73話 地方都市タジリン
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「私、とうとう帰って来たんだ・・」
荷台から顔を出し街を眺めるミウの表情は緩んでいた。
「ミウ、ミウの街から王都までどれくらいかかる?」
「馬車なら2日ぐらいで着く距離ですよ」
「そっか・・なら2日間滞在できるな」
「良いんですか?」
ミウは嬉しさのあまり、リュートにグッと顔を近づけ見つめる。
「もちろん。俺たちは宿に泊まっているから、遠慮なく家で過ごしてくるんだぞ?」
「ありがとう、リュートさん!!」
ミウはリュートに抱き付き顔を首元に押し付けグリグリさせて嬉しさを表現するのを、ルカとレナも笑顔になり少しだけ馬車の速度を速めて街へと向かった。
王都に近い街のせいなのか、他の街の街道より馬車の数が多いなと見渡しながら地方都市タジリンへと辿り着く。
「次の馬車!こっちだ!」
門兵に指差され呼ばれたルカは、指示に従い小移動する。
「身分証を見せてくれ」
リュートは身分証を提示しルカとレナを使用人だと告げた後に、ミウが身分証を提示するため御者台へと体を乗り出し門兵と顔を合わせる。
「ボンチラスさん!」
「ん?・・ミウちゃん?」
「はい、アンジュとマリンの幼馴染のミウです」
「おぉ〜!やっぱりミウちゃんか・・懐かしいな」
門兵の表情は緩み点検をサクッと進めながら会話を続ける。
「あの2人だけが街に戻って来た時は、かなり驚いたけど・・今のミウちゃんの感じもかなり変わったな?」
「わ、わかります?」
「あぁ、大人になった」
「えへへ・・2人は元気にしていますか?」
「今は元気だぞ!親の仕事を手伝いながら、時々狩りにも行っているしな」
「そうですか」
「それじゃ、仕事の途中だから」
「はい、それじゃまた・・」
ルカは馬車を動かし街へと入りミウの案内で馬車預かり所へと向かうと、店主もミウの知り合いだったため手続きもすぐに終わり店を出る。
「助かったよ、ミウ」
「生まれ育った街ですから」
「・・これからは宿を見つけるだけだから、ミウは家に帰っても良いぞ?」
「はい。宿の場所を確認してから帰ります」
「そっか・・」
リュートは、明らかに早く家に帰りたそうにしているミウを横目に見て、最初に見つけた宿に決める事にした。
「宿屋、ソレナリン・・ここでも良い?」
ネーミングから嫌な予感がする宿屋であったものの、最初に見つけた宿屋にすると決めていたリュートは振り向きルカとレナに聞いた。
「良いですよ、リュート様が決めたのですか」
「私もお姉様と同じだ」
「そ、そう・・」
リュートは宿前でミウと別れ宿屋へと入ると、内装は一般的な宿屋と変わらない感じで少し安心し、受付へと足を運んだ。
「こんにちは〜」
「ど、どうも・・3人で2泊お願いします」
「はい、2泊ですね。あいにく3人部屋がなく4人部屋となりますが・・」
「4人部屋でお願いします」
受付の20代ぐらいの茶髪茶目の女性は、申し訳なさそうに告げた。
「3名様で2泊ですと、銀貨30枚です」
リュートはアイテムボックスから銀貨を取り出し一括で支払う。
「ありがとうございます。部屋の鍵を・・どうぞ。102番の部屋です。食事代込みなので、時間になったらお呼びしますね」
「よろしく」
部屋の鍵を受け取ったリュートは、部屋の場所を教えてもらい割り当てられた102番の部屋のドアを開ける。
「・・・・・・」
部屋のドアを開けたリュートは部屋の光景に驚愕し入り口で足を止めたまま、部屋に入ろうとはしなかった。
「リュート様?」
ドアを開けるも、なかなか部屋に入らないリュートの背中を見ていたルカが、不思議そうに問いかけた。
「・・・・ソレナリか」
そう呟いたリュートは、何かを諦めたかのように深く溜息をついて部屋に入る。その部屋には、ソファはあるもののベッドは無く、床の上に直接布団が敷いてある状態だった。
「・・この部屋はベッドが無いのですね」
「主様、変わった宿屋です」
「宿屋を変える?」
「いえ、ミウちゃんに宿を変えたことを教えることができないため、この宿屋で過ごしましょう。ベッドは無くとも、布団はありますから・・」
「悪いなルカ、レナ・・」
謝罪するリュートの右腕を掴むルカは、リュートを連れてソファへと座らせ身体を寄せる。
「久しぶりですね、ミウちゃんには申し訳無いですが・・」
「ルカ・・」
ルカとリュートがソファに座ると、レナは帯剣している片手剣を取り外しソファの横に置いてリュートの左側に座り姉のルカと同じように体を寄せる。
3人がソファに座り会話もなく静かな時間を過ごしていると、部屋のドアがノックされる。
コンコン・・
「お客様、宿の者です。入り口に面会を希望する方がお見えになっています」
リュートはソファから立ち上がり、部屋のドアを開けると受付を担当した女性が立ち見上げていた。
「俺に面会ですか?」
「はい、女の子が2人来ています。名前は、アンジュとマリンと名乗っています。お引き取り願いますか?」
「いや、その名前に知り合いがいるから会いに行きます。飲み物をお願いできますか?」
「はい、準備しますね」
宿屋の従業員が先に戻ると、リュートはソファに座り様子を見ていた2人に告げる。
「ここにアンジュとマリンが来てるって・・2人も来るかい?」
「アンジュとマリンがですか・・ですが、私はへやで待っていますね」
「主様・・私も部屋にいます」
「わかった、ちょっと2人に会ってくるね・・」
「「 はい 」」
ルカとレナに見送られ、リュートはアンジュとマリンが待つ場所へと向かったのだった・・・・。




