第4柿 発想が自由過ぎるだろ栗原監督
バシッッッ!!!!
乾いた音が公園に響く。
しかし、柿がカニの頭に当たることはなかった。
なぜなら猿の放った火の玉豪速球を
カニは左のハサミで見事に、しっかり
とキャッチしていたからだ。
運命は、決められた流れから逸れて
神様でさえも予期せぬ方角へと歩み始めた。
危ない危ない。
カニは自分の瞬発力の良さと
硬い爪ハサミに感謝した。
柿をキャッチした爪はビリビリと
衝撃でしびれていたが、
頭に当たることに比べたら、
たいしたことではなかった。
あれが頭に当たっていたらと思うと
ゾッとするカニだった。
猿はカニのことは気にも留めずに、
相変わらず柿を食べ続けた。
「おいおいおい……、冗談だろ……。」
その光景を公園の離れたベンチから偶然見ていて
絶句している男がいた。
彼は栗原監督。
仙台育米高校で体育の教師をしながら
硬式野球部の監督もしていた。
仙台育米高の野球部は昔、甲子園の常連校
となるほどの野球強豪高だった。
しかし、野球ブームが下火に
なってからは部員が減り続けて
今では地方の弱小高校になってしまっていた。
強豪校だったのはもう何年も前の話だ。
栗原監督自身も、高校生の頃は
野球がうまくプロの野球選手になって、
いつかは球団の監督になる予定だったが
うまいといっても、素人にしては
うまいくらいの感じだったので
今はしがない教師である。
今日も授業が終わって部活が始まると、
監督は野球部員たちを適当にランニングさせた。
それが終わるのを待つ間、ヒマだった監督は
近所の公園にある鉄棒で小学生以来の
逆上がりをして暇をつぶしていた。
それにも飽きてベンチで座っていた時に
木から柿をものすごいスピードで投げる猿と
それをどっしりキャッチするカニを発見したのである。
監督は思った。
「あんな速い球を投げるやつは、
今の高校野球界隈でもめったにいない。
そしてあんな速い球をさばける
キャッチャーも珍しいだろう。
あの猿とカニにバッテリーを
組ませて野球部にいれたら、
もしかしたら今年の
仙台育米でも甲子園に……。」
そして監督は雷に打たれたように立ち上がり、
猿とカニのいる柿の木に猛烈な勢いで駆け寄った。
日も暮れだして、公園や遊具は
柿の実と同じ橙の夕日に染まっていた。
猿とカニが突然走り現れたおっさんに
驚いて呆然としていると、
監督はにこやかに喋りだした。
「君たち、野球に興味はないか??」
猿は野球に興味なかった。
カニに関しては野球が何なのかも知らなかった。
しかし2匹とも人間たちは彼のような人を変質者と呼ぶことは知っていた。
反応の悪い2匹を見かねた監督は
柿を取り合う2匹に提案を切り出した。
「立ち話もなんだからファミレスに行こう。なんでも好きなものを食べなさい。」