文化祭 2日目
今回長いです。
ご注意を。
二日目の文化祭、朝、教室に顔を出した後、そのまま部室に向かってみると、『本日握手会中止』とのお知らせが張ってあった。
理由はメンバーの体調不良により、と書いてあったが、蛍光ペン満載でやけにポップで元気いっぱいに書かれているので、誰が見ても嘘と気づく仕様だ。
昨日部活メンから来ていたお怒りライン達を全面的に無視していた僕らは、嫌な予感しかしないので入るのを止めて教室に戻ろうとしたのだが…敏感に気配を察知した美咲達に連れ戻されてしまった。
夕「グッドモーニングエブリワン!」
楓「ボンジュール ア トゥース!」
美咲「さ、爽やかに挨拶してんじゃないよ!部長、言ってやんな!」
深雪「ええ。セミ君、楓ちゃん、昨日はずいぶんとお楽しみだったようね。人嫌いな私があんなに頑張っていたのにね。さてさて、どう責任を取って貰おうかしら…ね。」
普段掛けていない眼鏡をクイッとさせて言う部長。
このセリフの為だけに用意したのだろうか、そのセンス、嫌いじゃない。
夕「部長、あなたが○×の札を構えて接客をする姿、健気で、とても美しかったですよ。ただ、Yesの場合は頷いている様子が目立っていたので、少し、○の札が泣いているように感じました。その点に注意さえすれば、今日のあなたはもっと輝くでしょう。まるで、光の鱗粉を撒き散らす漆黒の蝶のごとくね。僕は、期待していますよ。クイッ。」
深雪「!!!」
美咲「ちょっ!ちょっとー!!部長をたぶらかすんじゃないよー!!あっぶねー!部長もさー『私頑張る!見ててね!』みたいな顔すんじゃないよー!そして夕、楓!今日は昨日みたくいかないかんね!握手会は中止だよ!今日は私も楽しむんだかんね!」
友紀「危なかったー。部長が珍しく『今日は部長として、私がセミ君に説教する。』なんて言うから任せたらこれだもん。危なかったー。楓ちゃん!昨日は十分満喫したでしょ??今日は私達が楽しんだっていいでしょ??」
楓「な、なによ。友紀ちゃんはアイドル性があるんでしょ?やりなよアイドル!私は夕君だけがいいもん!みんなの友紀ちゃんとは違うもん!」
友紀「なっ!」
遥「なるほどね。楓ちゃん、認めるわ。昨日はね、確かに私達は調子に乗っていました。えぇ、それはそれは気分が良かったですわ。ただね、神田君とあなたが去った後の私達の虚しさがあなたに分かる?急に世界が暗くなったのよ?光が消えたの。そこからは地獄だった…。私達はね、笑顔を貼り付けたただの人形になったの。寂しくて、辛くて、惨めだった。だから…もういいでしょ?愚かにも調子に乗ってしまった罪ならばもう償ったわ。だから、少しくらいいのではないかしら?私達にも見せて頂きたいの、神田君と歩く、文化祭の輝きってやつをね。いかがかしら?」
楓「どんな口調よ…そしてずいぶん勝手な…」
美咲「遥、よく言ってくれた。さすがに学年トップね。楓、観念しな、このままじゃ私達は終わるよ。なんか、終わるよ。」
友紀「終わりね。そうよ、終わるんだよ。終わり。」
楓「なにが?急に発言のレベルが下がったね。ニュアンスで乗り切ろう感が凄いよ。はいはい、じゃ30分ね。夕君、悪いけど、諦めよう。」
深雪「1時間。」
楓「は?部長も?!」
夕「おい高志。」
高志「1時間だ。」
夕「どゆこと?!」
結局、間を取って45分間それぞれとデートする事になった。
別にいいけど、なぜ部長とのデートもあるのかが解せない。
高志が「頼む。機嫌悪くなったら俺対処出来ない。頼む。」と泣きつくので引き受けたけど…。
あーあ、せっかく今日も楓ちゃんと二人っきりになれると思っていたのにな…残念。
でもね、やるからにはとことん楽しむ男、神田 夕、英語読みだどユーカンダ、僕は勇敢な男、どんな試練も乗り越える男。
楓「エロい顔したら即終了だからね。」
夕「任せろってんだい!」
高志「いいテンションだ。」
