そんなことを思っているが、心臓は跳ね上がっていて、とても心は複雑にぐちゃぐちゃしていた。
そしてその次の次の日、学校が終わると僕は、人けのない公園でセーラー服に着替え、学校の最寄り駅に向かった。
そういうときは、駅まで小道を使う。
ちなみに、仮装モードのときは、コミュ力が少しだけ上がる
そして、駅にやっと着いたと思ったら、もう電車が来る時間ではないか!
ちなみに僕の最寄り駅は本数が少ないので、一本逃すと20分後とかになるから、なんとかこれに乗らねば!
そして走って、飛び乗った。
すると、目の前にいたのは前田くんだった。
僕はとても気まずかった。
何としてでも、目を合わせないようにした。
でも、そこでまた不幸なことが起きたのだ。
ぎゅうぎゅう詰めで混んでいる電車が、急停車したのだ。
僕はどうしても体を支えきれず、意図せずに前田くんに寄りかかってしまった。
前田くんは持ち前のコミュ力があるので、すぐさま僕に、
「大丈夫ですか」
と声をかけてしまった。
僕は、一瞬彼の眼を見てしまった。
すぐさま視線を逸らしたが、遅かった。
「あれ、もしかして、瀬川?」
「えっ!ちっ違いますよ…」
「そ、そうですよね。ごめんなさい…」
そしてしばらくの沈黙があり、電車が発車すると彼はまた口を開いた。
「ごめんね、うちの学校に、瀬川ってやつがいるんだけど、すごい真面目ないい子でさ。それでいて、超かわいいの。本当に男の子?ってくらいに」
「……」
えっと…僕のこと言ってる?
「だから、俺、もう、なんか、その…瀬川っていう子を女の子として見て好きっていうか…その…恋してるっていうか…なんだよね」
前田が…こんなにたじたじしてるのは初めて見た。
「だから、似てる君を見ると、妙に心が苦しくなって…君ももちろん可愛いからさ」
「…」
「なんていうか、あいつは、美少年というか、そういうことじゃなくて、何か魅力を持ってるんだよな…」
「うん」
「あ、ごめんね、いきなりこんな話して。気持ち悪いよね。でも、誰かに伝えたくって」
「そ、そうなんだ…」
「あのさ、いきなりで悪いんだけど、あ、どこで降りるの?」
「ああ、中川駅より先です」
「そうか。じゃあ、一個頼みたいことがあって…LINE交換したい。君とはなんか、とても気楽に話せそうだよ」
「えっ」
びっくりした。
てゆか、僕、LINEはクラスグルも入ってなければ、ほとんど友達を入れていない。だからと言って、ここで交換したら、正体がいつかばれてしまう。
「あの、メールでいいですか」
「うん。わかった」
そしてSMS〈?〉を交換した。
「なつって言うんだね。その瀬川って人も、夏樹っていうんだよ」
「へ、へえ、そうなんですか」
そして前田くんは、北中川駅で降りていった。
その後は僕の姿がばれることなく、家に帰った。
もちろん家に入る前に普通の制服に戻してから。
その後もなぜか、前田くんとの話は続いた。
二時間くらいずっとチャットしていた気がする。
そして、次の日学校へ行くと、前田は僕を待っていたかのようだった。
も、もしかして昨日のがばれてた!?とか色んな思考を巡らせたが、違った。
「あ、瀬川、おはよう。そうそう、昨日、瀬川みたいな女の子と会ったんだよ」
「へ、へえ…そ、そうなんだ…」
「瀬川も美少年だけど、その子も結構可愛かったぞ。」
「ほう…」
あ、はい、それ僕、いや、私ですね。
「ついでにメアド交換もしたんだ。いやあ、最初間違えちゃってさあ、他人の空似ってやつ?結構そういうのあるんだね」
「そ、そうなんだね」
「で、なんか瀬川となんとなく親近感わいたから、これあげる」
そして前田くんは、抹茶の飴を取り出して、僕に差し出した。
「これからもよろしくな、瀬川」
「う、うん!」
単純に嬉しかった。
それから「なつ」という女の子の誤解を解いていない。
そして、前田くんと瀬川夏樹には、何も進展は特になかった。
そして季節は秋になり、10月になった。
さあ、今年のハロウィンはどんな仮装をしようかな。
・本当にああいうスカウトってあるんですかね。
なんか、そういった世界が信じられないです。
・学校の人で、誰とでも…それこそ、部活の試合で相手になった女子とか…にその日にすぐLINE交換するというとても勇敢で軽い男の子ないたので、とても驚きました。
前田もそんな軽いやつに仕立て上げました。