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向井 楓①

生きたい…



会いたい…


会いたい…


会いたい…


会いたい…



「……あ…い……た…」


「か、かえで??楓?!楓?分かる?楓!」


「い……ま、ま?ママ?あれ?」


「かえでーーーー!!」


「ママ!いたた!あれ?あれれ?」


…………


『生存率10%以下、たとえ成功しても、術後意識が戻らない可能性も十分に考えられる。』


中2の夏、脳に出来た腫瘍を取る手術が必要だった私は、少しでも生存率を上げるためにと、家族と共にその道の権威ある先生がいるというフランスへ渡った。


検査や説明等のため、しばらくは家と病院を何度も行き来する生活が続き、実際に手術を受ける事が出来たのは、春を迎えた頃だった。


無事に手術は成功したものの、私はずっと昏睡状態が続き、奇跡的に目が覚めたのは、蝉が鳴り止まぬ8月に入った頃だった。


「蝉、セミか、ふふ。まさか、起こしに来てくれたの?」


…………


命に関わる手術を受けるため、フランスに行く事になった件に関しては、先生にしか伝えていなかった。


高い確率で死んでしまうかもしれないなんて、友達にも言う事は出来なかったから。


学校側には、9月に入ってから引っ越した事だけを伝えるように、親からも頼んでもらっていた。


病気のこと、手術のこと、未来のこと、不安で不安で仕方がなかった。

何度も何度も泣いたし、感情的になって家族に酷くあたった事もあった。


だけど、学校では普通に過ごすように心掛けた。

友達や部活仲間に心配されたりしたら、何かが一気に壊れてしまいそうで、怖かったから。


病気のことは、そこまでひた隠しにした私だったけれど、この気持ちだけは、どうしても隠す事が出来なかった。


この気持ちを伝えずに死んでしまうなんて、まさに、死んでも嫌だったから。


…………


中学に入学して間もない頃、帰り道を1人で歩いていると、サッカーボールを抱えて走ってくる少年が、私の横を凄い速さで通り過ぎていった車にはねられそうになり、とっさに横っ飛びで避けたのはいいものの、避けた先が水の張った田んぼで、足を取られたまま、動いては倒れ、動いては倒れを繰り返していたので、道に落ちていた木の棒を差し出して助けてあげた事がある。


長い独白になったけれど、私にとって初めての恋がここから始まった大事な瞬間だったので、どうか目を瞑ってほしい。


それにしても、助けた方が恋に落ちる、なんてね、普通は逆だろうと思うけれど、彼のあのハニかんだ笑顔と、泥だらけのくせして「送るよ。」だなんて、おかしくて、可愛くて…ドキドキした。


それから、特に発展はなく、病気の事が発覚してからも、普通のクラスメイトとして過ごし、教室で彼の

姿を見る、部活で走り回る彼を見ている、それだけで幸せだった。


手術に向けての段取りが概ね決まり、1学期が終了してから引っ越す事が決まってからは、一時は気持ちを伝えるべきか否かで迷っていたけれど…。

私は後悔したくなかった。


…………


命がけ。


その言葉が、今の私以上に似合う人はそう多くはないだろう。

何だか、映画の主人公にでもなった気分だ。


もう、時間がない。


一瞬でもいい。あの人の横に並ぶチャンスは、今しかない。



「あなたの女になりたい。」



か、か、か、かっこつけちゃったぁぁぁぁぁぁ!

私、こ、こんなキャラじゃないんだけど?!

ただの地味眼鏡ですけど??

映画の主人公のくだり??アレでなんか変なスイッチ入っちゃった?!

ちょーしこいちゃった?!

ヤバいよこれ!ど、どしよ!どうしよ!

てか今、「うん」って言わなかった?!

言った?!言ったよね?

き、聞けなーい!顔見れなーい!

いや、いいの。うん。

例え断られても、いいの。

少しでもこうやって彼の横に並んでみたかっただけだから。

目標は達成、よ。うん。

けど、けど「うん」て言った…よね?

あれ?さっきもここ通った?あれ?

あ、止まっ…



「僕のものになってほしい。」



死んでもいいと思った。

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