プロローグ 6
『それで?…お前はなぜここに来た。答えろ。だが返答次第ではこやつら同様に八つ裂きにしてやる。』
足元に散らばるかつて人だった肉塊を鼻先で示しながら狼は問う。
大きく損傷して赤い肉を覗かせた死体。光を失った眼。だが赤ずきんはそれらを見ても僅かに顔をしかめただけで、睥睨する狼の顔を正面から見つめ返した。
「私は…あなたに助けを乞いに来た。」
赤ずきんは狼の足元に跪き、頭を垂れた。
「私達の村は今、教会に占領されているの。教会が支配圏を広めるための戦争に穀物や家畜が必要だと言って、村の蓄えを全部持っていかれたわ。このままでは村は冬を越せない…
長年あなたを省みて来なかった癖にこんなことを頼むのは卑怯だと思う。けれどどうかお願い。その力で教会軍をこの村から追い払って…!」
『ハッ! …呆れた事を!』
狼は怒りの唸り声を上げた。
『人間同士の諍いくらい、人間同士でやればいい!! 大人しく閉じ籠っているだけの私を巻き込むな! 私はお前たち村人にあっさり捨てられたせいで、人間の頼みを聞くことにとうの昔に懲りたんだ。』
「縄張りであるこの村を荒らされるのは、あなたにとっても不愉快な筈!」
『構いなどするものか!人同士潰しあってくれれば、人臭さが幾らか薄れて気分も良くなるだろうよ。
…それに一度は教会勢力を追い出せたとしても、こんなに小さな集落では絶対的な権力をもつ教会を相手に戦い続けることはできないだろう。お前の頼みは聞けない。
お前たちや私がどんなに奮戦しても多勢に無勢、皆殺しにされるのが落ちだ。そんなことも分からないのか。』