幕間・・遅すぎた後悔
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リーナSide
突然店に現れた冒険者ヨルンからリュート宛の手紙を代理で受け取ったリーナは、手紙を持ったままヨルンを見送り椅子に座る。
「・・ちょっとリーナちゃん。彼が本当にここに戻ってくると思っているの?」
「ジェシカさん・・きっとリュートさんは、ここに戻ってくると思います」
「そう・・」
ジェシカは裏切り捨てた男が戻ってくると信じているリーナの表情を見て、まだ未練が残っているのではと勘付いたようで一抹の不安を覚えた・・。
「あ、あの・・この手紙読むのって良くないですよね?」
「リーナちゃん、さすがにそれはダメだと思うわ」
「で、ですよね・・あはは・・」
リーナは苦笑いしながら持っていた手紙をテーブルの上にソッと置く。
「リーナちゃん・・・・そうだ、1つ依頼を受けてもらえるかな?」
「私に依頼ですか?」
「そう・・開店したばかりだからすぐにじゃなくて良いんだけど、物の輸送の依頼よ」
「・・わかりました。すぐにでなくて良いのなら、お受けします」
「ありがとう。きっとリーナちゃんの将来に役立つはずよ」
「はい」
ジェシカは胸元のポケットから依頼票を取り出しリーナに手渡し、受け取ったリーナは先に了承してしまった依頼票に目を通す。
「・・ちゅ、中央都市からの輸送・・」
「そうよ。大事な物を手違いで運び忘れちゃってね。今はこの街のギルド長としての責務があるから長く不在にできないのよ」
「こんな大事な物の輸送を、こんな私に依頼しても本当に良いのでしょうか?」
「リーナちゃんだから良いのよ・・他の商人や冒険者は信用できないから」
「そうですか・・」
それなりにリーナと会話をしたジェシカは、彼女が元気になっていることを確認できたためギルドへ戻るため椅子から立ち上がる。
「うん。リーナちゃんが元気そうなのもわかったことだし、そろそろギルドに戻るわ」
「あ、はい・・わざわざすいません」
遅れてリーナも立ち上がり、ジェシカへと頭を下げる。
「良いのよ。これからも体調に気をつけながら頑張ってネ」
「頑張ります!」
店から出るジェシカを笑顔で見送りドアを閉めて1人となったリーナは、再び椅子に座りテーブルに置いてあるリュート宛の手紙を見つめる。
カランカラン・・
「リーナ!?」
勢いよく開いたドアと同時にリーナを呼ぶバーナスの声に、リーナは反射的に手紙を胸元に急いで隠す。
「バ、バーナスさん??」
「・・どうした?そんな驚いた顔をして?」
「い、いえ・・急にドアが開いて驚いただけです」
「あっ・・ごめん。えっとな・・その、ギルドでパーティー合同依頼を受けることになって商人の護衛で中央都市へ行くことになったんだ」
「中央都市にですか?どれくらいで帰ってこれるのでしょうか?」
「わからない・・商人の予定を聞いてないから、途中で他の街へ立ち寄るかもしれないし」
「ですよね・・それで、いつ出発するのですか?」
「それが、明日の朝にはこの街を出ることになった」
「明日の朝?・・それはまた急じゃないですか?」
「あぁ、依頼受理されて依頼主と話しをしたらもう準備は整っているから明日にでも出発したいと言い出してね」
リーナはバーナスから視線を逸らし、少し考えたフリをして再びバーナスに視線を戻す。
「依頼主からの要望なら仕方ないですよね・・・・なら、夕飯はいつもより豪華にしましょう。ちょっと買い物に行ってきます」
「リ、リーナ?」
リーナは逃げ去るような仕草で店から出て商店へと向かう。1人取り残されてしまったバーナスは溜息をついた後に2階へと上がり自分の部屋で旅の準備を始める。
「戻りましたぁ〜!」
2階の自分の部屋にいたバーナスは、下からリーナの戻って来た声を聞いて準備をしていた腕を止め部屋を出ると、階段を上がって来るリーナがいた。
