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スパとゲッティ



「ゆうくん、ごめんね?」



「…だめ。」



「寂しいなぁ…こっち向いて?」



「やだよ。僕は怒ってるんだ。」



「でも裸んぼーだよ?」



「……裸んぼーで怒ってるんだ。」



「私も裸んぼーだよ?」



「…………。」



「こっち向きたくないの?」



「………向きたい。」



「もっとくっついちゃお。」



「はぅ…。」



「ねぇもう許して?キスして?ね?」



「……怒ってるからね?怒りながらなんだからね?」



「うん♡いいよ♡たくさん怒って?」



「こ、このー!怒ったぞぉー!」



「ゆうくん♡きて♡きて♡」



……………………



ハーレム部…嫌だなー…。



帰宅途中ずっと考えていたんだけど、やっぱり僕はハーレム部とやらが気に食わなかった。



「今日あやめちゃん家で勉強会!ご飯いらない!夜迎えに来て!」



自宅に到着した僕達と入れ違うようにして泉が出掛けて行った。



よし。泉もいない事だし、この際夫婦喧嘩になってもいい!僕の気持ちもちゃんと言いたい!と鼻息を荒くして楓ちゃんに抗議したんだ。



「僕は楓ちゃんが居ればそれでいいんだ!何であんな事するの?僕は嫌だからね!」って。



そしたら、「ちょっと来て。」って。


僕の部屋に連れて行かれたんだ。



僕は怒っていたんだよ?


けど、裸になっていたんだ。


…不思議。



僕は怒っていたんだよ?


けど、凄く夢中になっていたんだ。


…不思議。



僕は怒っていたんだよ?


