第22柿 当動物園では猿の貸し出しはしていません
「ゲームセット!」
結局、練習試合は0対5で
仙台育米の圧勝だった。
ウシノ・ウンチッチの打順が来るたびに
彼はクリケットのスタイルでバットを振って
グラウンドの外までボールをかっ飛ばした。
さすが、元クリケットW杯出場者。
猿とカニのバッテリーで相手を抑えて
ウンチッチがかっ飛ばし、臼田が応援して
栗原監督が転職サイトに登録する。
勝利の方程式が出来上がっていた。
「「「ありがとうございましたー!」」」
練習試合も終わり、帰り際に仙台育米が
明電監督に挨拶に行くと、ルール違反だ!
と怒られた。
しかし、カニがモールス信号で猿とカニを
チームに入れてはいけないルールが野球にない
ことを説明すると、監督は自分ちの近所の動物園に
電話して猿を借りれないかとアポを取り始めた。
明電高校も帰ってグラウンド整備を終えて
まだお昼だったので駄菓子屋LosAngelesで
祝杯をあげた仙台育米だった。
「イェーイ!ヒャッホー!!
甲子園常連校をフルボッコにしてやったぜー!
ざまあみやがれバーーーカ!!!w」
さっきまで転職エージェントと電話していた
栗原監督が1番喜んでいた。
「ウキウキキ(お前は転職考えてただけだろ)」
「いや〜、お猿さんの肩には私たちの
未来が乗っていますね〜。これからもひとつ
よろしくお願いします〜。」
「監督!まだ練習試合に一度勝っただけですよ!」
「固いこと言うなよ臼田〜。
よーし、みんな好きなだけ駄菓子買え!
今日は臼田のおごりだ!!」
「…いやですよ監督。」
今回は、子ガニを託児所から引き取るまでに
時間があったのでカニもついてきていた。
「支離滅裂」と書かれた勝利のハチマキを
綺麗に折り畳んで学生カバンにしまうと
監督に買ってもらったチロルチョコの
ミルク味を食べ始めた。
「それにしてもウンチッチすごいな。
クリケットでW杯出たって聞いてたけど、
野球でも超高校級じゃん。」
臼田キャプテンが水飴を手で鷲掴みして
食べるウンチッチに話しかけた。
「ヤキューブ、たのしいデスネ!」
「ウキ…(うわ、手で食ってるぞコイツ…)。」
「猿だって弁当よく手で食べてるじゃん。」
臼田はチームの和を大事にする男だった。
「ウキキ(俺は猿だからいいだろ)。」
猿は大好きな駄菓子である
きびだんご(オブラートで包んである美味いやつ)
をムシャムシャ食べながら返事をした。
「猿だって箸使えよ。カニなんて、
手がハサミなのに箸使って弁当食べてるぞ。」
カニは子ガニの教育のためにも箸の使い方を
マスターして、どうやってるのか謎だが
ハサミでも箸を使いこなしていた。
「でも私びっくりしちゃった。
高校野球の投球ってあんなに速いんだね!」
なぜかLos Angelesまでついてきていた蜂子は
感心したように猿を見た。
臼田が誤解なきよう蜂子に答えた。
「いや、蜂子さん。あれは猿だから
投げれるんだよ!」
「あー、そうなんだ。野球初めて見たから
それが普通なんだと思って見ちゃった。」
「まったく〜、蜂子さんは小学校3年生から中学2年までバスケをしていて運動も割とできる方だったけどチームのメンバーとソリが合わないのと男子がバスケ中に弾む当時からEカップあった胸を見てくるのがどうしても恥ずかしくてスポーツ辞めちゃったから野球なんか特に詳しくないもんね〜。」
「臼田くん、私と中学校違うよね?
なんで知ってるの?」
「………なんだっていいでしょ。」
「ウキウキ(こいつ、いつかマジモンの
犯罪起こす前に誰かしっかり注意しろよ)。」
野球部員Aはついてきたのに1人だけ
会話に入らず、少し離れたところから
みんなを見ていて、蜂子いきなり
身内感出しすぎだろと嫉妬した。
蜂子は座っていたベンチから立ち上がると
野球部の方に向き直った。
「私決めました!この野球部のマネージャー
になります!」
「ウキウキウキ!!(なんでテメーが
マネージャーなんだよ!ていうか
そもそもマネージャーってなんだよ!)」
猿にはもう少し野球の勉強が必要だった。
蜂子はウキウキはしゃぐ猿を無視して続けた。
「まだ一度しか試合見てないけど
ほんとにみんなが甲子園に行けば
仙台育米高校も昔みたいにたくさんの
人たちが入学するようになるわ。
そしたら私もおじいちゃんの理事長も
嬉しいからね。別にあんたたちを応援
したくてマネージャーやるんじゃ
ないんだからね!///」
きょうび、ツンデレなんか流行らねーんだよ
と猿は思った。
猿は蜂子がなんとなく嫌いだった。
「おー!ぜひお願いしますマネージャー!!
ちょうど欲しかったところだし。」
栗原監督は歓迎していた。
「それで試合負けたら教師をクビっていうのは
ナシってことで……。」
「あぁ、ごめんなさい。それはもう
PTAでも学校運営でも決定しちゃったから
私ではどうすることもできないわ。」
「別にマネージャーいらんくね?
うちの野球部。」
栗原監督は露骨に態度を変えた。
臼田キャプテンもマネージャー大歓迎。
「今度、蜂子さんの家遊びに行くね!」
「え、なんで?ダメだよ。」
「……なんだっていいでしょ。」
野球部員Aは新参のくせに
自分より目立つ蜂子に対して、この場で
木っ端微塵に爆発しろと何度も願った。
そしてその夜、特に理由はないが
蜂子のコスプレをして街を歩き回った。




