21話 別れと旅立ち・・・
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激動があったリュートが眠るこの街は、いつもの夜明けを迎えいつも通りの朝日を浴びて街の人々が活動を始めている。
たくさんの人々が暮らす地方都市スコーデントは、生活する人の分だけの日常がありリュートの人生を変えたあの出来事の影響はリュート本人だけであり、見知らぬ街の人々はいつもの朝を迎えるだけなのだ・・。
久しぶりに深い眠りについていたリュートはいつもリーナに起こされる時間になっても、もう彼女は居ないため起こされることなく眠り続けている。
別の部屋で寝ていたガノンが先に起きて、寝ているリュートを起こそうと近付いて口を開きかけたものの頬に涙を流した跡に気付き口を閉じて、ゆっくりと音を出さないよう部屋から出たガノンは、店の入り口に掲げる看板を臨時休業と掲げ自分の部屋へと戻った・・。
臨時休業となったガノンの店の前には常連客が集まるも、店先で樽に座るガノンを見て何かを悟り一言小声で交わした後は、笑顔で手を振り店から去って行く・・それが昼まで続いた頃にリュートは、やっと目を覚ましたようだ。
「ん〜よく寝たな・・もう朝か・・」
「バカ野郎!とっくに昼飯の時間を過ぎてるぞ!」
「うわぁ〜傷心した少年の寝起きに、むっさいオッサンの声を聞かされるなんて・・なんて日なんだ」
リュートは上半身を起こし顔を上げると、部屋の入り口の柱に大きな体を寄りかかっているガノンを見ながらボヤいていると、ガノンはスルーして続けた。
「はぁ・・そんな元気なお前のために俺からの餞別を店前に置いてあるから、さっさと見に行って来い」
「ガノ〜ン・・ありがたいけど、ひでぇ扱いじゃない?・・・・2日連続で俺は、追い出されるのかよ」
「ふん・・昼まで寝ているお前が、悪いんじゃ」
「へいへい・・」
リュートとガノンが交わす言葉は汚いものの、終始笑顔で語り合っていた。
そして立ち上がり背伸びをしているリュートに、ガノンは今までの口調とは正反対の優しい口調で問う。
「リュート、昼飯を食ってからにするか?」
「いや、ガノン気持ちだけで嬉しいよ。ありがとう、今まで世話になったね」
「そうか、無理強いはしない・・いつでもこの街に帰って来いよ?」
「・・・・ありがとう、ガノンさん」
リュートは真剣な表情で告げる。
「なんだ気持ち悪いな・・」
「はぁ・・せっかく最後の別れだから、今までの感謝の気持ちを込めて年上のオッサンを敬ってあげたのに・・」
「お前には似合わないぞ?年上を敬うなんて・・まぁ、店の外に出てみろよ?きっと、今のお前なら気に入ってくれるはずだ」
ガノンはリュートに告げると、そのまま部屋を先に出て店の外で待つ。少し遅れてからリュートも廊下を歩き店の外へと出て、店先にある光景に視線が釘付けとなった。
「おぉー!馬車じゃん!どうしたのコレ?」
「いつか、お前がルルカさん達に負けないぐらいの立派な商人隊を結成した時に渡そうと、世話になった仲間達と準備していたんだ・・まさか、こんな形で渡すとは夢にも思っていなかったけどな・・」
「ガノン・・んぐぅ・・・・ありがとう」
「おまっ・・もしかして泣いているのか?」
「アホか・・俺は泣いてなんか・・・・ガノンの方こそ泣いているじゃねーかよ」
「バカか?俺はな、さっきの風でのせいで、目にゴミが入ったんだよ・・」
「はぁ?・・いつそんな風が吹いたんだよ・・」
互いに涙を流しながら泣いていることを認めないリュートとガノンは、男の固い友情として抱き合い離れる。
このまま長居してもガノンとの別れが辛くなると考えたリュートは、そのまま御者台に乗り革製の手綱を握る。
「・・ガノンさん、1人取り残された俺を助けてくれたことに感謝しています。全てを失った俺が、すぐに恩返しできないことを許してください・・お世話になりました」
「リュート・・・・俺は、何があってもお前の味方だ!いつか必ず、お前の両親が作り上げた店を取り戻してくるんだぞ?・・それまでは、俺は死ねないからな・・立派になってまた俺の前に元気な姿を見せてくれ・・」
「はい!」
リュートはゆっくりと馬車を走らせガノンと別れる。寂しさから振り返ると、店先には見送るガノンの姿があった。
そしてこの通りの角を曲がればガノンが見えなくなってしまうところで、リュートは最後に振り向きガノンの姿を見つけると、我慢していた涙腺が緩み視界が滲んでいく。
もうはっきりとガノンの姿が見えなくなってしまったリュートは、別れを惜しみながら手を振って別れを告げたのだった・・。