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飯塚 高志と藤崎 深雪①

夏休み登校日、放課後、校舎裏にて


「佐伯先輩、嬉しいけど、俺彼女います。だから、すいません。」


「知ってる。藤崎さんでしょ?うまくいってないって聞いたけど、違うの?」


…やめてくれ…違うんだ…違うんだ…


「…それは、違います。俺達の関係は傍から見たら確かに…その…いえ、とにかく関係は良好です。だから、すいません。」


「…分かった。けど、無理しないでね?私もダメ元でコクったし、気にしないでいいから。何かあったら相談して?ただ、あの子…私達もどう接していいか分からないから…アドバイスは自信ないけど…。聞くだけなら出来るし。ま、今日はありがとう!じゃー…またね!」


「ありがとうございます。本当に、すいませんでした!」


ポンポンッと肩を叩いて先輩は去って行った。なんか…励まされてしまった。


………………


俺は 飯塚 高志、公立青海あおみ高校に通う1年生。中学まではサッカー部で、スポーツ推薦で別の高校から誘われたりもしたが、俺は青校を選んだ。家から近いし、サッカーにそれ程情熱があった訳でもないから。何より、セミ…神田 夕という親友とつるんでいるのが一番楽しかったからだ。


先程、告白を受けた。高校に入ってから3回目の告白だ。俺は、昔から割とモテる。原因はおそらく顔だ。家系的に、俺の家族は皆整った顔立ちをしている。最近は背も高くなってきて175cmを超えたあたり。それも要因の1つだと思う。背は今よりも低かったが、中学の頃も年に数回くらいの頻度で告白を受けていた。なので、贅沢な事に彼女が居なかった時期はあまりない。ただ、常に受け身だった俺にとって、熱中出来るような恋は今までになく、長く続いた事もなかった。だから、中2の時に親友がした恋愛には驚いたし、憧れた。まぁ、あの時のアイツは見ちゃいられなかったが…。

「ヤツの恋愛に比べたら、俺のしているコレは一体何なんだろう…。」

そんな風に考えていた俺は、一時的に恋愛に対して消極的になりもしたが、高校に入って間もない頃、俺は出会った。どうにもこうにも上手く行かない。俺の顔が、言葉が、経験が、全く通じる気配がない。そんな人に俺は出会い、恋をしたんだ。


………………


「高志。ここは地獄か?」

「あぁ。違いない。退散!」


新入生歓迎会の後、部活オリエンテーションの一環でセミと俺はサッカー部の見学のため、数十人の新入生と共に部室に案内されていた。最後尾をプラプラと歩いていた事が功を奏し、俺達は悪臭漂う地獄のような部室から一目散に脱出した。