楓「不安。」
〜 一人目 友紀 〜
「夕君いこー♡」
スタートの掛け声と共に秒で腕を組まれる。
「わっ凄い!圧が幸せ!」
楓「むむ?」
「ハッ!夕君!顔!気をつけて!行こ!終わっちゃう!」
「お、おけ!しゅっぱーつ!」
あまりのおっぱい力で危うく即終了になる所だったけれど、それでは友紀ちゃんに申し訳無いので逃げるように出発した僕らは、興味は無いけれど取り敢えず美術部の展示室に入ってみた。
「夕君見てあれ、目からヘビ出てるよ、どんな心境だろね。」
「あれな、簡単。『花粉症』だよ。タイトル見てみ?」
「…え、『未来』って書いてる。全然違うじゃん!あはは!」
「マジか!絶望的過ぎない?病んでんなー。」
「ねぇねぇじゃあれは?自転車に乗った子が坂道下だってるやつ。」
「友紀ちゃん、あれは深いよ。ズバリ、『人生』。間違いない。」
「夕君、夕君、『坂道』だってさ!あっははは!」
「ウハハハ!やられたー!素直だねー作者!絶対いい人だよね!」
「ほんとだねー♡あー♡楽しいなー♡」
「楽しいねー、次さー写真部いこ?」
「うん♡夕君だいすきー♡」
写真部の展示でも意味深な写真を見つけては二人であれこれ想像して笑い合った。楽しかった。45分はあっという間だった。
友紀「あぁーもう終わりかー。寂しい。」
遥「じゃー次私の番ね!神田君、行きましょ?」
〜 二人目 遥 〜
「神田君、こ、恋人繋ぎし、しませんか?」
「いいよ!ははっ遥ちゃんが急に緊張しだした!かわいー。はい、手。」
「あ、あ、ありがと!嬉しい!嬉しい!どうしよ、手汗ごめんね!ごめんね!」
「いいよ?いくらでもビチャビチャしな?遥ちゃんがさ、ビチャ手が恥ずかしくてもさ、それでも手を繋ぎたいって気持ち、凄く嬉しい。全然嫌じゃない。嬉しいだけ。」
「もう!神田くんてばー♡なんであなたはそんなに…もうっ♡もうっ♡大好き大好きだいちゅきー♡」
「うわぁデレデレだー。告白前までの遥ちゃんはどこ行ったんだろね!こんなに可愛い人だったなんてなー。世界中がびっくりしているよ?」
「えへへ♡実は自分が一番驚いてます♡ねぇ神田君、あのね?恋人呼びして?」
「ん?なるほどー…じゃー…はるちゃん♪」
「ぐはぁ♡すごいー♡あぁ♡ゆーちゃん♡」
「あははっ!その呼び方ははるちゃんとおばーちゃんくらいだよ!あははっ!」
「あはは♡ゆーちゃん♡ゆーちゃん♡」
「ずいぶん若くて可愛いおばーちゃんだねー。」
終始デレてた遥ちゃんとの時間は校内をグルグル回っただけで終わった。
何にも中身の無い会話ばかりだったけれど、とにかく可愛いかったな。
遥「ゆーちゃん…ゆーちゃん…。」
美咲「はいはーい!やっと来た!夕!行くよ♪」
〜 三人目 美咲 〜
「美咲、僕ちょっと疲れた。休めるとこに行きたい。」
「え、じゃー家くる?」
「ダメだよ、もっと疲れる事する気だろ。」
「バレたか。仕方ないなー。じゃ夕、膝枕してあげっか?」
「嬉しいけど、どこも見なくていいの?」
「うん、いいよ。側にいて?」
「…うん。」
なんだ?今の美咲…ドキッとした…。
さすがに外は寒いので、体育館の2階観覧スペース(本来、文化祭中は立ち入り禁止だが、実行委員特権で入れるのだ。広いスペースに二人だけ。お得だ。)から、ダンス部の踊りを見ながら僕は膝枕をしてもらっている。
「寒くない?夕。」
「うん。美咲は?」
「全然。幸せなだけ。」
「…美咲、今日の感じいいね。」
「ふふっ。そう?なんか…なんだろ。」
「なんだろね?変なの。」
「私達、長いけど、今日みたいな完全な二人きり初めてじゃん?」
「そうだなー。」
「なってみて思ったけど…私って、実は大人しい人なのかも。」
「それな。静かで…なんか暖かいよ?」
「…ねぇ夕、私分かったかも。私さ、愛しちゃったかも。恋、越えちゃったかも。」
「えー…さすがに重いよ。」
