第27柿 ダークホースとなった仙台育米高校
4月。
年越しかと思えば、新学期の始まりである。
このところ、年明けから
今に至るまで仙台育米野球部は
負けなしだった。
宮城県内での練習試合を毎週こなしてきたが
どこにいっても圧倒的な差をつけて勝つため
地方の野球雑誌などにも取り上げられ
今ではちょっとした有名学校になっていた。
だいたい取材を受けるのは猿とカニで
臼田キャプテンは通訳として立ち合わせた。
「猿さん、ズバリ
メジャーリーガー並みの投球が
できる秘訣はなんなんですか??」
「ウキキ!ウキ!!(うるせえ!
うっとおしいんじゃ、くたばれ!!)」
雑誌記者が、今日も学校まで
猿の取材に詰めかけてきていた。
「………猿は、世界から戦争がなくならない
憎しみを力に変えていると言っています。」
「高校球児とは思えない力の源ですね…。」
とにかく少しでも学校を有名にしたい
仙台育米の理事長は、通訳の臼田に
万が一猿が余計なことを言う時は
世界平和の話などをしてごまかせと
教えていた。
猿は、とにかくプロ野球選手になりたかった。
そうすれば、意中の猿である猿美ちゃんと
エッチなこと、もとい、子どもが作れる
からであった。
そのため、最近は野球部の練習も
熱心に行っていた。
高校生活でいえば3年生になったので
担任の先生から進路はどうするか
聞かれていた。
そもそも猿なので、進路もなにもないと
猿は思った。
なので大学の志望校を書く欄の
【第一志望】
山で元通り暮らす
【第二志望】
猿美ちゃんと子作り
【第三希望】
プロ野球選手
と書いて、職員室に呼び出されていた。
カニはと言えば、高校の図書室で
たまたま見かけた漫画「はだしのゲン」
を読んで感銘を受け、
暇を見つけては図書室に通って
読んでいるうちに図書委員と
顔見知りになっていた。
一通り、取材も終わり
やっと野球部の練習が始まった。
猿とカニがウォーミングアップに
キャッチボールをしていると、
少し離れたところで臼田キャプテンと
栗原監督が話しているのが聞こえた。
「監督も取材を受けてたんですか!?」
「そうなんだわ。年明けくらいから
めちゃくちゃ取材されるようになって
まじ焦った。」
「これでうちもちょっとした
野球の強豪校ですね…。」
「野球?俺が取材受けてるのは
競馬の雑誌だけど…。」