第6柿 下手な県外の転校生より上手に高校に馴染む2匹
「え~、じゃあ今日から転校してきた
猿くんとカニさんです。
家庭の事情で学区を変更したそうだ。
急でビックリしただろうけど、
みんな仲良くしてやってくれな~。」
担任の先生が2匹をクラスに紹介した。
栗原監督のパワープレイに負けて、
猿とカニは仙台育米高校2年1組の生徒になっていた。
入学前に2匹と監督は校長に呼ばれた。
入学の面接と確認の手続きがあるらしい。
猿は正直そこで入学の話はなくなると
見越した上で栗原監督と交渉していた。
常識的に考えれば、学校の役員が聞いたら、
この話がなくなるどころか監督が怪しいクスリ
をやっていると疑われてもおかしくない状況である。
そうすればまた、山にこもって
のんびり他の動物をだまして暮らせる。
しかし、校長と15分ほどの面談で
猿とカニは2~3個YesかNoで答えられる
質問されたのち、この秋から仙台育米高校
に入学が許可された。
もう、どうにでもなれである。
カニは、なんだかんだ言っても
無料で勉強させてもらえるとあって
喜んでいた。ユーキャンでの教材も
友達のお古をもらってやっていたので
新品で勉強するのは初めてのことだった。
高校は猿とカニの住む山から電車で20分、
全力ダッシュで1時間の距離にある。
二匹とも動物なので、人の同伴なしに
電車を使うことは難しく
登下校の際は、高校まで歩くしかなかった。
しかし、猿はやはり人間離れした身体能力で
家から高校まで30分くらいで走った。
カニは、足が速いわけではないので
普通にみんなより朝早く起きて
ゆっくり登校していた。
二匹はいきなり高校2年の授業に組み込まれて、
最初は戸惑いもあり全く授業に
ついていけてなかった。
ところが、1か月も経つと2匹
の学業状況は変わり始めた。
もともと営業マン顔負けのセールストークや、
ずる賢さを持っていた猿は容量や覚えも良く
宿題をさぼることはあっても期末試験では
学年で平均くらいの成績をとっていた。
カニに至っては、持ち前の地道さと
ユーキャンで鍛えられた勉強法で
期末試験が終わるころには学年で
8位の成績を誇示していた。
最初はざわついていたクラスメイト達とも
どうやっているのかは謎だが
2匹はそれなりに仲良くやっていけるようになった。
子供の順応力とは恐ろしいものである。
問題は野球部の方だ。
猿は無理やり連れてこられたこともあり
まじめに練習していなかった。
カニは、まじめに練習しようにも
カニの体に合うヘルメットやグローブがなかった。
野球部は猿とカニを入れて9人という
他校と試合ができる人数ギリギリのチームだった。
高校3年生は前回の夏の大会初戦敗退で引退しており
現在のキャプテンは2年4組の臼田くんだった。
栗原監督は、意外にも高校内では割と
普通の体育教師で野球の指導も熱心に
していた。
カニにも猿にも校内では教師として接していた。
猿とカニは当然だが登下校の道が同じなので、
行きは別々だが、帰りは一緒に帰ることも多かった。
この日も授業と部活を終えて、
二人は夕暮れ時を歩いて下校していた。
周りの生徒はもちろん人間しかいないから
お互いに助け合わないと高校では生きていけない。
そういうこともあり、猿は仕方なく
カニと話す機会が多々あるのであった。
なので二人の関係は、険悪な感じから
近所の知り合いくらいにまでは改善されていた。
「おいカニ、そういえばお前なんで
蟹なのに山に住んでんだよ。」
猿が尋ねると、カニは少し考えた後
で爪のハサミをカチカチした。
「ふーん、じーさんの代からあの山に
住んでるから理由は分かんないのか。」
猿もカニも、スマホや携帯を持っていないため
明日の持ち物や、テスト範囲の確認
宿題の内容などはお互いに聞きに
行くしかない。猿のウォークマン
も2005年ごろ発売されたものなので
通信機能はついていなかった。
というか、そもそもWifiはおろか
電気も通っていない猿の家では充電さえできない。
ウォークマンを充電するときは山のふもとに
なぜか2つだけあるコンセントを使っていた。
聞きに行くのは普段授業を真面目
に聞いていないことの多い猿の方で
喋れないカニは、カチカチと爪を鳴らして
モールス信号で返事した。
そのため、猿は簡単なモールス信号はある程度覚えていた。