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第17柿 おじいちゃんが理事長はチートだろ




蜂子が部室を訪ねてきた次の日、野球部全員

で野球部に入ってくれそうな人材を探し回った。


しかし、野球部差別が高校内で行われているのを

知っている生徒たちは、なかなか部活に入っては

くれなかった。




「きみきみ!野球部はいらない!?」




「やだよ、いま野球部大変じゃん。」


「無理無理。勉強で忙しい。」


「そんなことより俺とサッカーやらねえか!?」


「ごめん、野球興味ないんだ。」



授業がすべて終わっても、1人も部員候補は

見つからなかった。


最後の望みの綱は、猿やカニと同じタイミングで

転校してきた高校1年生の留学生だった。


代表してキャプテンである臼田くんが話をしに行った。



「ヤキューブ?」


「そうなんだ、入ってみないかい?」


「いいデスヨ! ヤキューブ!」


「え! 本当かい?」


「ハイ! 二ホンでトモダチつくらないとネ!!」


日本語がカタコトではあるが留学生は乗り気だった。


さっそく臼田くんは部員の待つ部室に留学生を連れて行った。



部室に入るとちょうど腕組みした蜂子や

栗原監督も部屋に集まっていた。



「栗原先生、彼があなたの甥ですか?」


「えーっと、そうですね。妹が国際結婚しましたから。」


「そうですか。見たところ1年生だと思うけど。あなた名前は?」


蜂子が留学生に尋ねた。


「ハイ! ウシノ・ウンチッチといいマス!! ウシノは苗字なんで、ウンチッチと呼んでクダサイ!」


「悪いけど、ウシノ君と呼ばせてもらうわ。」


「ウキキキキ!」


「笑っちゃ失礼だよ」(モールス)


蜂子が質問を続けた。


「ウシノ君。野球をやる気はあるの?」


「ハイ!」


「ルールは分かる?」


「ハイ!」


「……野球の用具は持ってるの?」


「ハイ!」


本当に質問の意味が通じてるか怪しい

ウシノ・ウンチッチ君だった。


「とりあえず部員は足りているようですが、他校に勝てないようでは野球部に部室は渡せません。」


「「「えー、話が違うだろー!」」」



「待ってください生徒会長。」


栗原監督が切り出した。


「本当にこれからは一試合も負けはしません。猿くんの投球は本物です。さらに私の甥はリトルリーグではホームラン王でした。このチームは言わばドリームチームです。必ずや仙台育米高校を立て直す力になります。もう一度だけチャンスをください。」


「そこまで言うなら、栗原先生。もし仙台育米が他の高校に試合で負けることがあったら、理事長である祖父に頼んで教師を辞めていただきますがよろしいですか?」


「ははは! かわいい顔して冗談キツイですよ生徒会長~。」


「冗談でも何でもありませんよ。」


「……。」


「……。」




「……分かりました。仙台育米野球部は本日をもって解散します!!」




「監督!!弱気にならないでくださいよ!!」


臼田、怒る。


「だって絶対おれ不利じゃん!!」


「ウキウキ(廃部ならそれでいいけど)。」


「監督! 俺たちと一緒に命かけて野球しましょうよ!」


部員Aが監督に発破をかける。


「え~、やだよ。おれ無職確定じゃん……。」


「お前が負けること前提に話すな!!」


部員A、怒る。


「どうするんですか、栗原先生。部室渡してくれますか?」


蜂子が最後に尋ねた。


「分かりました。では私の代わりに生徒たちの学生ライフを賭けます。もし、一度でも負けるようなことがあれば部員全員退部……、いえ、退学にしてください!!」


臼田、切れる。


「勝手が過ぎるだろそれは!!」


部員Aも怒鳴った。


「もうだめだ! 監督換えろ!!」


「うるせー、お前らが野球やりたいんだろうが!それくらい賭けやがれー!!」


「ウキキウキウキ(廃部でいいじゃんもう)。」


「みんな落ち着いて」(モールス)





「わかりました!」


蜂子が遮った。


「では、今後練習試合で一度でも負けるようなことがあれば、野球部員は全員退学。栗原監督は辞職。動物は殺処分とします。」




「「「 ……え? 」」」



「退学はちょっと…。」


「高校再建を前に退学って。」


「ウキウキ(殺処分って動物だけ扱いひどくないか)。」


「仕事辞めたら生活できないし……。」



「これは決定です。来週の土曜日、たしか野球部は練習試合でしたね栗原先生。」


「ええ、でも部員が足らなくなったと言って断るつもりですが…。」


「ウシノ君がいるじゃないですか。」


蜂子がウシノを指さした。


「試合は行ってもらいます。私も観戦に行きますのでそのつもりで。負けたら、先ほどお話しした約束どおりです。それでは野球部の皆さん、よい週末を。」


そう言い残して蜂子は、さっそうと帰っていった。


監督が部室のパイプ椅子に黙って座りこんだ。


部室の空気は重たかった。誰も何も言わない。


ただ、下を向くだけだった。部員も監督も

なにもしていないのに燃え尽きたように疲れて

(のど)も乾いてカラカラだった。


「センパイ! ボクはどうしたらいいデスカ?」


ウシノの問いに、誰も何も答えなかった。




少し経ってから部員Aが監督に

分かり切っていることを聞いた。



「……監督、ウシノってリトルリーグ出たことあるんですか?」



監督は答えた。


「……しらん。」



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