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光芒のライト=ブリンガ  作者: Yuki=Mitsuhashi
Chapter:02
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Chapter:02-10

Chapter:02-10



【AD:2359-12-14】

【日本自治国:横須賀鎮守府】


「艦長、釣れますか?」

 背後に誰かが回ってきたことは把握していたが、まさか副長だったとは思わなかったので少しだけ驚いた。

「ボウズも良いところ。やはり外海そとうみじゃないと食いつき悪いったらありはしないわねえ、分かっていたんだけどね」

 釣果なし、転じて殺生を行っていないことから使われる『坊主』という表現を用いた艦長であった。実際、その足元に据え置かれたバケツの中ではみ上げられた海水が虚しくも静かにたたえられているばかりであったが、元より彼女にとっての『釣り』という行為はただただ無心の状態、或いは思索にふける為の手段、儀式のようなものであって、釣果の有無それ自体は必ずしも目的では無かったこともあり、然程さほどに落胆を覚えていた訳でもなかった。

 無論、釣れれば釣れた、でこれは実益を兼ねる――晩酌ばんしゃくのお供になる刺身類はことに喜ばしい――ものとなるので、歓迎するところではあったけれどあくまでもオマケ、余禄よろくにしか過ぎないものではあった。まあさりとて、釣果に期待してまーす、と艦橋詰めの要員達から笑顔送り出されたこともあったので、メバルの数匹ぐらいは引っ掛けたかった邪心、本音は否定出来ない。

「うーん、メバル、あわよくばマダイ、まさかのシーバスを期待していたんですが残念ですねえ」

 エスパーか、果てはニュータイプな副長かよ、キミは。


「期待に応えられず、申し訳も……で、何か指令でもあった? わざわざ貴女が来るってのはそういうことよね」

 勘の鋭さでは負けていない、艦長である。

「ええ、『わだつみ』は横須賀基地を出港し、『アトラス』へと帰港されたし、とのこと。既に秋山中将の側で調整は付いているそうです」


 この地球上、正確には太陽系で唯一の軌道エレベータである『ノーザンクロス』、その地上基部が据えられている巨大人工島『アトラス』が『わだつみ』の本来の母港である。

 かつて、数世紀前ばかりの昔、全世界が大混乱にあった際に、辛うじて統治、開発能力を保持していた国家群、その在る意味でギリギリの余力の持ち合いによって北太平洋上に建造された存在であり、後には地政学上の観点――赤道に程近いという地理的状況――及び保安上の利点も評価された結果、『ノーザンクロス』の地上起点として選ばれた経緯がある。


 そんな『アトラス』は連合政府の管理下に置かれてはいたが、その運用であったり人工島という存在故に日々、要される保守点検、整備作業等は日本自治国及び北米連合に実質の委託がなされており、世界最強、を名に負う連合海軍第一艦隊の司令部が置かれることで防衛、保安、治安を保障していたのだった。


 そんな第一艦隊の旗艦が正にこの『わだつみ』である。


 CVF-001、融合力空母『わだつみ』。


 核融合炉を六基搭載した、動く島、海の要塞、くろがねの城。全長555メートル、全幅100メートル――ただしこれは第二、第三甲板が収納された状態での数字に過ぎない。必要とあらば『やまと』は正規甲板の他に、二つの副甲板を展開させることが可能な構造となっている。積載している艦載機、その全てがVTOL(Vertical Take-Off and Landing=垂直離着陸)能力を有していることもあるが、同時に最大で九機の離陸運用を可能とするこのシステムは、従来の空母群のそれとは比較にならない短時間での航空部隊編成、投入を可能なものとしていた。


 日本自治国はくれでの進水から実に100年以上が経過しているが、その間も幾度かにわたるフラム(FRAM=Fleet Rehabilitation and Modernization=近代化改修)とオーバーホール、また融合炉自体の交換などを繰り返し、今なお、絶賛現役真っ盛りなドドド級空母、『わだつみ』。原子力のそれと比べ、廃炉処分等に神経を使う必要がなかった部分も、これは大変に大きく、核融合力で稼働する船舶他の先駆け、となった存在でもある。余談だが、この『わだつみ』は二代目であり、初代『わだつみ』は人類史上初の常温核融合力艦であったようである。


