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委員長の選択

遥「セミ君!昨日は取り乱しました!ごめんなさい!」


登校後、座席に座って早々にそう言って来たのは委員長こと遥ちゃんだ。

現在僕の座席を囲うように女子、女子、女子…女子の壁が出来ており、皆同様に謝罪の言葉を述べている。

なんだろうこれ…居心地が悪い。


夕「わかった、わかったから、大丈夫だから!そうゆー時もあるよね?…ん?あるの?あ、でも大丈夫だから!急だったからびっくりしただけだから!ほんと、ね?えっと…許して?」


友紀「あはは!夕君が謝ってどーするのよ!この状況にいたたまれなくなるのも分かるけどねー。」


遥「ほんとにごめんねセミ君。私も、皆も君のファンでさぁ…。昨日は君の話で盛り上がっちゃって…テンション上がっちゃって…向井さんがさ、握手会くらいならいいよってOK出してくれて…そんなつもりはなかったけど…なんかタガが外れちゃって…我を忘れちゃって…ほんと、ごめんなさい!」


夕「ファンって…マジだったんだ…。へー…でも嬉しい!僕は、楓ちゃんのものだから、何もしてあげられないけれど、友達としてこれからもよろしく!皆も、ありがとうね!」


遥「ありがとうセミ君!そして向井さん!楽しくやってこう!」


楓「皆ありがとう。改めて今日からよろしくね!」


そう言って爽やかに楓ちゃんが笑う。委員長を筆頭に、皆もニコニコしていた。昨日は野獣の如く襲ってきた皆だけど、いい子達ばかりのようだ。

それにしても、昨日楓ちゃんが言っていた通り、皆が僕に好意を寄せてくれていたみたい。知らなかったけれど、楓ちゃんがハブられたりは無さそうで良かった。


楓「ちょっとトイレ行ってくる。」


友紀「わたしもー。」


夕「あい。」



女子トイレにて


友紀「いい子達だよね。」


楓「ほんとにね。昨日はあれからどーだった?」


友紀「それがさ、大反省会だったよ。美咲ちゃんとなだめるの大変だったんだから。」


楓「まじかー。ありがとね。」


友紀「楓ちゃんさー直ぐに夕君のお触り許すのやめな?私が言うのもなんだけど。」


楓「そうなんだけどさ…あの子達ってさ、昔の私なんだよね。なんか…気持ち分かるからさ、許しちゃった。」


友紀「へー。楓ちゃんにもあんな時期あったんだ。意外。」


楓「意外かー。私も変わったんだなー。」


友紀「ふーん。あそこから上り詰めたんだね。凄いね。夕君の隣り、居心地はどお?」


楓「ヤバいよ。悪いけど、誰にも渡せないわ。」


友紀「ふむふむ。学校始まってから緊張感増した感じ?」


楓「分かる?昨日さ、自分がビビりで弱い事、思い出しちゃってね。ふふっ。」


友紀「夕君モテるもんねー。でも、負ける気なんてサラサラ無いんでしょ?」


楓「ないんだな、これが。」


友紀「あはは!そうじゃなきゃね!」


楓「ふふ♡さて、戻るか、私の男の元へ。」


友紀「だね、私の未来の男の元へ。」


楓&友紀「「あはははははっ」」



二人が離れた教室にて


遥「ねぇ美咲ちゃん、あなたと友紀ちゃんてまだセミ君にアプローチしているの?」


香織「それは思った!婚約者いるじゃん!どうゆーつもり?」


雫「邪魔しちゃ悪いよ。」


美咲「あー…。だよね。」


遥「え?終わり?」


美咲「いや、ふつーはそうだよなーって思ってさ。けど、好きなんだー私。夕も、楓も。めちゃくちゃ好きなんだよ。…バカなんだ私達。どうしようもないくらいにね。」


沈黙


「「「ごめんなさい。」」」


謝っていた。

少しの沈黙の後、私達は一斉に謝罪していた。