「じゃ、軽くしていい?」
「ん?どーやっ、、っんん?」
ステージを見る方向に顔を向けて膝枕をしてもらっていた僕だけど、言っている意味が分からず、思わず顔を美咲の方へ向けた。
そして、そんな僕に覆いかぶさり、その口を塞ぐようにしてされた突然のキス。
否応無しに美咲が僕の中に入ってくる。
舌が絡む度に甘く吐息が漏れ、混ざりあった唾液が糸を引く…とても卑猥だ。
短く息継ぎを挟んで、二度三度と繰り返さる熱いキスに、抵抗する気も起きずされるがままの僕は完全に乙女。
奪われるってこんな気持ちなんだ…。
ドキドキがやっばい。
顔があっつい。
息が乱れる。
「はぁはぁ……さいっっっこう。」
終わったみたい…
なんか…まだ頭がクラクラするけれど、なんとかゆっくり体を起こした。
「美咲…お前ちょっと…凄かったよ今の…。」
「はぁ…ねぇ、軽くなった?」
瞳を潤ませ、覗き込むようにして聞いてくる美咲。
荒めの息遣いと、少し乱れた髪が濡れた口元にくっついている…
何この色っぽさ…
「えー……分かんない…熱い。」
「よかった?」
「……ひみつ。」
「ゆうー♡」
そう言っていつもの感じで抱きついてくる美咲。何なの?何なんだよこれー!コイツ…だめだ、これ以上はもたない!
「終了。」
「は?まだじゃん。」
「もうムリ。レッドカード。」
「あ、分かった。惚れたね?惚れたねこれ。」
「うるさい。じゃーな。」
「え?ほんと?ねぇ待ってよ!ねぇ!ねぇーってばー♡もっかいしよー♡」
するかバカ。はぁ。純情な僕の心を弄ばれてしまった。僕は勇敢な男なのに…タジタジだ。心に楓ちゃんという無敵のストッパーが居てくれて助かったよ。美咲は特にだったけど、3人とも凄かった。僕の口から「す」と「き」が出たらもう止まらないんじゃないか?揺れに揺れた。ダメだ。たった45分でこれだ。デートは金輪際禁止にしよ。この子達強すぎ。
つーかまだあと一人いんのかよー。
もう勘弁して。
〜 四人目 深雪 〜
なんでかなー。文化祭なのに、連れてこられたのは何故か中庭のベンチ。
日が当たってるからまだいいけど少し寒い。
絡みつかれている左側半分は暖かいけれど…
「部長。何で外かなー。少し寒いよー。」
「お姉ちゃんでしょ。」
「お姉ちゃん。はぁ…寒くないの?」
「いいの。寒いからいいの。温いの感じられるから。」
「そうなの?一体これなんのプレーなの?」
「んー♡セミ君だー♡スリスリ♡スンスン♡」
「答えないかー。そして何で匂い嗅ぐの?」
「はぁー♡セミ君♡セミ君♡スンスン♡はぁ♡」
「答えないかー。いーけどさー。」
「ねぇセミ君。お姉ちゃんの事好き?」
「…あたりまえじゃん。」
「あぁ…最高♡」
「ねぇ、なんか今日変だよ?」
「だって…他の子いないから。今は私だけのセミ君でしょ?」
「そーだけど。答えになってない。」
「セミ君を独り占め出来るのが最高なんだよ?君は私の特別なんだから。」
「特別…?」
「…突然、パパが居なくなったの。子供の頃。私、それからおかしくなった。でも、セミ君が現れた。君は私を、私に戻してくれた。だから…あなたは特別。」
「…そう…それは…寂しかったよね。頑張ったね。」
「うん。」
「じゃいいよ、甘えて。お姉ちゃん。」
「セミくーん♡セミくーん♡」
「ヨシヨシ。高志は好きか?」
「大好き♡」
「へー。僕はそーでもない。」
「うふふ♡嘘つき♡」
部長は、頑張り方が下手なんだ。
どんな別れ方かは知らないけれど、部長の過去は僕と泉の境遇に似ている。
だから、僕と部長は最初から気が合ったのかもしれない。
親がいない寂しさは、あまり他人とは共有出来ない物。
僕と泉は年が近いから、上手に傷を舐め合う事が出来たんだ。
部長は弟と年が離れていて、弱さを見せないように殻を被ったのかな。
辛かっただろうな。
だから部長は僕に弟を求めたのかもしれない。
