第9柿 仙台育米 VS 大阪桐陰
11月の暮れ、寒さがだんだん厳しく
なってきた土曜日に練習試合は
仙台育米高校のグラウンドで開かれた。
仙台育米高校 VS 大阪桐陰高校
天候は快晴。絶好の野球日和である。
朝8時、仙台育米がストレッチを始めたころ
大阪桐陰がグラウンドに入ってきた。
さすがは甲子園常連校。
メンバーは高校生ながら風格は
おじさんである。仙台育米には、
どいつもこいつもスラッガーに見えた。
猿もこの日ばかりはストレッチから
練習に参加していた。気になっている子、
メス猿の猿美ちゃんが試合を見に来るとあって
猿も気合が入っている。
先日、お気に入りの木にぶら下がって
遊んでいた猿は偶然近くを通った猿美ちゃん
に、こう豪語していたのである。
「あ、猿美ちゃ~ん。元気?w」
「なんだ、猿か。なんかよう?」
「あのさ、俺最近野球始めたんだよねww 普通にスカウトされたw」
「あっそ、もう行っていい?」
「待って待って! まじでプロ野球選手になっちゃうかもしれないわww 次の試合でプロ球団の監督とかもスカウトに来そうだしww」
弱小高の練習試合にプロ球団の監督が来るわけないのである。
「へぇ~、プロ野球選手ってバナナどのくらいもらえるの?」
「え、たぶん世界中のバナナの10分の1くらいは俺のものになるww 俺だけじゃ食いきれないから猿美ちゃんも食べん?w」
「じゃあ次の試合見に行ってあげる。
街へ果物盗みに行こうと思ってたとこだし。」
「まじ!?w じゃあ試合に勝ったら今度一緒に遊びにいこww」
「嫌。プロになったら連絡して。野球が何なのか知らないけど。」
「おけww たぶん1ヶ月後とかだわw」
こんな具合である。
好きな子の前だと、ついついイキった
中学生みたいになってしまう猿なのであった。
そういうわけで猿は、この試合は
どうしても勝たなきゃいけなかった。
カニは日頃の練習の成果を
試せるとワクワクしていた。
練習も終わり、栗原監督が部員を集めた。
「今日の試合は強敵、大阪桐陰。
甲子園に行ったらいつかは倒さねば
ならない相手だ。全力でぶつかってこい。」
監督らしからぬ大人な発言。
猿は彼が多重人格なんじゃないかと思っていた。
そのあと、仙台育米は大阪桐陰の監督へ
大阪桐陰は仙台育米の監督へ挨拶に行った。
「「「よろしくお願いします!!!」」」
仙台育米の意気込みは十分。
「うお!!猿だ!!でかい蟹もいるぞ!!」
大阪桐陰の監督が恐怖で奇声を上げた。
驚かれるのが久しぶりで新鮮な猿とカニだった。
これが普通の反応である。
栗原監督の方は、何の話をしているのか
聞こえないが試合前で集中していた大阪
桐陰の部員たちが、栗原監督の話で
やたらと大爆笑しているのが見えた。
何の話をしたらそんな状況になるんだろう
とカニは思った。
いよいよ2チームはグラウンド
に並んで試合開始の挨拶をした。
主審は大阪桐陰専属の審判である、モンゴメリ伯爵。
さすが強豪校、審判も持っているのだ。
そして試合開始の合図。
「プレイボール!」




