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第5柿 結局一番怖い動物は人間説



「ここのスパゲティは店で出す味じゃないんですけどね。

安いんで気がつくと、いつも頼んじゃいますねぇ。」



栗原監督はそういうと安さが自慢の

イタリアンファミリーレストランで

ペペロンチーノを頬張った。

味はといえば、たしかに大味である。


監督は不思議な外見をしていた。

2匹は最初、中年くらいの

年齢の男だと思っていた。

しかし、よく見れば20代くらいの

若い男にも見える。

声も低いような高いような。

結局、猿もカニも監督のことは

何一つわからないままだった。



栗原監督がペペロンチーノを食べ始めたころ、

半ば無理やり連れてこられた猿とカニにも

それぞれが注文した料理が出てきた。


カニは、先ほどまで食べれていなかった

柿が気になり注文した季節限定の

柿マロンパフェを今度は猿にとられまいと、

急いで食べていた。


柿マロンパフェは秋限定メニューで柿の酸味と

マロンクリームのしっとりした甘さが

お互いを邪魔せず絶妙に溶け合う、

500円とは思えない上質なパフェになっていた。


猿はといえば、

さっきまで熟した甘い柿を食べていたので

お口直しにと頼んだ熱いエスプレッソコーヒーを

ゆっくり(すす)った。



ペペロンチーノを食べ終わると

監督が2匹を見て話し始めた。




「お二人の柿をつかったキャッチボール

を見させてもらいましたよ。


あれはすごい!もう才能を

ビンビンに感じる投球でしたねぇ。

それを、すかさずキャッチする

カニさんもお見事でした。


それでなんですけど、お猿さんとカニさんには

是非うちの高校に転入してもらってですね。

野球部に入ってもらいたいんですよ。」




猿は思った。


自分とカニを引き連れてファミレス

に入っていく彼を見て

なんとなくわかっていたし、

今の発言ではっきりした。


こいつは正気じゃない、やべえ奴だ。


桃太郎ですら、現代によみがえれば

きっと犬や猿なんかと

鬼退治にはいかない。


ましてや動物とファミレスで食卓を囲う

人間なんてムツゴロウさんくらいだろう。

むしろ、よくこの店も自分たちの入店を許したな。


これはもうハッキリと言って断らねばなるまい。


「ウキ!ウキキキ、ウキ!」


「急にどうされたんですか、お猿さん。

あ、もしかしてコーヒー熱すぎました?」


猿の言葉が人間に通じるはずもないのであった。

急にウキウキ言い出した猿に監督は驚いただけで

ウキウキの意味は全く理解していなかった。


「ここのホットコーヒー、いつも度を越して熱いんですよ。」


こいつはいったい何の話をしてるんだと猿はイライラしはじめた。


そもそも、なぜ猿が人間の言葉を

理解できるんだという話だが

それは彼が夜寝る前にウォークマンで

邦楽を聴いているうちに

だんだんと覚えたからだ。


昔、猿の住む山へ登山に来た

旅行者が山に落としてそのまま

忘れて帰ったウォークマンを、

たまたま猿が拾った。


それ以来、夜することがない猿は

音楽を聴きながら過ごしていた。


そして曲を聴くうちにリスニング力が

鍛えられたというわけだ。

最近の猿のお気に入りはRADWIMPSと

Mr.Childrenである。


カニもパフェを食べ終えて、ピンポンで店員を呼び

メニューのコーヒーを爪で指して追加注文した。


「ホットかアイス、どちらになさいますか?」


店員に聞かれ、メニューにあるホットを爪で指した。


なぜカニが人間の言葉を読めて聞けるかといえば

それは、猿語を習う前にユーキャンで勉強して

取った資格である日本語検定 準1級のおかげに

他ならなかった。


とどのつまり、カニは家事の合間(あいま)にする言語の勉強が趣味なのであった。


「それでは、うちの部活に入っていただけますよね!?」


監督がまるで入る前提で話が

進んでいるかのように2匹へ問いかけると

猿もカニも首を(カニは身体ごと)横に振った。


「分かっています。もちろん、学費から交通費、

野球道具一式までかかる費用は、すべてこちらで

用意させていただきますとも。」


猿もカニも首を(カニは身体ごと)横に振った。

猿は山でダラダラ悠々自適に生活する以外のこと

に興味はなかった。


カニにとっては勉強などは悪い話では

なかったが、実は出産を控えており

家の家事もほったらかしにはできない。



栗原監督は交渉の攻め方を変えた。


「でも、お二人ともパフェやコーヒー食べましたよね?お金持ってるんですか?」



そうか、しまった。迂闊(うかつ)だった。

猿は、普段は山で他の動物をだましていたが

今回は、すっかり罠にはめられていたことに

気がついた。


動物が人間の街で悪さをすれば、

大抵は殺処分である。

無銭飲食なんてもってのほかである。


油断して料理を注文してしまった。

ニンゲン、コワイ。


結局、交渉のテーブルで栗原監督の提案した条件を

猿とカニは飲むしかなかった。


「ウキ……。」



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