 その所属は無論、太陽系惑星連合海軍ではあったが、日本自治国海軍による維持運用が行われている、全世界に知らない者はいない、偉大な空母である。そんな『彼女』は『わだつみ型』と呼称される三姉妹の長女、ネームシップこと一番艦であり、次女二番艦『ヴェールヌイ』、末妹まつまい三番艦『アルビオン』の存在が現状、認められている。四番艦の建造も噂はされているようだが、これは現時点ではペーパープランに留まっているようだ。


 艦載機を満載した状態での排水量205000トンは、大昔の海の男が耳にすれば冗談としてでしか響かないけた、数字であり、またこの巨体図体にして60ノットと言う最高速度は今の時代にあっても実際に見る者を驚かせるに足るものだっただろう。何しろ、600メートル近い人工物が洋上を時速100キロで疾走するのだから。


 乗員は基本、8000名前後だが、有事と有ればこの比ではない人員を収容することが可能であり、実際に『わだつみ』は先の南米大震災にあって本来の乗員に加え、5000人を越える避難民を迎え入れる、そんな偉業を達成することで自ら、及び姉妹艦の性能と存在理由を全世界に証明することに成功していた。沖合に停泊しながら沿岸都市部に電力と新鮮な水、及び食料を供給し、洋上病院として、そして雨露を凌げる避難所、家としていかりを降ろし続けた『わだつみ』は、間違いなく当時の被災者達にとり、希望の光、存在そのものであった筈だ。


「要請されたスケジュールの詳細をお願い」

 現時点でのささやかな思索、ついでの釣りを諦めた艦長はバケツの中身を海へと戻し、釣り竿の収納を始めている。

「24時間以内を目処めどに横須賀を出港されたし、とのことです」

「……概ね、予想通りか……みんなには悪いけれど基地内での待機状態にしておいて正解だったわね」

 日本海軍所属の融合力空母『わだつみ』は、実に二年振りに母国、横須賀基地への寄港を果たしていたのだった。

「それでも四日間の休暇は与えられたのですから、一同、文句なんてありませんよ」

 実際にツヤツヤペカペカと輝く肌で笑ってくる副長である。なんでも久し振りの陸上おかでは焼き肉屋とケーキバイキングを乗員女子一同(一部男子含む)でハシゴしたと聞くが。若さとは素晴らしいものだな、と、どこか薄ら寂しく感じないでも無い、艦長ではある。若い頃とは異なり、甘い物や脂っこい物は覿面てきめんに体重計の無慈悲な数字として反映されるようになって久しい。


「……結構。急がなくても構わないから真田副長は出港準備に取り掛かりなさい。私は少し、秋山と話すことがあるので艦長室に篭もることになると思います」

「……秋山さんとだけ、ってことはないですよね?」

 自分達の周囲に誰も居ないのを改めて確認した副長が声を潜める。元より、現在の『わだつみ』の飛行甲板には彼等以外の存在は一切、無かったが。


「ええ、貴女に隠しても仕方無いから言っちゃうけど、シャルルの爺さんを始めとしたお歴々と話を詰めなくてはならないのよ」

「ムッシュ・ヘイスティング、もう後戻りは出来ないのですね……」

 これより、世界中に知られるところとなるであろうクーデターの首謀者、その名前を二人は口にしているが、ほんの二ヶ月前までそんなシャルル・ヘイスティング元帥はこの『わだつみ』の食客でもあったのだ。


