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40話 ランオン学園 討伐祭初日の朝②

アクセスありがとうございます


「ミーシャ様!」


 リュートの呼ぶ声が聞こえたのか、ミーシャの足取りが止まるものの顔を上げる素振りは見せない。


「ミーシャ様!お約束のモノを持って来ました」


「行商人さん、そんな大声で彼女を呼ぶのは可哀想ですよ・・クックック」


 明らかにミーシャがあんな状態になった原因に目の前にいる少年が関わっている事にリュートは気付くものの証拠がなく部外者のため追求する事なくミーシャから事情を聞く事に決めた。


 再び歩き出したミーシャは、少しだけ顔を上げてリュートを見ると、僅かに微笑むものの近くに立つ生徒会長ヨルンを見て表情が強張り、距離を取りながら逃げるように外壁へと移動しゆっくりと門へと近づき時間をかけてリュートの前に立つ。


「ミーシャ様・・いったい何があったのですか?」


「・・・・・もういいのよ。全てが終わったから・・でも、あなたと契約を交わした・・お金を払わないとダメね」


「そんなことよりも、こうなった事情を私に聞かせていただけませんか?」


「・・いいの。もう終わったこと・・もう決定されるから」


「もう決定される?・・ってことは、まだ決定されてないということですね?」


「・・・・・・」


 リュートの言葉に、ミーシャは黙り込んでしまう。


「ミウ、知っているなら俺に教えろ」


 いつもより低い声で、静かに強くミウにリュート聞いた。


「はい、討伐祭を出発される日・・今日の朝8時までに指定されたモノを準備できなかった学生は、その参加権利を剥奪され、国直属の組織への加入資格を生涯失う・・です」


「ありがとう、ミウ・・・・ミーシャ様、まだ僅かに時間はあります。何が足りないのでしょうか?」


「・・・・・・」


 ミーシャは泣き崩れるだけで、何も答えようとしない。その彼女の状況が嬉しいのか、生徒会長ヨルンが代わりに教えてくれた。


「はっはっはっはっ・・なんて見苦しい姿なんだミーシャ!部外者であり、しかも無名の平民行商人の男に泣き崩れるとは・・仕方ないから、私が教えてあげよう。将来が潰えたミーシャはな、ポーションが300本準備できずしかも同行させるパーティーメンバーも揃わない貴族崩れの女なのさ・・わかったらさっさと学園から去れ!」


 貴族の平民を見下した態度が一番気に食わないリュートは、久しぶり殺意を抱いた。しかも親の権力に甘え実績もない貴族少年にリュートはこの場で消し去ってやろうと思うも、魔力変化に気付くルカがリュートの背中に触れて落ち着かせる。


「リュート様・・」


「あぁ、ありがとうルカ」


 深く深呼吸をして苛立ちを抑えたリュートは、胸元で泣き崩れていたミーシャを少し持ち上げて目線の高さを合わせ潤んでいる銀色の瞳を見つめる。


「ミーシャ、ポーションとメンバーが揃えば討伐祭に参加できるのかい?」


「リュート・・そうだけど、もう無理よ」


「とりあえず、手続きしに行こうぜ。場所を教えてくれるか?」


「どうして?」


「ほら、質問を質問で返すな」


「うん・・あっちよ」


「りょーかい。時間が無いから急ぐよ・・ルカ!」


「はい!リュート様!」


 ダダッ!!


 リュートはミーシャをお姫様抱っこして地を蹴り彼女が示す方向へと一気に移動すると、遅れずルカはミウを背負いリュートの背中を追う。


 突然消えた4人に驚き1人正門に残された生徒会長ヨルンは、しばらく呆然としていたのだった。


 学園の建物に入ったリュートは廊下を走りすれ違う生徒を避けながら目的地を目指す。


「リュート、あそこのドアよ」


「オッケー!」


 バン!