「僕、サッカー嫌いになった。」


「だな。あいつらボールに生ゴミでも詰めてんのか?」


「さて、どうする?高志。僕はね、思い切ってね、茶道部何てどうかなって思っているよ。」


「…思い切ったな。なんで?」


「青校の千利休。なんてね、呼ばれたい。そんな年頃です。」


「ハゲじゃん。しかもあいつ最終的に殺されるからね?」


「なんと。」


「もうさ、帰宅部でよくねーか?」


「バカ!高志君はもう!バカ!ほんとにバカなんだから!高校で部活に入らなかったらいつ部活に入るの?青春は待ってくれないのよ!バカだよこの子は。お母さん悲しい!」


「お母さんごめん。俺バカだったわ。じゃさ、もう何でもいい!セミ、目潰れ、ここに部活一覧表があるから、好きなとこでストップしろ。3.2.1はい!」


「じゃーーーコレ!来いっ!茶道部!」


「まだ狙ってたんだ…それよりコレ…一番の謎部引き当てやがった…。」


「文化交流部?…何?コレ。何か分からんけど、アフリカの部族と握手している絵が浮かんだよ?」


「あぁ、俺も似たようなもんだ。族長の笑顔が忘れられんよ。でもま、行ってみっか。族長に会いに。」


そう言って、俺達は少し道を迷いつつも部室の前に辿りついた。そして、先程から何度かノックをしているのだが、返事がない。


ガラガラッ

「失礼します!」


我慢できずにセミがドアを開ける。


「あ、こんにちは!僕は新入生の神田です!入部希望です!」


「………入部?」


「はい!文化交流部ですよね、ここ。僕達は青春しにここに来ました!入れて…くれますか?」


「…ふふっ。」


「っわー。凄く綺麗だ。」


見たか?とセミが目で聞いてくる。

あぁ…見た。なんならずっと見てた。セミが扉を開けた瞬間からな。目が離せなかった。とんでもない美人がいる。少なくとも俺にはそう見えていた。


「……でも…廃部。」


「あ…廃部ですか。人数…ですか?」


「……5人。」


「なるほど。で、先輩は、部活続けたいですか?」


「………はぃ…。」


「なら、何とかします。問題ありません。明日までに揃えますので。先輩は、明日もここに居て下さい。いいですか?」


「ぇ……はぃ。」


コミュ障。あからさまな先輩に対し遠慮の無いセミ。コイツは昔からそうだった。コイツに掛かると垣根ってやつが無くなってしまう。心を開くカギでも持ってるんじゃねーか?と思うくらいに。かく言う俺もそれに助けられた一人ではあるのだが…。まぁそれは置いといて、今回の相手、美人ではあるが、明らかに他者との交流が出来ないタイプ。そんな人が文化交流部とは全くもって意味が分からないが、取り敢えず、急な訪問や提案に対し、戸惑いと恐れを抱いているのは一目瞭然だった。

そんな先輩が気になったのか、セミは急に先輩の側に行き、ちょこんと横に座って頭を垂れた。


「先輩。僕の頭を2、3回撫でてみて下さい。優しくですよ?」


は?何言ってんだコイツ…。そんなセミのおかしな行動に、先輩は目を見開いて驚いていたものの、30秒程の間をおいて、恐る恐るセミの頭に手を置いた。震えた手で何度か撫でているうちに、次第に震えは止まり、犬でも撫でているかのような、穏やかで自然な感じになっていた。


「ね、怖くないでしょ?」


頃合いをみて、セミが人懐っこい顔で先輩に笑顔を向けると、「うん!可愛いかった!」と明るく先輩は笑った。1分前の彼女とはまるで別人のようだった。


マジかよ…やっぱすげーわコイツ…。


それからセミと先輩は、「ねぇ先輩、もしかして弟か妹いる?」「えー!何でわかるのー?!」「シンパシーを感じた!あはは!」「何それー!アハハハ!」と、すっかり打ち解けていた。俺は挨拶すら出来ずに、ただただ見ている事しか出来なかった。


「神田君!私は藤崎 深雪みゆきです。明日、楽しみにしてるね!怖い人は…ダメだよ?」


「あはは!僕も怖い人は苦手ですよ?だから安心して下さい。うるさいかもだけど、僕が先輩を守ります!じゃ、また明日ー!」


「ありがとー!またねー!」


………………


その翌日、美咲と友紀を連れて行き、晴れて廃部を逃れた文化交流部はその日から活動する事になった。

俺は、当初からセミに見せる先輩の表情に心を奪われていて、入部3日目には告白をしていた。初めて自分から好きになった人、好きと伝えずにいられない人、そんな人に出会った事に浮足立っていた俺は、禄に話した事もない先輩に告白をした。今思えば、自信過剰で、調子に乗った愚か者の行いとしか思えないが、意外にも返事はOKだった。

当時の俺は、初めて自分からアタックした恋が実った事に心底喜んでいたが、実は、今現在に至るまでほとんどコミュニケーションが取れていない。

今も、深雪さんと普通に話が出来るのはセミ、ただ一人だけなのだ。


そこで冒頭に戻る。

俺と深雪さんは恋人だ。俺が告白し、彼女はそれを受けたのだから。だが、今だに会話も禄に出来ないし、カップルらしい事もほとんど出来ていない。何故告白を受けたのか聞いてみても「…嬉しかった。」としか言わず、目も合わせてくれない。何度か、放課後デートに誘ったが、全然笑わないし手も握ってくれない。

甚だおかしな話だが、セミと笑って話をする深雪さんを、彼氏である俺が横で見て恋をしている状態だ。

ならば、セミが好きなのかと尋ねれば、「好きなのは、あなた。彼は弟みたいに思っている。」と言う…。


そう、関係は…良好、良好なんだ…。


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