第20柿 猿とカニが入学できるくらいですから
栗原監督は職員室にいた。
野球部員たちに歯医者があると嘘ついたが
実際は特に用事はなく、時間帯的に
部活を見ているはずの時間なので帰れもせず
職員室でパソコンに向かって仕事をする
フリをして漫画村でクローズを読んでいた。
「栗原先生。」
音楽の女教師に呼ばれて、まったく
慌てずにパソコンの画面をexcelに切り替えた。
何年もやってると対処だって慣れてくるのだ。
「はい、なんでしょう。」
栗原は落ち着いて女教師に返事した。
彼女は音楽の授業で1ヶ月に一度ペースで
ヒステリックを起こすと有名だった。
「校長先生がお呼びですよ。」
うーん、嫌な予感しかしない。
先ほど野球部の部室で理事長の孫娘で
生徒会長の蜂子に脅されたばかりだ。
きっとそのことだろう。
もしくは、生徒に混じって駄菓子屋で
買い食いしてるのを怒られるのか。
それか近所の神社の賽銭を定期的に
無断でいただいてることが知られたか。
他にも思い当たる節は多いが、
いま悩んで仕方ない。
どのことでも、クビにはなりませんように
と願いながら校長室に入った。
「お呼びでしょうか?」
「あー、栗原先生。どうも。」
校長が机の書類を見るのをやめて、
栗原監督を見た。
「実はお話があってですね。」
「はい。お賽銭の件なら、気が向いたら
返すつもりはありました。」
「お賽銭…?
なんの話ですか?」
「いえ、違うなら忘れてください。
ご用件は?」
「実は先ほど理事長から連絡がありましてね…。」
しまった、そっちか。
「理事長が、野球部が甲子園で優勝したら
この仙台育米高校の貯金の3分の1を
栗原先生にボーナスで渡すよう言われました。」
「私が言うのもなんですが、
理事長はこの高校がスマホゲームの中にあると
勘違いしてるんじゃないですか。」
仙台育米の理事長といえば、女子の制服を
うる星やつらのラムちゃんと同じものにして
PTAと裁判で揉めていることで有名だ。
ラムちゃんの服がどんなかはググってくれ。
「校長として止めたが、それが
理事長の決定らしいんだ。」
「ちなみに仙台育米の預金額の3分の1って
いくらですか。」
「2270万円です。」
「必ずや、甲子園に仙台育米を導いてみせます。
この心臓に誓います。」
後日、栗原監督は関東に土地を買って
マンション経営した場合の
資産シミュレーションを税理士としたそうだ。
「もうどうにでもなれよ…。」
校長は肩を落とした。
「なぜ、こうまでなっても校長は
この学校に残るんですか?」
栗原は興味本位で聞いてみた。
「僕が校長から理事長に上がったら
女子の制服をターザンが着てたやつに
したいんだよ。」
栗原監督は、自分の両親に
仙台育米に入学させないでくれて
本当にありがとう、と思った。
かくして、栗原監督は野球部の監督に
無理やり返り咲くことになった。