Chapter:02-06
Chapter:02-06
『沖田クリストファ少佐――『震電』への搭乗を要請します』
ゆっくりと右膝を突き、その右手をス、と伸ばしてくる『ライトニング零号機』こと、『震電』であった。人工音声の、それも女性準拠のそれであることもあり、本当に『機械仕掛けの女神(Deae-Ex-Machina=デアエ・エクス・マキーナ)』にしか傍からは見えない。
「ありがと!」
差し伸ばされた、硬化FRPとヒヒイロカネの合金で構成された大きな掌に沖田はその矮躯を軽快に寄せ乗せる。
『上昇します――』
ぐん、と力強く10メートルの高みへと体が持ち上げられる感覚は悪いものでは無かった。既に開かれていた胸部のハッチへと一歩を踏み込むに際しては、しかし、改めて息を呑まざるを得なかったのだけれど。
「……なんか久し振りだねえ、58号機」
えいっ、とその体を慣れ親しんだパイロットシートへと投げ込んだ。そう。この『人型』の胸部、内奥にはなんとAF-10『ワイヴァーン』の、コックピットブロック『だった』ものがなんとそのまま、埋め込まれていたのだった。コックピット内のみならず、その外装の所々に踊る『58』と言う数字、また『日本刀を構える鳳凰』をモチーフとするエンブレムも確認出来る筈で、これが果たして誰の『専用機』の一部分であったのか、説明の必要は無い筈だ。
『少佐が壮健なようで何よりです――と、私の『中』の『58号機さん』はそう仰っていますよ』
「……名前、付けておいてあげれば良かったかなとか思うよね、こうなるんだったらさ」
シートに背中を押し付ける沖田、同時にその気密服背面に固定ボルトが打ち込まれた。シートの程良い堅さも、操縦桿、スロットルの各レバーの遊び、他も全て『ワイヴァーン』準拠のそれ、そのまんま。
『今の私に、心、愛を込めてその『名前』をお呼び下されば、それで『58号機さん』にも伝わるんですけれど、沖田サン?』
「『ルミナ』、さて武装を確認するよ?」
シート各部の調整を行いながら、心と愛を込めて呼び掛けたつもりだったのだが。
『――愛が足りない……よよよよょょ……』
「ごめん、今は遊んでいる暇無いからね、後で幾らでも相手してやるから……つかどこで覚えてくるんだ、そう言う泣き真似を……」
『っしゃあ! 把握しちゃいました――武装確認。荷電粒子砲『ブリューナク』、狙撃砲『ヴィントレス改』、ガトリング砲『エクレール』及びグレネード各種、銃剣『ベヨネット』、です。後は内装火器類が通常のそれとなっておりますねっ、以上!!』
『ルミナ』の報告を聞きながら、実際に自らの目で武器諸元の確認を行う沖田であった。
「(立ち直り早えーなぁ)ん、まあ通常装備ってことね――ってこれ充分、異常な装備なんだけどな」
『あの、日村博士から持たされた武装がオプションとして存在していますがこれは携行を許可していただけますか?』
「ファッ!?」
そんな素っ頓狂な声も出ようというものだ。確かにこっち、一ヶ月程は『緊急メンテ』の口実で月面に送っていたこの『震電』ではあったが。
「まーたあの悪女は何か企んでいるのか……まあ、どんな武装なの?」
『ご覧になるのが早いかと』
ルミナの応答と同時に、沖田の眼前にウィンドウが合成された。そこに存在していたのは、なんかどっかで見たような、しかし決して触れた記憶の無い、そして断じて兵器では無い存在、その映像で。
『ハイパー奴床』、と表記されていた。
ルビ振って欲しい! 読めない。しかし、現物の映像があるので、まあ想像は付いた。
「漢字読めないけど『やっとこ』なのは分かるよ!! つかどうやって使うの、これ!? アホでしょ!!」
『いや、そりゃ……これで捻ったり摘まんだり? ですよね、奴床の使い方は』
「使用法についての疑問は持ってねえんだよぉおおぉぉぉ!!!(残響音)」
遠く離れた場所で、共有回線の中、腹を抱えて笑うリチャードとアルトリアであった。あくまでも、他人事ではある。
「ルミナ、どんどん会話が達者になるね」
「そりゃ、俺等や隊長の相手を一年もやっていたらそうもなるさ」
隊長とルミナが、ああやってバカな掛け合いをやりながらも、その実、各種システムの起ち上げを行っているのは伝わってくる。もう少しだけ私語が許される雰囲気を悟ったアルトリア、改めてリチャードに対してヘルメット越し、限定回線を投げてみた。