けど、今はなんか、幸せで一杯。


…不思議。



……………………



「夕君…幸せ。」



「僕、怒ってたのに。」



「もう怒ってないの?」



「…怒ってほしい?」



「今みたいのなら大歓迎♡」



「ちょっと休んだら怒れる。」



「あはは♡でもご飯作らないとね♡」



「ご飯食べたら怒れる。」



「もう♡おこりんぼさん♡泉ちゃん迎えに行かなきゃでしょ?」



「泉め。」



「何食べたい?」



「かえ、、、」



「私以外で。」



「えー…じゃー…あったかい物かな。」



「だいたいそうじゃない?じゃカレーにしよっか。」



「具、大きめに切ってね。」



「うん♡」



私が食事を作っている間、夕君はテレビを見ている。


いつもなら泉ちゃんが私の隣りにいて、喋りながら作っているけれど、今日は一人だ。


このシチュエーションはあまりないから、新婚夫婦みたいで嬉しいな。


そういえばさっき夕君怒ってたなー。


激怒とかじゃないけれど、不満だ!って感じだった。


ハーレム部はお気に召さないんだね。


けど、あの子達の想いは強いからさ、管理していないと不安なんだよね。


私が。


だから夕君にはごめんだけどさ、私の為と思って許してね。


さっきは夕君が欲しくなっちゃって有耶無耶にしちゃったけれど、ご飯中にでも謝ろっと。



「出来ました!」



そう言うと、スプーンとか飲み物をセッティングし始める夕君。


私がお皿に盛り付ける間には準備が出来ている。



「「いただきまーす。」」



「わっ!ジャガイモほくほく!」



「具が大きめだからさ、圧力鍋使ってみた。怖いねあれ、けっこードキドキした。」



「プシューってなるもんね。ヤケド心配だからもう一生使わないでいいよ。」



「ダメだよ!あれがあるから今日のカレーも短時間で出来たんだよ?使いこなすんだから私。」



「そう?僕も後で安全な使い方調べとく。」



「うん♡そだ、美味しい?」



「あ、ごめん美味しい!圧力鍋の事で頭一杯だった!あはは」



「よかった♪夕君さ、コロッケ以外は何が好きなの?」



「そうだなー…なんだろなー…。あ、焼きそば!」



「え、そうなの?この一ヶ月で一度も食べてなかったよね?」



「あとミートソースのゲッティ。」



「ゲッティって言う人初めて見た。」



「あとナポリタンのスパ。」



「それはナポリタンで良くない?スパいらなくない?あとスパとゲッティはセットだから。」



「面白い。」



「ちょっと興奮した。」



「「アハハハッ」」



「いやいや、夕君、焼きそばの話だけど。好きなの?」



「好きだよ。目玉焼き乗ってたら最強。」



「じゃ明日作るね♪」



「え、いいの?緊張する。」



「あはは、安上がりだねー助かる。」



「楓ちゃんは?」



「ねぇ夕君。今は何か呼び捨てにされたい気分だよ。」



「楓、星見に行かない?」



「話題も変わるの?!」



「変わるよそりゃ。ロマンティックになるもの。」



「発音も良くなるのかー。あ、ハーレムの件だけど…ごめんね。」



「……僕さ、書道家になろうかと。」



「何よ急に。」



「神田流ってね。今思いつきました。」



「素敵ね。でも夕君、字はふつーだよね?」



「下手うま。もうね。自信しかない。」



「そーでもないよ?絵の方がうまくない?」



「絵もいいね。何でもいいんだ。自宅で出来れば、何でもいい。」



「そーなんだ。夢があるのかと思った。」



「ねぇ、楓。想像して?僕の仕事場にね、君が時々お茶を持ってくるんだ。赤ちゃんを抱っこしながらね、パパーお疲れさまーって。」



「それ、言いたい!」



「でしょー?僕はね、赤ちゃんをあやす君を見ながら、仕事をするんだ。すくすくと育っていく子供と、愛する君を眺めながら。『あ、また笑った、あ、何か喋った!』とか言いながらね。微笑ましいでしょ?僕は、そんな毎日を送りたいの。すっごくすっごく幸せなんだ…。それが、僕の夢だよ。」



「嬉しい。嬉しいよ夕君…。」



「ふふっ。ねぇ楓。君が僕の夢だよ。君が居てくれたら、それでいいんだ。」



あっ…



「夕君…ごめんなさい…ごめんなさい。私…私…。」



「うん。ハーレムの件、もういいよ。今更変えられないもんね。なんとなく気持ちも分かる気がしたよ?きっと好き勝手されるより部にした方がまとまるもんね。ただ…君が喜ぶなら皆を甘やかすけど、あんまり気は進まないんだよ?そこは分かってね。」



「うん…うん…ごめんなさい…。」



「楓、愛してるよ。」



「夕君…私、幸せすぎ。」



「僕もー。」



「…ぅん。…あ、美味しいキスだね♡」



「スパイシーだったね。」



「おかわり下さい♡」



「いくらでもどーぞ。」



……………………



嬉しかったなぁ…。



楓は食器を洗いながら先程の会話を思い出していた。



夕君が私との未来を考えてくれていた。


もう赤ちゃんまでいて…うふふ♡


そんな光景簡単に想像出来ちゃうよ♡


そうなったらいいなー♡



けど…反省しなくちゃな…。



フランスでは、ずっと夕君の事ばかり考えていたけれど、もう今は想像より先の未来だよな…。



想像は、言わば練習だ。


想像の中で、あれこれシュミレーションすれば、少しは対策が練れるもんね。



最初の泉ちゃんや美咲ちゃん達への挨拶だって、私がずっと家族やライバルを意識していたから出た言葉だったし。



でも、思えば私はずっと一人で考えていた。


一人の時間が長すぎて、いつの間にかそういう癖がついてた。



今日、初めて夕君の口から不満を聞いた。


初めは怒らせちゃったなーくらいにしか思っていなかったけれど、夕君の語る未来、私を夢だと言ってくれた言葉を聞いてハッとした。



私は夕君の気持ちを無視してた。



私の気持ちを押し付けていた。



彼女達とも円滑に進めたい私と、純粋に私だけを見てくれる夕君の違い。



高校卒業までを見据えた私の想像と、もっと先を見据えた夕君の想像。



私達はセット。


スパとゲッティだ。



相談すれば良かったんだ…。


まずは二人で考えるべきだった。


そうすれば、ちょっと違った関係があったかもしれない。



反省。



ん?なんかウロチョロしてるな…。


あ、そろそろ泉ちゃん迎えに行く時間だからそわそわしてるんだ♡可愛い♡



「そろそろ行こっか♪早く会いたいね♡」



「うん!」




今日、思いがけず体験出来た新婚生活。


カレー味のキスは、楓を少し成長させた。


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