幕間・・奪い取った側のはじまり
アクセスありがとうございます
店の改装が3日間続き無事に終わり、ズィーク達が帰った昼下がりに商人ギルドから来た女職員が店に入りリーナを呼ぶ。
「こんにちは〜!リーナさんいますかー?」
店の奥階段から足音が聞こえ、姿勢を正す女職員は降りてくるリーナを待つ。
「・・リーナは、買い物中だけど」
階段から降りて来たのは、寝間着姿のバーナスだった。
「あなたは?」
「俺か?・・俺は、冒険者のバーナスだ・・姉ちゃんこそ誰なの?」
「共同名義のバーナスさんでしたか・・遅れましたが、私は商人ギルド審査課のロイゼと申します。本日は、ギルド長の代理として書類をお渡しに来ましたが、代表のリーナさんは不在なのですね」
「あぁ、商人ギルドの姉ちゃんか・・リーナなら、もう少ししたら帰ってくると思うから座って待っててくれ」
「・・・・はぁ」
商人ギルド職員のロイゼは、20代前半でバーナスより年上でありショートボブの金髪と金色の瞳を持つ彼女は、店内を見渡し近くにあった椅子に座りリーナを待つことにした。
バーナスは、用が済んだと思い2階の居住区へともどり開店準備中の店に1人残されたロイゼは、過去に来た時とかなり内装が変わったことに驚いていると、鈴が鳴り店のドアが開いた。
「どちら様ですか?」
銀髪紅目のリーナは、椅子に座る女性と視線が重なり足を止めていた。
「はじめまして、私は、商人ギルドから来ましたロイゼと言います」
「ギルドの方でしたか・・私はリーナです」
「リーナさん本人ですね。本日は、ギルド長の代理として書類を持って来ました。本日から営業できます」
「あ、ありがとうございます」
リーナは一礼して、書類を受け取った。
「それでは、私は帰ります」
「はい、ありがとうございました」
ロイゼを見送ったリーナは、書類を手に階段を上がって自分の部屋に入り木製の棚に書類を入れてから、隣の部屋のドアをノックする。
コンコン・・
「バーナスさん、起きてますか?」
バーナスがいる部屋は、リュートが長年使っていた部屋だった。リュートを追放した翌日にバーナス自身が契約した職人の手によって内装を取り壊し、作り替えたのだ。
ドアが開き着替えを済ませたバーナスが姿を見せる。
「おはよ、リーナ」
「おはようございます。バーナスさん、今日からお店始めても良いみたいです」
ニッコリと笑顔を見せるリーナの頭を撫でながらバーナスも笑顔で答える。
「これからだね・・頑張ろうな」
「はいっ・・えっと、今日は依頼をしに行くのですか?」
「今日は、新しいパーティーメンバーと会う予定なんだ」
「そうなんですね・・」
「朝ごはんはどうしますか?」
「ん〜時間が無いからギルドで食べるよ」
「わかりました・・夕飯は一緒に食べましょうね」
「もちろんさ」
バーナスとリーナは口付けを交わし抱き合った・・。
「行ってくる!」
「お気をつけて・・」
店先でバーナスを見送ったリーナは、しばらく経った後に店の前で止まる馬車の御者の男と話しをする。
「こんにちは、お嬢ちゃんがこの店の店主のリーナさんかい?」
「はい。私が、リーナです」
御者の男は荷台から降りて、リーナと握手を交わし運んで来た商品と数を確認して店内へと運ぶ。
「・・これで全部ですね」
「はぁ、若いのに店主なんだね・・」
「はい・・」
御者の男はリュートとガノンと深い繋がりを持つ豪商フィシャルだった。数日前にガノンの店へ納品した時にリュートの事情を聞いた彼は激怒したものの、リュートがいつか必ず取り戻すと聞いたことで渋々納得した。
そして、商人ギルド長ジェシカから依頼されたフィシャルは、新規開店の商店へ納品依頼を受けてその商店へと来るとリュートの店があった場所に内心苛立っていた。
「まぁ、頑張ってくれお嬢さん」
普段なら年下の客相手でもフィシャルは親交を深めるため長話をする性格であったが、リュートを裏切った女として認識しているリーナに対し、無感情な口調でそう言い残し一度もリーナを見ることなく去って行った。
高く積み上げられた箱から注文した商品を棚へと陳列していく。日用雑貨屋として商売をするリーナは期待半分と不安半分の気持ちで1人箱詰めされた商品を手に取り無言で並べていく。
ある程度陳列が終わった商品棚を眺めたリーナは、ふと窓から差し込む光を眺めその先に見える向かい側の商店の客引きする女性の足が見え、誰も座っていないはずの窓際にあるソファにリュートが座っている姿が見えた。
「・・リュートさん」
リーナの口からその名前を吐き出した瞬間に、紅い瞳で見ていたリュートの姿が消えていく。
「あぁ・・」
リュートの姿が消えて、ため込んでいた感情が言葉にならないまま吐き出すリーナの胸には、ポッカリと大きな穴が空いたままだった。
「これで、良かったの?・・・・ねぇ、リーナ・・本当にこれが、貴方が求めていたモノなの?」
リュートから頼まれた買い物途中に冒険者バーナスと街中で出会ったことが始まりだった。
最初は、ただの挨拶程度に言葉を交わし、出会う度に少しずつバーナスとの立ち話が長くなり、そして飯屋で昼食を共にしそして、一緒に買い物をする・・そんな関係が続いていくことにリーナは何も気づいていなかった。
そして、リュートが用事があって店にいない時にバーナスの冒険者パーティーが買い物に来る。パーティーの皆と楽しい会話をして仲良くなり、魔術士のアンナからリーナの知らないリュートの話を聞いて笑う。そんな楽しい日常があった。
いつしかバーナスが1人で店に来る日が増え、そして街中へ買い物に行くと必ずバーナスと出会うことにリーナは何も違和感を感じていなかった。
ある日の昼下がりに、買い物途中でバーナスと昼食を食べている時にリュートからの待遇を聞かれ、どんなことをしているか告げた。
すると、バーナスはリュートが間違っていると告げて待遇改善をするよう伝えると言った。それからバーナスからリーナの将来のことを聞かれ、素直に店を持ちたいと告白した・・その日以降から、リーナの日常の歯車が狂い始めたのだ。
リュートが店にいない時間にバーナスが店に来て、店番をリーナばかりに押し付け本人がいないことに憤慨し同情する。そして、買い物途中で出会ったリーナをバーナスが商人ギルドへと連れて行き、リーナの理解できない話が目の前で進んでいくことにただ頷くだけ。
そして、リーナの頭にあの時の言葉が流れる。
「アンナさん?」
「私は、リュートを選んでバーナスを切り捨てます。貴方は、バーナスを選んだのだからこの先ずっと寄り添って生きて行きなさい。そして、さようなら・・・・」
リーナは両手で胸に手を当てて、胸ぐらを強く掴まれた感触を消そうとし目を閉じると、アンナが歩き去って行く背中が遠く小さくなって消えたところで胸の痛みから解放された・・・・。
「はぁ・・はぁ・・」
店内にしゃがみ込み、涙を流すリーナは乱れた呼吸を必死に整えようとしていると店のドアが開き、思ったより用事が早く終わり帰って来たバーナスに抱き付いたのだった・・・・。