弱さを見せられる弟がいて欲しかったのかもしれない。
ただ、部長はそれだけじゃ収まらないほどの何かを僕に向けてくるので、正直よく分からない部分が多い。
それでも、僕が必要なら頼ってくれたらいいか。
僕に何が出来るのかは分からないけれど。
甘える部長を撫でていたら時間になった。
…………………………
部室にて
夕「社長。神田レンタル彼氏店、全ての業務終了致しました!」
楓「はい。お疲れ様でした店長。クライアントも大変満足なご様子です。特に美咲ちゃん。あなた、さっきからずっと私の目を見ませんね。何かありましたか?いえ、ありましたね?そうですね?」
美咲「………特に。」
友紀「やった?」
美咲「や、やってない!キス、キスだけ!」
友紀「はぁ?!ちょっと何で?!どして?!ねぇ!ねぇ!」
遥「ずるい!ずるい!ずるいー!」
楓「キスね…詳しく。」
美咲「そ、その……濃い味…」
友紀「はぁ?!お茶みたいに言ってんじゃないよ!この裏切りもの!」
遥「ど、ど、ど、ど、」
楓「遥ちゃん、落ち着きなさい。で、どーする気?美咲。私のいない所でさ。私がこのまま黙ってあなたを、、、あ、んっんぐっ♡あっ♡夕く、♡だ、めぇ♡はぁ♡ゆっ♡夕君てば♡て、ばぁ♡」
夕「っと。楓、もういいだろ?終わった事だから。ね?もっとする?」
楓「へ、へへ♡美咲ちゃん分かった?ダメよ?ね?へへへ♡」
美咲「…上書き………。」
友紀「ちょ…は、遥ちゃん?!大丈夫?!」
遥「………。」
放心状態で友紀ちゃんにもたれかかる遥ちゃん。ちょっと刺激強すぎちゃったか…
深雪「たかくん…私もして?」
高志「……むり。」
深雪「いくじなし。」
高志「………。」
ガラガラッ
泉「あ!お兄ちゃんいた!すげー探したー!」
夕「おぉ、よく分かったなー。」
楓「泉ちゃんいらっしゃい!こっち来て?お菓子あげる。」
泉「さんきゅー。つかさ、何この感じ。変な空気。あ、はじめまして!お兄ちゃんと、おねーちゃんの妹の泉です!来年は私もこの部活に入れてもらいます!よろしくお願いします!」
深雪「よ、よろしくです!部長です!」
遥「あなたが、あなたが泉ちゃんなのね!感激!ど、どうしよう…可愛い過ぎる!」
美咲「ねぇ泉ちゃん。私、ディープした。ディープ。すげーやつ。夕がね、タジタジだった!一歩先行った!」
泉「あ?おねーちゃん。それで?」
楓「はい!バッチリ上書きいただきました!ちょーすげーの!一歩先どころか、さらに突き放しました!」
泉「ならよし。お兄ちゃん、さすがね。」
夕「うん。泉、もうお兄ちゃん疲れた。遥ちゃんと行ってきて。遥ちゃんお願い。」
遥「いいの?めちゃくちゃ嬉しい!」
泉「なんでよ!お兄ちゃん?お兄ちゃん!お兄ちゃんてば!」
夕「うるさい。」
泉「なんでー!!」
その後もギャーギャーとうるさい泉を遥ちゃんに丸投げして、僕らはいつものように部室でまったりしていた。
と言っても、美咲と友紀ちゃんは喧嘩してるし、高志は部長に謝り倒していたけれど。
戻ってきた頃には遥ちゃんにすっかり懐いていた泉。
ありがとう遥ちゃん。
その後は、泉のあまりの可愛いさにやられてた部長とも仲良くなっていたし、よかったよかった。
宴もたけなわ、程なくして僕らは帰路についた。
自宅に戻った僕らは通常運転。
お風呂でキャッキャッしたりゲームをしたり。
そして今は、ベッドの中。
先に眠った二人に挟まれながら、昨日と今日を回想していた。
色々あった。
本当に色々あった。
やばかった。
楽しかったけど、その一言じゃ表わせない程に僕の心は忙しかった。
彼女達は今頃どんな気持ちでいるんだろう。
考えると、苦しいな。
やめよ、涙出ちゃう。
僕の場所は、ここ。
何よりも大切な二人の側が僕の場所。
流されやすい僕だから、忘れないようにしないとね。
さ、僕も寝よっと。
後2話で完結します。
ラストまでよろしくお願いします!




