表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/29

第8柿 欠点が重すぎるキャプテン臼田



練習試合が近いこともあり、野球部は

午後の練習を早めに切り上げていた。



「猿~、お前も帰りにLos Angel(ロサンゼルス)es寄るだろ?」


野球部員Aが猿を誘った。

猿は彼の名前を憶えていなかった。


「ウキッ。」


Los Angelesは仙台育米高の近くにある

駄菓子屋で、生徒の(いこ)いの場でもある。

古くて小さいお店で、完全に名前負けしている。


「あ、じゃあ俺も行くわ。」


栗原監督も生徒たちの道草についてくるようだ。

猿はもう、この程度のクレイジーさでは

驚かなくなっていた。


しかし、猿1匹で監督と対峙(たいじ)するのは気分

が良くないのでカニも一緒にいたほうが

まだマシな猿だった。


「カニ、お前もLos Angeles行くだろ?」


カニはモールス信号で、いかないと猿に伝えた。


「え、なんでだよ。お前ヒマだろ。」


ごめん、家でやることあるから、

と猿に伝えるとカニはそそくさと帰っていった。


「あっそ、まあいいや。」


結局、部員Aと部員Bと部員Cと栗原監督と猿で

ニューヨークで駄菓子を買い、店の外にある

ベンチに座った。


そこに臼田くんが遅れてやってきた。


「ごめんごめん、生徒会の集まりがあって遅くなった。」


「おせーよ臼田!罰としてチロルチョコおごれよな。」


栗原監督が臼田くんを茶化した。子どもか。


臼田くんは成績優秀で友達も多く、

野球にも熱心に取り組む高校生だった。

生徒会で書記もしていて、まさに

品行方正とは彼のことだった。


ただ、臼田くんは気になる女の子ができると

帰りに後をつけて住所を調べたり、夜な夜な

好きな女の子の家の玄関の前を何度も何度も

行ったり来たりして、女の子の家族構成や

生活サイクル、趣味や好きな食べ物を

生活ごみから推理したりするという、

少しだけ悪い癖があった。


この癖のせいで、二人の女性に対して接近禁止令が出されている臼田くん。


しかし、それを差し引いても

臼田くんはいいやつなので

野球部ではみんなから好かれていた。


「そういえば監督、次の練習試合の相手ってどこなんですか?」


臼田くんは野球部キャプテンとして次の試合の作戦を

考えておきたいところだった。


「あー、なんか関西の方から遠征に来てる大阪桐陰(おおさかとういん)って高校。」


「え、大阪桐陰ってあの甲子園常連校ですか?」


驚いた部員Aが監督に尋ねた。


「おん。でも今回は勝てるだろ。このお猿さんのピッチングに賭けろ。」


自信満々な監督だったが、臼田くんは不安をぬぐえない様子だった。


「いくら猿が強いからって、相手が悪すぎますよ…。

こいつまだルールもあやふやだし。」


「ウキキ!!ウキウ!(ごちゃごちゃうるせーんだよストーカー!)」


「きっとチームのコンディション調整に使われたんだな俺たち…。」


臼田くんにつられて部員Aも落胆した。


このチーム初の試合は勝って幸先の

良いスタートをみんな切りたかったのである。


監督は野球部弱体化のコンプレックス

から甲子園観戦をやめてしまっていた為、高

校野球事情に疎くなっていた。


「はぁ?俺に言われても知らんし。もう帰るわ。」


臼田くんに正論を言われた栗原

監督は、()ねて帰ってしまった。

情緒不安定の見本みたいな男である。



猿も、この練習試合は負けるわけにいかなかった。



なぜなら試合の日、猿がずっと気になっていた

隣の山に住む猿美ちゃんが、街の八百屋で

リンゴやバナナを盗みに来るついでに

試合を見に来てくれることになっていたのだ。


かっこいいところを見せる絶好のチャンス。

絶対試合に勝って猿美ちゃんと子どもを作りたい。

猿はそう考えていた。



そんなメンバー各自の思惑(おもわく)が飛び交う中、

ついに練習試合当日をむかえた。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