「元々暖めていたプラン、プロジェクトを前倒しで実行するだけだ、とか言っていたけれど……」

 収納を終えた釣り竿、そのバッグを担いだ艦長がゆっくりと艦橋へと向けて歩き出す。続きは歩きながら、というところだろう。


「結局、動くべくして『時代』は動いているんだと思う。例の月面の出所でどころ不明の巨大構造物とか、『十賢者』の遺産、だとかね……」

「この『わだつみ』の核融合炉も『十賢者』由来の技術です。一昔前まで、無限で無害のエネルギー、だなんて夢物語でしかありませんでしたから」

 船の主、艦長にわざわざ告げるほどのことでもなかったが、副長は誰よりも自分自身に含めているつもりだったのかもしれない。


「『時期』とか『時勢』、そう呼ぶべきものが全て揃った、そんな状態なのでしょう……あとは、そうね……いや……」

 両足の運びと等しく、口を閉ざした艦長である。一歩を下がって追随していた副長が思い切って口を開く。

「……息子さんのことですよね」

 通常の艦艇にあっても艦長と副長は、それこそ夫婦にたとえられる存在だ。ましてやこの二人は、地球上に三隻しか存在しない『わだつみ型』、そのネームシップ、一番艦を率いる艦長と副長なのだ。


「……詳細はまだ聞かされてはいないのだけれど、秋山からは『巻き込むことになるかもしれない』とは言われている」

 婉曲的に副長の指摘を認める艦長であり、その顔には苦渋二割増し、の色が乗せられていた。

「……才能、恵まれた子ですからね。それと、私が言うのも難ですが、良い子ですよ、あれは」

 この副長は件の『息子』とは実際に会ったことは無かったが、艦長宛てに寄せられた宇宙側からの通信回線を幾度となく、仲介しており、その為人ひととなりを知ってはいたのだった。通信映像越しでありながら、その振る舞いには年齢には不相応の貫禄、品格を感じていたし、また、何よりもイケメン――と言うよりも、ちまたの噂に違わぬ『綺麗過ぎる美人』であったことには純粋な驚愕を禁じ得なかったりもしたのだが。男女問わず、あんな美人はついぞ見た記憶がない、それ程に。


「お腹を痛めて産んでもいなければ、実際に育ててもいない子供だけどね、良く出来た子よ。出来過ぎなのには、ちょっと困っているのが本音だけど……」

 演技で無く、苦笑する艦長であった。いやはや、本当に良くもまあやってくれているものだと思う。誇りに思う反面、もうちょっと平凡、人並みな生き方を選んでくれても良いのに、と思わざるを得ない部分もある。これはもしかすると、本来の自分にはとんと無縁であった『母性』と呼ばれるものに由来があるのだろうか、と気付いたのは本当に最近のことだったが。


「世の中が大きく、変わる。さて、我が息子クリストファよ――君はどう動く?」

 巻き付く潮風を受け、軍帽をやや強めに正しながら、『わだつみ』の八代目艦長は一人、呟いた。



   ・

   ・

   ・


【同年同月同日】

【衛星基地『ハイランド』】


「ぶぇっくしょおおおい!!」

 『ハイランド』は司令官室に入室するや否や、沖田クリストファは突然の激しいクシャミに見舞われた。

「God bless You……つかいきなり凄いのカマすね……もしかしてワシの葉巻の所為せい? まだ今日は一服もけていないんだが」

 部屋の主、ハインリヒ・レスターが心配そうに言ってきたが。その右手をブンブン、と否定向きに振る沖田であった。気が乗った時、たまに部下から貰ってたしなむ程度には、煙草の類は好きな身の上でもある。


「あうう……何処かで誰かが噂している、ってヤツかもしんねえです……どうせろくな噂じゃないんだろうけど……」

 取り出したハンカチで鼻と口元を拭う沖田。

「……まあ、噂もされるだろうよ……。演習内容も先程、見させて貰った」

「それは、お目汚しでございました」

 ハインリヒは自分でれた緑茶を、沖田は持参したパック詰めの水を傾けた。


「うん、まあ、無慈悲過ぎるとは思ったけれど、アレで良かったんじゃないか? 接待、営業的な演習なんて人件費及び燃料費、各種経費の無駄遣いにしかならんのだし」

「どうもあちら側の上層部を含めて、何かチートめいたことやろうとしていた節もあったのでどうしても力は入りました。情報が抜かれていた形跡もあるので、後程レポートの形にしておこうかと思っておりますが……あと、何故か海兵の乱入もあったりして、これはきちんと背景を調査しなければ、とか――」