常識から言えば彼女達は間違っていると思ったし、セミ君のファンからしたら許せない行為だった。

だから、なんとなく責め立てるような感じで問いただしてしまったけれど、それを全く意に介さず、幸せそうに、優しく笑みを浮かべながら彼女は答えた。

正直、言っている事はいまいち分からなかったけれど、彼女からは犯しがたい純粋な想いが感じとれた。

その姿はとても綺麗だった。

私達の常識や憤りが一瞬で吹き飛ぶ程に魅せられてしまった。

私達は謝る他、出来る事はなかった。


美咲「いいよ別に。気持ちは分かるし。あ、夕一人じゃん!チャンス!じゃね♪」


タタタッ


美咲「ゆうーおはよー♡」


夕「なー美咲!見てくれ!カエルに見える?見える?さっきマスターから教わったんだ!」


美咲「そんなん皆できるよ!そんなに目を輝かせちゃってさ!朝からかわゆいんだから♡」


全く気にした様子もなく、颯爽とセミ君の所へ駆けて行った彼女。

取り残された私達ファンクラブの面々。

羨ましかった。

憧れた。

そして、それぞれの心に火が灯ったのを感じた。

頷き合い、いざ突撃!っと思った矢先…


楓「わ!なにそれ!カエル?夕君凄い!どーやんの?私もやりたい!教えて!」


友紀「あれ?こうか?違う、こうか?」


夕「ベイビー!君は何ていいリアクションをするんだ!いいよ!教えてあげる!こっち来て!膝に乗って?」


楓「よいしょ♡」


夕「そそ、お姉さん指がここ。そう!ほらできた!」


楓「うわ!できた!かわいー♡」


友紀「次わたしー♡よいしょ♡」


夕「こーだろ?違う、えーとそう!できた!」


友紀「やったー♡かわいー♡」


美咲「次は、、、」


夕「美咲はダメ。出来るんでしょ。」


美咲「なんで、なんで私って…」


楽しそう!楽しそう!楽しそう!

……出遅れた。また出遅れた。

私達は羨望の眼差しで見る事しか出来なかった…。


遥「かっこいいね…あの子達。」

香織「かっこいい。」

雫「うん。」

遥「私、行くわ。」

「「えっ?!」」

遥「ファン辞める。全力出す。」

「「えっ?!」」


キーンコーン♪カーンコーン♪


遥「うわっと。」

「「ど、どんまい。」」


水野みずの はるか

学年トップの成績と、均整の取れた顔立ちやたおやかな性格は、和服の似合いそうな大和撫子と言われている。

男子からは高嶺の花と思われており、今まで恋人のいた経験は無い。

自身も恋はまだ早いと思っている節はあったが、入学早々から夕に惹かれていた。

ただ、恋を自覚したのは初めてだったので、どうしたらいいのかが分からなかった。

偶然にも、同じ想いを秘めたクラスメイト達が何人もいる事を知ってからは、彼女達と夕の話で盛り上がるだけで満足していた。

2学期はもう少し仲良くなれたら…そんな期待を抱いた所へ、急に浮き出たフィアンセの存在。

残念とは思ったけれど、諦める他無いと思った。

昨日、思いがけず夕の手に触れた。

我慢出来ずに抱きしめてしまった。

婚約者から与えられた、思い出作りのプレゼントとは分かっていたけれど、否応なしに燃え上がる気持ちに逆らえなかった。

一度は反省したものの、美咲との会話や行動を見て彼女は知った。

行動する事の大切さ、傷つく事を覚悟する事で得られる幸せがあるのだと。

『叶わなくたっていい、私もやれるだけやってみたい。』

学業優秀な彼女が、頭ではなく心の選択に従った瞬間だった。

ただ、昔からタイミングが悪い所が彼女にはあった。

チャイムに邪魔された彼女は、次の休み時間には話しかけに行こう。

そう誓ったのだった。

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