『私達のワイヴもそうだけど、なんか急に『人間、染みてきた』気、しない?』
至近のリチャードが律儀にヘルメットのバイザーを降ろす様子が確認出来た。
『先日の機材含めた大型アプデ、だよね――それは俺も感じているけれど、やり易くって良いと思っているけれど、アルトリアは違うのか?』
『あ、うん……楽しいし、何よりも頼もしいし、操縦系含めた全体でとても楽になっているとは思うんだけれど、何かちょっと、驚いている――のかも』
人工知能に聞かれてはいない通信の筈だったが、心の片隅で罪悪感が伴うのもまた、現実だった。ごめんね、と小さく呟いて操縦桿を撫でるアルトリアである。
『上手く言葉に出来ないけれど、人知の追従出来ない部分で人工知能の助けを借りるのは悪いことじゃないと思うよ――あそこで今、夫婦漫才やっているロリ隊長さんの受け売りだがね、『人間』と『機械』の相互補填ってえのは今後の人類未来にとっては不可欠のもの、だそうだ』
うん、リチャードの言うことは分かるし、隊長がその様なことを口にしていたのも聞いた事がある。ただ、上手く言葉に出来ないが、違和感はそれでも根強く、アルトリアの中に貼付いてはいたのだった。
『――まあ、隊長と連れ合いの『それ』は相互補填とかカワイイものじゃないし、怖い、薄気味悪い、と言う君の感覚は分からないでも無いけどな』
声を潜めることなく、リチャードはキッパリと言ってのけた。火星沖会戦の末期、『震電』で無茶な出撃を試みる沖田隊長を体を張って阻止しようとした、一人でも彼はあった。まあ、結果的に阻止出来なかったんだけれどね。
『……技術の高度推移、進化に心が着いて行っていないのかもしれないわ――出撃前にごめんね、楽になった』
リチャードを安心させる為に、無理な笑顔と声を作る必要はあった。
『そりゃ結構なこった。また何かありましたら遠慮無くどうぞ、Milady(お嬢様)』
『Thank you Sir Richard Huang』
秘匿回線を閉じたアルトリアが視線を『震電』へと向けたが、未だにギャアギャアとやり合いは続いているようだった。うん、とにかく理解することから始めないといけないね、両拳を堅く握り締め、自らに活を入れた。
「ヤットコは取り敢えず却下だ。いずれ、使う機会もあるだろうよ――無いと思うが――」
ちっ、と舌打ちの後、人間で言う内股、スカート状の装甲板裏からドス、と『ハイパー奴床』は格納庫床、それでも緩衝材の上へと落とされた。
「ちょ、オイイイイ実存していたし、本当に装備していたの!? やめてよ!! あと今お前、舌打ちしたよね!! ね!!」
何と言う資源と技術の無駄遣い! 沖田は頭を大いに抱えるのだった。
『シテナイヨー』
「困った時に『ロボ語』喋るのやめろ、ってってんだろコノヤロー!!」
『ロボ語ちゃいまんねん、半角語でんねん』
アカン、これ終わらないヤツだ――確信した沖田は、ゆっくりと深呼吸。にしてもこれだけの調整をやってくれた、しでかしてくれた、あの魔女はどうしてくれようか、本当に。
「……これからまた、時間はある。ヤットコでもなんでも付き合ってやるから、機嫌直しな。取り敢えず今回のお仕事、ちゃっちゃと終わらせるぞ」
『ヒャッホーーーーーウ!!!』
スクリーン越しにその右腕が勢い、天井へと突き上げられるのが見えた。さながらサタデーナイト・フィーバーかい。今日は土曜日でもないのに。もう良いよ、君がナンバーワンだ。それで良い。どっか正気の沙汰でない。
「……良い返事だ……ハッチ閉鎖、始めていいよー……」
本当になんかもう、どんどんと『人間らしく』はなってきている人工知能――正確には人工知性体だ、とあの博士は言っていた――『ルミナ』であったが。
二重となっている機体側のハッチがゆっくり閉じていくのと同時に、コックピットブロックのキャノピだけが閉じられた。従来のワイヴァーンのメインハッチは収納の都合上、取り外されていたのである。満たされる空気の匂いも、コックピットから見える光景、機器の扱い方もワイヴァーンのそれとほとんど変わりは無かった。『今は』。
