14話 冒険者ギルド
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依頼で森に向かったリュートは、偶然にも危機的状況に陥っていたバーナス達のパーティーを助けた日から数十日が経ったある日の昼下がりに、いつものソファに座っていたリュートが深い溜息をついてから立ち上がる。
いつもと違う雰囲気を纏っているリュートに気づいていたリーナは、朝の挨拶を交わしてから一言も話せずにいてモヤモヤしている。
(今日のリュートさん、何か変だな・・どうしたんだろう)
どうにかして、このどんよりとした店の空気を変えたいなと考えていたリーナは、思い切ってリュートに話しかける決心をした。
「あ、あのリュートさん」
「どした?」
立ち上がり背伸びをしながら、カウンターにいるリーナをリュートは見つめる。
「えっと・・あの人は今日・・」
「来ないよ」
感情の無い言葉が返って来て、リーナは少し落ち込み返事をする。
「そう・・ですか」
「リーナ」
「は、はい」
「ちょっと出掛けてくるから、店番頼むな」
「えっ?ええ??」
そのまま驚くリーナを見ることなく店を出ていくリュートを、ただ見送ることしかできず店のドアが閉まった後にカウンターに伏せるようにしてリーナは呟いた。
「そんなぁ・・・・リュートさん酷いですよ・・」
そんなリーナの気持ちも興味がないリュートは、街の通りですれ違う住人達から顔を見られないようフードを深く被り歩いている。
下を向いて歩くリュートなのに、正面から来る家族連れの予想できない子供の動きや冒険者パーティー達を自然に流れるように避けながら歩いている。
しばらく通りを歩き何回か交差点を曲がったリュートは立ち止まり、初めてここで顔を上げた。
「冒険者ギルド・・はぁ、あんましここに来たくないんだよな・・」
重い足取りで冒険者ギルドのドアを開けて中に入ると、何人かの冒険者がギルドに入って来たリュートを見定めている。
冒険者を刺激しないよう、視線を合わせないようにリュートは歩いて目的の窓口を目指し無事にからまれることなく辿り着くことに安堵した。
「こんにちは、ご用件は?」
窓口で対応する受付嬢は、はっきりと顔を見せない男に不審感を持ちながら普段通りの対応に心掛けている。
「・・今回の納品分を持って来た」
いきなり現れた男の声が少年の声だったことに驚いていると、カウンターにポーション瓶50本が並べられていることにさらに驚き言葉を失っている。
「・・おーい。はやく代金を」
「・・・・・・」
目を見開き固まっている受付嬢では埒が明かない思い、事務所に他の職員がいないか探している時に奥のドアが開き、金髪碧眼の女性に手を上げて呼ぶ。
「おーい、シェルファ・・」
休憩所から事務所へと戻って来たばかりのシェルファは、窓口の方から呼ばれていることに気づき視線を向けると新人のアネシアがフードを被った少年の対応をしているところだった。
「はーい!今行きますねって・・リュートじゃない」
シェルファは、エルフ族の元冒険者でリュートと同じ時期に冒険者となり何度か一緒に依頼をこなした関係であって、Aランク冒険者になった頃にギルド職員へと転職した珍しい経歴を持つ女性だ。
「シェルファ、この子が対応してくれないんだけど?」
「ごめんねリュート。研修が終わって今日から窓口デビューした子なの」
「そうなんだ・・いつも通り買い取りよろしく」
「えぇ、私がするわ」
新人受付嬢を椅子のまま横へずらし、新たに椅子を持って来て査定をしてくれるシェルファを見ていると、後ろにいる冒険者たちが何やら嫌な感じの会話が聞こえてくる。
おい、あのシェルファさんを呼び捨てだぞ・・
あぁ、しかも窓口の相手をさせるとは・・
なんなんだあの男は・・
ヤルか・・
ギルドで1番人気職員のシェルファが窓口業務をすること自体が稀な状況で、冒険者が嫉妬を抱きさらに呼び捨てで呼びつける行為がさらに殺意を持たせる原因となっていった・・。
その荒れていく状況を背中で感じ取れているリュートは、のんびりと査定をしているシェルファに小声で話す。
「なぁ、シェルファ」
「なぁに?」
「後ろの冒険者たちが、すんごい苛立っている気がするんだけど・・」
「そう?気のせいじゃない?・・そうだ、今夜は久しぶりに夕飯どう?」
この状況を知らないフリをしているのか、周囲に聞こえるように俺を夕食に誘う。
ガタッ
椅子が倒れる音が聞こえ、リュートに近づく複数の気配が・・。
「はぁ・・イザコザにギルドは不干渉なんだろ?」
「そうよ・・ガンバ」
「っお前、こっちの身にもな・・ぐぁ!」
ドォゴン!