「おかえり、リーナ」
「遅くなりました・・今から夕飯作りますね」
「夕飯作るの早くないか?」
「何を言ってるんですか?もう陽が沈む時間ですよ?」
リーナはそう言いながらリビングのドアを開けて中に入り奥のキッチンへと小走りに移動する。その後ろ姿を見送るバーナスもゆっくりとリビングへと入り壁に掛けられている時計を見て、リーナの言っていることが間違ってないことに気付く。
「・・ホントだ。もうこんな時間なのか」
それからリーナが作った、いつもより豪華な夕飯をバーナスはリーナと食卓を囲み幸せな時間を共有する。
「今日も美味しかったよ、リーナ。ありがとう」
「いえ、味付けは習った通りにしただけですから」
「そ、そうなんだ・・」
リーナの言葉に2人がいるリビングに重たい空気が流れる。それをなんとか変えようと、バーナスは口を開く。
「・・リーナ。明日からしばらく会えなくなるからさ・・その、今夜は一緒に寝ないか?」
「バーナスさん、気持ちは嬉しいですがまだ心の整理ができていないので」
「・・そうか。でも、もう長いこと一緒に暮らしているじゃないか」
リーナはバーナスと口付けはしたことがあるものの、それ以上の肉体関係をシテいない。まだ裏切り捨てたリュートが彼女の心に未だ存在しているからだった。
「・・片付けがあるので」
明確な拒否をすることなく誤魔化すように立ち上がり食器を手に台所へと向かうと、バーナスはリーナの腕を掴んで引き止める。
「リーナ、まだアイツのことを考えているなら、俺が忘れさせてやる。もうアイツは・・この世に存在していないんだから!」
「っ!!」
バーナスの言葉にリーナの表情は凍りつき、口を動かすものの言葉を出せないでいる。
「だから、もう諦めるんだ。今は、目の前にいる俺だけを見てくれ!」
「・・・・腕が痛いです」
涙目になるリーナが小さく呟くと、バーナスは掴んでいる手を離し自由になったリーナは近くのカウンターに食器を置いて自分の部屋へと逃げ込むように入った。
「リーナ!!」
バタンッ!
自分の部屋に逃げ込むように入ったリーナは、ドアに施錠して布団へと飛び込み独り言を呟く。
「はぁ・・はぁ・・バーナスさんのことは嫌いじゃない。けど・・心と身体がアレ以上のコトをするのを拒否してしまうのはどうして??」
不安定になっていく自分にどうして良いかわからなくなったリーナは、胸元でクシャッと音を立てた存在を思い出しうつ伏せから仰向けへと姿勢を変え胸元から取り出す。
「手紙・・読んだらダメだよね・・」
小さく呟きながらリーナは封を切って中身を取り出し広げ一文を読む・・。
「・・最愛なるリュートへ・・」
手紙の送り主は、リュートの父親と母親からだった。リュートの親は商人でいろんな街から品物を仕入れては、この街で売り利益を蓄えこの場所で店を構えたと。そして、冒険者となったリュートは、親の事を気にせずそのまま上位ランク冒険者になれることを祈っていると。また、最近は周囲から監視されていることが多く近いうちに何かが起きるかもしれないとも書いてあった。最後に、この店は地下に工房があると記されておりどこから入るかも記述されていた。
「・・何があっても、強く逞ましく生きるんだぞ?? 父より。 大好きなリュート、お父さんとお母さんがいなくても貴方ならきっと大成功を収めるわ。母より」
リュート宛の手紙を読んでしまったリーナの瞳からは、とめどなく涙が溢れ枕を濡らしていく。
「ご、ごめんなさい・・わたしが、私のせいでリュートさんを殺してしまいました・・」
リュートの両親に懺悔するかのように呟くリーナは、何度も何度も呟き日付が変わったことも気づかず繰り返し、いつのまにか疲れ果て、手紙を握り締めたまま意識を手放してしまっていた・・・・。