「うん、オールグリーン。まあ、なんだかんだ短い時間でよく起ち上げたよ、ルミナ。体感でも随分早くなった気がするし、そこは褒めてやるよ」
『恐悦至極』
「……『震電』、発進準備完了。リチャード、アルトリア、問題は無いよね?」
揃った含み笑いで、ありませーん、と通信が戻ってきた。
『ヤットコは見たかった気もしますが!』
ですよねえ! とルミナが会話に混じってきた。
「余計なこと言うんじゃないよ、リチャード――ともかく、こっちは通常のF装備で向かう。まだまだ細かなところ、気になる部分も有るからフォロー頼むぜ」
『フォローが必要とは思えませんが、了解しました。精々、露払いをさせていただきます』
小さな画面の中、既にバイザーを降ろしているリチャードとアルトリアが頷いた。
「それとアルトリア、早い段階でレーザー通信の準備ね。繋がらなかったら、その時はその時」
『ええ、五分五分、だと思います。何しろ距離がありますし』
「順次、発進!」
A班、シモーヌ組のそれと等しく、粗製濫造の適当な自称強襲揚陸艦。やはり、カタパルトなんて上等な物は存在が無かったので、自力で飛び出していく他ない。アルトリアの110号機がゆっくりと自走を開始、ただ開かれただけの格納庫ハッチから慎重に飛び出していくのにリチャードの62号機が続く。
「ン……これ危ねえな――『ルミナ』、君の判断で発進、離艦しろ。どこか擦っても面白くない――Lumina,You have control」
自信が無い訳では無かったが、操縦桿、他による簡易操縦で飛び出すのには一抹の不安があった。何しろ、ただの艦載機であればいざ知らず、頭頂高のある人型であり、これまた周囲にヒラヒラビラビラベロベロホロホロと色々と付いているし、また多くの火器類を背負ってもいる。実の所、小型機とは決して呼べない『ワイヴァーン』の全長と比較してもサイズ的には大した差は無いのであるが、何しろあっちが基本、『平べったい』のに対してこっちは『ぬりかべ』のように直立した存在である。また、『こっち』はまず破損することは無いだろうが、束の間のお世話になっているこの艦種、名前負けした揚陸艦さん、貴重な宇宙軍の資産を傷付けるのは心から避けたかった。
『I have――『ルミナ』、操縦預かりました――お任せ下さい』
ぐ、と華奢な両足が格納庫床を蹴り、各所の姿勢制御バーニアが点火、またその四肢及び主翼、補助翼の稼働で発生した移動質量により、一切の接触を抜きに宇宙空間へと『震電』は文字通りに踊り出た。踊る、よりも泳ぐ、に近いものだったかもしれない。
さながら羽衣を纏った女神が緩やかな回転を続ける中。
『操縦系、お返しします』
「はいよ、っと」
ルミナが操縦を行っている間、沖田はずっとその両腕を胸の前で組んでいた。彼なりの、信頼の証でもある。操縦権限を預けるからには、それこそ全霊で頼らなければならない、これは彼にとって譲れない、一線でもあった。
慣れ親しんだ操縦桿をゆっくりと握り込み、スロットルを入れた。ぐ、と軽く全身に掛かる慣性負荷は、どこか心地良いものだった。先行する二機、リチャードとアルトリアがその機体間隔を大きく開いてくれる中、『震電』はその譲られたスペースにスッ、と滑り込むようにして布陣した。
『相変わらず早いねぇ……そしてまあ、何よりも美しい……』
どこか、呆れた様子のリチャードだった。実際、結構な速度に乗っていた先行組の二機だったのだが。
「こっちゃ、もう一つ別の推進器背負っているみたいなモンなんで、あまり気にしないで良いよ。後はまあ、美しさ云々は……ルミナ、良かったね」
『震電』がその白魚のように細い指でリチャードの62号機に投げキッスを行った。無論、ルミナの判断でやったことだろう。いいねっ、とリチャードが心から嬉しそうな声を上げた。
『隊長、レーザー通信、繋がったようです。ご命令を』
アルトリアの報告に、おっ、向こうもやるねえ、とリチャードの声が弾む。
「――これより我々B班による敵中央、対艦・対機動攻撃を開始する、と。でまあ、余力があればこちらに呼吸を合わせて臨機応変に対応せよ――そんなところかな。副長ならこれで呼吸合わせて、やってくれるさ。ああ、後は『被弾するな』と強調しておいてくれ」
『被弾? ですか? ――了解しました、隊長。その様に送信します』