 うんうん、と湯飲みを片手に頷くレスター大佐。どうも心、そこに在らずと言う印象を受ける。


「……今、『そんな話』をするつもりは無い、と?」

 失礼させていただきます、と断った上で気密服、そのジャケットだけを脱衣する沖田であった。科学技術、宇宙工学類のそれは一昔前のものと比べると多大な進化を達成しており、厚手のスキージャンパー程度のものにはなっている。胸襟きょうきんを開いて、と昔の人間は言ったそうだが、正にそれであろうか。単純に蒸し暑かっただけなのだが。


「帰艦からこっち、一息を吐く間も与えずに呼び付けたことを許してくれ。君の耳に入れておかなければならないことがあるのだ」

 上半身、アンダーシャツ姿になった沖田に対して、レスターはそう口にした。

「驚くかもしれんので、心の準備を頼む」

「ンフッフ……世の中、そうそう驚くことなんて無いんですよ、組長オヤジさん」

 素晴らしく不敵な笑顔の沖田クン(若頭)である。彼等が基本、悪ぶっていても『良い子ちゃん』達なのは今に始まったことでは無い。もっとも、権謀術数に長けたこいつ等には全く、魅力は無いと断言出来よう。守りたい、その笑顔。


「地球本星で、クーデターが発生した。これは現時点、そしてこれからも『成功』と言う形で続いていくだろうと思われる。当然、気付いていると思うが現在、宇宙軍全体に発令されているものはこれに起因している」


 沖田、不敵な笑顔を維持したまま、完全に硬直。いびつながらも、何しろ元が大変な美形なので、これはこれで味わい深く、鑑賞に値する顔となっている。


 十秒、は掛からなかったが、それでも沖田が自分自身を取り戻すまでには時間が要とされた。


 システムエラーにつき、再起動を実行します。


 再起動中……。


「ファッ!? ク、クク、クーデターですと!?!? クーデターってあれですか、あれですよねってなんでどうしてどうなって!!」

 先程までの宣言と不敵な笑顔も何処へやら、完全に我を失ってアタフタとなる『101』の隊長であった。ぶっちゃけ、レスターにとってもこんな状態の沖田クリストファを見るのは初めての体験であった。


「……発起人はシャルル・ヘイスティング元帥、となっている。君も良く知っている人の筈だ、沖田。地球上の全三軍、及び宇宙のそれも基本的にはその指揮下に入ることになっておる――言うまでも無く、統合軍本部も、だが」

 慎重に言葉を選んだ、レスターだった。


「あの爺さんが、やっちゃった!?」

「元帥閣下を爺さん呼ばわりとかこっちのキモが冷えるから勘弁して欲しいが、まあ、『やっちゃった』んだよね」

 月面の軍刑務所で共にクサい飯――いわゆる高級士官以上の独房が宛がわれた為、各種待遇を含めて食事の質は悪いものではなかったが――を食った沖田はともかく、第三者がここにいれば、このレスター大佐も大概のものだ、と失笑を禁じ得なかっただろう。


「……あの人、相当に『今の世の中』、引いては『世界』を憎んでいるなあと思ってはいたけれど、本当に行動に移しちゃったのか……」

 何しろ、他にすること、できることも全く無かったので、同フロア、独房隣り合わせだった彼等に出来る事と言えば会話を交わすこと、ぐらいだった。そこでは互いの身の上を明かしている内に、とんでもない事実、敢えて言うなれば合縁奇縁あいえんきえんが明らかにもなったりはしたが、それは又の話で良いのだろう。