背後から近づく冒険者達の気配を感じていたリュートだったが、まさか無言で背中を蹴飛ばされるとは思っていなかったようで、受け身を取れず窓口カウンター下の壁に叩き付けられてしまい動けずにいる。
「へっいいざまだな・・お前のせいで、窓口が混んでるんだよバーカ!」
壁で蹲るリュートに対し3人の冒険者が数発蹴飛ばし、スッキリとした顔で座っていた場所へと戻って行く。
声をかけてリュートにからむ程度だと思っていたシェルファは、リュートに対しての不意打ち的な暴力に驚き自分の防げなかった行動に後悔しながらリュートの元へ行こうと立ち上がる。
「リュート!」
「イテテテ・・・・さすがに焦ったな」
「大丈夫リュート?」
「・・・・」
ゆっくりと立ち上がるリュートは、脱げかけたフードを被り直しシェルファを見ることなくギルドを出るため出口へと歩き出す。
その痛々しい姿を座っていた冒険者達が笑っているが、無視してリュートは出口のドアを開けようとしたらドアが開き冒険者パーティーが入って来てぶつかってしまう。
ドンッ
「おっと悪りぃ、大丈夫か?」
「あぁ、問題ない」
「そうか、良かったってリュートか?」
「ん?バーナスか・・」
リュートがギルドから出ようとした時に入って来たパーティーは、バーナス達だった。
「リュート、何かあったのか?」
ギルド内がいつもと違う雰囲気で、しかも1番人気のシェルファが事務所から出ていることに違和感を感じたバーナスだ。
「なんでもないさ、俺は用が済んだから帰るとこだよ・・」
リュートは、バーナスの肩を軽く叩き出ようとした時にシェルファに呼び止められる。
「待ってリュート」
「シェルファ、さっきのポーション代はギルドとの手切金だ・・もう2度はない」
「「 リュート 」」
バーナスとシェルファに呼び止められるリュートは、無視してギルドを出る。外に出るとパーティーの後ろで入ろうとしていたアンナと視線が重なる。
「リュート・・」
「アンナ・・間に合って良かった」
「うん・・ありがとう」
「じゃぁな・・」
リュートは、アンナに優しい口調で伝え、ギルドの角を曲がったところで隠密スキルを発動し姿を消し自分の店へと戻って行った。
カランカラン
「ただいま・・」
「お帰りなさい」
「変わったことなかった?」
「はい。まだ1人も来店がありません」
満面の笑みで答えるリーナの無垢な表情を見て、リュートは思わず笑ってしまい冒険者ギルドでの出来事がどうでも良くなってしまった。
「そうか、相変わらずな店だな・・」
「リュートさんのお店ですから」
「そうだった・・忘れてたよ。そうだ、リーナ」
「なんでしょう?」
「俺はもう2階で休むから、来客はリーナに任せる。それと、俺に用がある奴が来ても外出から戻って来てないと伝えてくれ」
「・・はい」
「そうだ、ちょっと傍に来て」
トコトコっと歩いて来たリーナの両肩を掴み互いの額をくっつける行動に、小さく驚く声を漏らすリーナだったけど、すぐに体の力を抜いてリュートに身を委ねる。
『聞こえる?リーナ?』
「はぇ?リュートさん?」
『念話だよリーナ。頭の中で話すような感じで喋ってみて』
『こ・・こんな感じ?リュートさん・・聞こえますか〜?』
『そうそう、いい感じ』
『・・はい。初めてです』
「これで、念話がつながった。もし緊急なことだったら念話で教えてくれな」
「は、はい。わかりましゅた!」
背伸びすれば触れそうな位置にあるリュートの唇を見つめてしまうリーナは、胸のドキドキが止まらないでいるとリュートは2階へと上がって行き店にはリーナ1人だけとなる。
「はわ〜もう少しで、私の初めてのキスを取られるところでした〜」
顔を赤くしながら、いまだ収まらない胸のドキドキを感じながらリーナは、冷たいカウンターにオデコを当てて冷やしながら来るかもしれない客を待っていたのだった・・・・。