 勢いよくドアを開けると、突然開いたドアに中にいた大人達が視線を向けて固まっている。


「あの〜ミーシャ様の討伐祭参加の申請に来たのですが・・受付はここであってますよね!?」


 リュートの問い掛けに部屋の奥の椅子に座っている白髪のメガネを掛けた老人の男が口を開く。


「ミーシャ君は、参加資格が揃わなかったから棄権扱いだよ」


「まだ8時になっていませんよね?」


「うむ・・たしかに8時になった時点で正式に決定だ。だから、まだ仮決定であるが」


「そうか・・ならよかった。そしたらその棄権の仮決定を取り消して参加申請を受理してもらえないかな?」


 偶然リュートの近くにいた青年の男が否定する声を上げる。


「今更何を言っても無駄だ!もう彼女の棄権は確定的なのだから!」


「だからその棄権を取り消して欲しいから、ここに来たのがわからないのか?」


「はっはっはっ・・突然現れて、あのミーシャ君を抱いている君は何者なのかい?」


「俺は、ただの平民行商人だけど・・そんで少しは戦えるかな」


「ならば、参加資格で必要であるポーションを見せてもらおうか600本分を」


「・・おっさん増えて無いか?」


「仮決定を覆すためのハンデみたいなものだよ・・」


 白髪の老人は、机の上に肘を突きリュートを睨みつけている。


「リュート・・600本なんて」


「ミーシャ・・」


 リュートは、抱き抱えられ見上げているミーシャの頬にキスをして彼女を立たせる。


「なんと!キミは領主の娘であるミーシャ君と、それほどの仲だったのか?」


「なんだ?ただの挨拶だ・・それで600本あればいいんだよな?」


「もちろんだ・・だが、君の店に取りに戻る時間はないぞ」


「そうだな・・もう戻る時間は残されてないよな・・」


 リュートは、アイテムボックスから収納していたポーションの一部である600本を中央に1人分の隙間を作り数秒で床に並べ終える。


「さて、お約束の600本のポーションだ。全部中級品質だから問題ないだろ?」


「「「「「 ・・・・・・ 」」」」」


 突然な並べられた大量のポーション瓶にその場にいた教師達とミーシャは言葉を失い固まっている。


「それと、パーティーメンバーは俺とルカそしてミウの3人が加入すれば問題ないだろオッサン?」


「・・・・むぅ、条件は満たされておるな」


「し、しかし学園長!」


 リュートに絡んでいた教師が奥に座る白髪老人に異議を申し立てる。


「黙りなさい!・・ミーシャ君の討伐祭参加をここに認める」


 ゴーン!・・ゴーン!・・ゴーン!・・


 学園の鐘が鳴り響き、8時を知らせる。


「それでは、ミーシャ=アヴェーティ。君をランオン学園討伐祭の参加をここに認める」


「ありがとうございます」


 学園長からバッジを受け取ったミーシャは、自らの手で胸にバッジを取り付けた。


「さぁ行きなさい。ライバル達はすでに出発しています。10日後に無事な姿で学園で会えることを期待しています」


 並べられたポーションの間の道を戻って来るときのミーシャの顔には、自信とやる気が戻った笑顔になっていた。


「ありがとう、リュート」


「ミーシャは、お得意様だからね・・さぁ行こう討伐祭へ」


「うん」


 主役であるミーシャを先頭に歩かせ部屋から出て行く途中に、リュートは並べていたポーションを素早く収納しミーシャの後ろを歩く。


 廊下を通り庭を歩いて門を出るまでに、数人の少年からミーシャへの悪意を感じたため、容姿を把握し近づいて来た時に蹴散らすことを決めた。


「待て!」


 不意に呼び止められ振り向くと、門で出会った生徒会長ヨルンの姿があった。


「ヨルン会長、何か御用ですか?」


 いつもの聞き慣れたミーシャの口調にリュートは笑っていると、怒りに満ちた表情を見せるヨルンは大きな声でミーシャに問い質す。


「ミーシャ、君はいったいどんな卑怯な手を使ったんだ!1本も持っていなかったポーションをどうやって手に入れたんだ?」


「それは・・」


「どうせ、その行商人からポーションを買ったのだろう?それは、規則違反であると知っているのか?この件は、生徒会長である私が学園長に直訴する・・覚悟しておけ!」


 ヨルンの言葉に、ミーシャの表情が陰る。


「おい少年・・言いたいことは、そんなちっぽけなことだけか?」


「はっ!部外者が何を言っている。規則を述べているボクが全て正しいんだ!」


「あぁ、生徒会長のキミが言っていることは正しいよ。規則なんだろ?」


「リュート・・」


 背後からミーシャの震える声が聞こえるも、リュートは無視する。


「そうさ、なんだ・・君は正しいとわかっているのに、なぜミーシャ側にいるんだい?」


「それはな・・お前言ったろ?指定された商店以外で物を買ってはいけないと。それが銅貨1枚払ってもダメだとな」


「そうだよ、さすが行商人か・・よく覚えていたね」


「行商人は、言ったこと聞いた事に責任を持つからな・・だから無知な君に教えてあげるよ。ミーシャが1つも規則違反していないことを」


「この生徒会長のボクが無知だと・・ポーション600本は金貨数十枚以上だぞ・・」


「へぇ・・600本ってこと知ってたんだな?」


「くっ・・」


「まぁ、それは置いといて、ミーシャがポーション代に銅貨1枚も支払ってないんだよね」


「そんなバカな話があるか?」 


「そんなバカな話があるんだよ・・なぜなら、代金はミーシャとのキスだったからな」


(まぁ・・実際は頬にしたけど・・キスはキスだよな・・)


「ボクのミーシャとキスをしただと・・・・」


(あいつ、やっぱ口付けと勘違いしたな・・まぁいっか)


「したよ・・熱いのを2回もね」


「コロスッ!」


 生徒会長ヨルンは、リュートとミーシャが口付けをした事に激昂し隠し持っている短剣でリュートの首筋を狙う。


「バカだな・・」


 リュートが呟くそんな声を耳にしたヨルンの視界は急激に歪み青空が見えた瞬間には、後頭部に強い衝撃を受け意識を手放した。


 フェイントもなく真っ直ぐリュートの首筋を狙う切っ先を右に避けて、突き出した腕を掴み勢いを利用し足払いをしながらヨルンの顔を掴みそのまま地面へと頭を叩きつけて彼の意識を奪ったのだ。


「弱いな生徒会長クン・・」


「リュート・・あなたって」


「ん?俺は、ただの平民行商人だよ・・」


 門前で倒れた生徒会長ヨルンを放置してリュートは来た道を歩き出す。ルカとミウの2人は何も言われなくともリュートの後ろを歩いて行く。


 その3人の後ろ姿を見たミーシャは羨ましく思い、置いて行かれる自分に気付き慌てて走り出し3人の後を追った。


「ちょっと、待ってよ〜!」


 ランオン学園討伐祭の初日の朝に、新たなパーティーが結成された事に他の参加パーティー達は知る由もなかったのだった・・。

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