「数年越しの計画ではあったようだ。若干、前倒しになっただけ、とか」

 司令官ことレスターの口振りが気になるところではある。その推測、帰結するところは一つ所であり。

「……組長オヤジさん、いや、敢えてレスター大佐とお呼びしますが、御存知だった? 或いは、率先して協力されていたりしましたか?」

 今度は、レスターが間を置く場面となった。

「……そうだな、敢えて言えば『後者』さね」

 言葉に詰まる沖田の前でレスターは電子端末を取り出した。


「予定ではこれより、ヘイスティング元帥による声明が発表されることとなる。うん、15分後ぐらいだね。沖田は勿論、基地内の連中にも観ておいて欲しいところだが」

 沖田、黙考。そうだ、今の自分には掛け替えのない部下達がいるのだ。個人の判断でどうこうできる身の上では、とうに無くなっている。


「ブリーフィングルームにみんなを集めます。今後の判断を含めて、議論はそこで行うべきかと思いますが――ってまあ、全軍が支配下に置かれているともなれば、我々の選択肢なんて限られたものでしょうが」

 自らの判断を保留、逃げたと言われるかも知れないが。それでも、自分一人では背負うものが大きすぎる。うん、自分の判断は間違っていない筈だ、沖田は自分に言い聞かせるように頷きを強めに加えた。


「……君には権限も資格もある。現時点で、私を拘束する選択肢もあるのだぞ」

 レスターがわざわざ、言わなくても良いことを口にしてしまったのは贖罪しょくざいの念、後ろめたさがあったからに他ならない。だが、これは同時に沖田クリストファにとっては、少なからぬ侮辱と同義であった。


「ぶっ飛ばされてぇんですかい――組長オヤジ!」

 上官に対してとんでもないことを口走ったことは自覚している。ので、後付あとづけでオヤジと加えた軍人さんのカガミ、沖田少佐である。いや、そもそもまともな軍人さんであれば、まずそんな言葉を上官に向けたりはしないのだろうが。


「ああ、もうね、なんかね、全部スッと下りてくるんですよ! 自分達に招集を掛けて、不可能と言われる部隊を再結成、新規編成させる、だとか、管轄が宇宙軍でなくて統合軍になっていたことだとか、ついでに節々で同類である海兵隊の連中との連携があったりだとか、挙げ句にはやたらと地上のお歴々からの有形無形のアクセスがあったりだとか、ですよっ!!」

 一息でまくし立てた沖田、ここでようやく自分の惑乱、その由来元を知ることになる。

「それでもね、僕――俺達はね、今の状況、環境にね、これでも感謝はしていたんです。言うまでも無く、陰日向かげひなたで動いてくれた人達にも感謝はしきれないほどにしているんだ。レスター大佐、アンタはその筆頭だ!! こっちを馬鹿にするんじゃねえ!!」

 涙ぐんでいることには、当の沖田自身が驚いている有様だが。


「すまん!!」

 なんと、レスターはその場、卓上、額を卓に叩き付けるレベルの土下座を行った。

「沖田、すまない、君達を侮辱することを口にしてしまったことを深く、謝罪する!」

「分かってくれりゃあ良いけどさあ!!」

 もはや敬語もヘッタクレもありはしない。沖田はそのハナを大きくすすり上げ、両目元を乱暴に拭う。


「ああもう、これで手打ち! ブリーフィングルームには組長オヤジも立ち会って貰いますよ! 身柄の拘束だとかロウソク鞭打ちだとか三角木馬とかはその後の話です!」

 それは勘弁してくれ、苦笑するしかないレスター大佐であった。今は21歳になっているこの沖田との付き合いは、実に数年に及ぶものではある。申し訳ないことをしてしまったと深く、反省を胸に刻み込んだ。


「ブリーフィングルームを手配させます。連絡が来ると思うので、そのままお待ち下さい、今はこれで失礼します」

「……承知した」

 深い一礼を、これは心から行って、沖田クリストファは司令官室を後にした。





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