20話 元王族直属魔導師ガノン
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店のドアを閉めたリュートは、入り口に掲げていた木彫りの看板を丁寧に取り外しアイテムボックスに収納する。
「この看板が1番大切な宝物だからな・・」
そう呟きながら人通りがない通りを歩く足をリュートは止めて立ち止まる。
「あっ・・最後の仕上げを忘れてた」
突然何かを思い出したかのように立ち止まったリュートは、右手を顔の高さまで上げて指をパチンと鳴らすと背後の商店から大量の瓶が派手に割れる音が鳴り響き家屋の窓ガラスも割れて通りの地面が濡れたようだ。
「おぉ!さすがのあの数が割れると良い音がするな・・ビショ濡れは免れないけど、致命傷にはならないだろう」
ほんの少しだけスッキリした顔つきになるリュートは、家と店を一瞬で失った直後なのに足取りは軽く深夜の街の通りを1人歩いて行く・・その足取りは、既に行き先が決まっているように。
「ちーっす!・・おっさん、まだ生きてる?」
リュートは街の西側地区のとある店に勝手に入り店主を呼びかけていた。
「・・・・んなぁ?その声はリュートか?さっさと奥に入って来い!」
店の奥から少し呂律が回っていない渋めの男の声が聞こえ、リュートはそのまま店の奥にある部屋へと向かう。
「ガノン!今夜俺を泊めてくれない?」
ヒョコッと顔を覗かせたリュートの視線の先には、ベッドに腰掛けて酒を飲む白髪碧眼の男がいた。
「はぁ?リュートお前には、ルルカさんが建てた立派な家があるだろーが?」
「ん〜とね・・さっき幼馴染のバーナスと女従業員に乗っ取られた」
「ぬぁんだと!?」
ガシャンッ
ガノンは持っていたグラスを床に叩きつけてリュートを睨みつける。
「リュート・・おまえ、冗談にも程があるぞ?」
「冗談じゃないさ。ギルド長ジェシカが直々に店に来て、営業権利証を没収させられて家も店舗も奪われちまった・・」
「おいおい・・ジェシカのガキは、何をとち狂ったことをしたんだ・・」
「だからさ、今夜だけ泊めてくれないかな?」
「あぁ、好きなところで寝ていいぞ」
「ありがと。助かるよガノン」
ガノンがこの会話の間に床に叩きつけ粉砕したグラスと汚れた床を綺麗に片付けていることにリュートは見逃してはいない。
(おぉ・・さすが元王族直属魔導師ガノンだな)
気付かれない速さで処理したハズの動きをリュートの視線が余裕で追っていることに内心驚かされているガノンは、何気ない素振りで問いかける。
「リュート、お前はこの先どうするんだ?」
「ん〜そうだね・・とりあえず露天商で路銀を稼ぎながら旅をしたいかな?そして、あの大切な場所を奪い返す・・それがいつになるかわからないけどね〜」
「そうか、旅に出るのか・・わかった。明日の朝を楽しみにしておけ」
「ん?どういうこと?」
「ふん・・明日になってからのお楽しみだ!」
「わかったよ・・もう眠いから寝るよ。コレ、今夜の泊まり賃ね・・オヤスミ〜」
リュートは素早くアイテムボックスからポーション瓶を20本並べて断られる前に部屋を出て寝床を探しに行く。
目の前に並べられたポーション瓶を1本手に取ったガノンは、鑑定スキルを発動しポーションを確かめる。
体力回復ポーション(別名エリクサー)
品質・・伝説級
効能・・切り傷から火傷そして欠損を瞬時に完治
保存・・無期限
「・・全く恐ろしい子供だ。こんなポーションを作製できるのは、この国・・いやこの世界でリュート1人だけだぞジェシカ=アイゼンよ・・本当に愚かな女だ」
リュートは全力で作製したポーションをガノンに押し付け、おっさんの驚愕しているだろう表情をニヤニヤと想像しながら深い眠りへとついたのだった・・・・。