最後に沖田隊長が付け加えた命令の意味が、今のアルトリアには本当に分からなかった。そもそもこれって、実戦形式の『大規模演習』の筈、なんだけれどな。実際の艦艇、艦載機は稼働させるものの、その全ての火器類、被害状況はシミュレーション、仮想で再現、行われる想定戦闘だ。そりゃ、被弾しない事に越したことは無いけれど、なんでまた、わざわざ。
『さて、隊長、こっちはどうしましょうか』
幾分、どころでなく大分、畏まったリチャードの声色である。後背からの奇襲と言えば聞こえは良いが、何しろこっちは数字的には異機種編成、実質の一小隊規模に過ぎないのだ。そう、数字的には。
敵艦隊は、その艦数だけで五隻、そして艦載機に至っては40機以上が揃えられたと聞く。対する『第101特殊作戦航空団』はその所属機、全てを合わせても15機にも満たない。ついでに、艦艇の持ち合わせは実質存在しない。強襲揚陸艦、何ソレ美味しいのレベル、の存在が二隻だけ。
「まあ、ギッタギタのメッタメタにしてあげようと思うけどね――」
実に簡潔な隊長の発言だった。と言うか簡潔すぎて具体性が全く無いところに、不穏さを感じる部下二人、ではあったかもしれない。
「――つうか、最初から土台、おかしーんだよ。僕達、この寡兵、小戦力で対艦隊との演習とかな。こっちをあわよくばボコボコにしようとしていたのは『あちらさん』だし、まあそれは手痛いシッペ返しもあるよ、と教えてあげるしかないだろ『教導隊』的に考えてな。骨身に染みるほど、精神を病むほどにね」
口調は穏やかなそれであったが、これ程に敵意、殺気に塗れた隊長の言葉はなかなかこの一年近く、リチャードやアルトリアも耳にした事が無いものだった。それこそ、火星沖会戦、その末期、本当に『鬼』となっていた時の、沖田大尉を彷彿とさせるものだったかもしれない。正直、あまり思い出したくない、間違いなく、それは声を揃えて言える程に。
『ふっ副長達の戦果は彼等にとっても意外、想定外のものだったりしたんですかね?』
多分、竦み上がっているアルトリア、その代わりに口を開かざるを得ないリチャードである。二ヶ月だけ先輩、先任、そんな立場を呪いたくなる瞬間でもあったが。正直、無線越しでこうして会話を交わしていて、なお怖い沖田隊長。普段、軍務外で『ロリ隊長』等とおちょくってはいるが、実に他の誰よりも『軍人』、『侍』なのだ、沖田クリストファは。
「でしょうねえ――基本的に『こちらを本当に舐めていた』のではないかなあ。本当にチートやるつもりだったらシミュレーション、数字自体に干渉しているでしょうし、ノッケ、初っ端の奇襲による二隻、そして時間をおいての三隻目の轟沈は間違いなく計算外だった筈。いやはや、本当にシモーヌさんは良くやってくれました」
あくまでも淡々と呟き続ける、殺気と怒りの込められた沖田の声。
『こっちがそんな『寡兵』を更に分け、挟撃してくるとか考えもしていないかもしれませんね』
「まあ、常識的に考えたら攻撃手段の無い筏空母と10機弱の『ワイヴァーン』が相手だ、と事前に知っていたら、って、多分知らされていたろうし、気も緩むだろうね。案外、シモーヌさん達のA班はその辺に、油断慢心へ付け込むに成功したのかもしんないねえ」
詳細はまだ判然としないが、沖田は実はそう確信していたし、そしてこれは全くの事実でもあった。
『ホント私達、嫌われたモンですね……どうしてこうなったし……って見当は付きますがぁ……』
軽さを装いながらも、かなりの勇気を動員、思い切った発言しているのであろう、アルトリア。
「僕達が実質に統合軍司令部の直轄なのが面白くないんでしょうね。宇宙軍のイニシアティブよ、自分達の手の中にもう一度、なんでしょう」
実際、戦後の『第99特別戦闘航空団』の再結成に関しても大変な困難を極めたのは、部隊構成員全員の身に染みているところではあった。宇宙軍の人材は確かに払底したが、言ってしまうと高級将校だけは安全な月面、他に残り続けていた、本当に救い難い事情も。
『あいつら、下手したらこっちの『震電』の存在も、スペックも知らないんじゃないですかね。司令部預かりの機体ですし、それ』
探るようなリチャードだったが、正に。
「それな! 詳細なデータは持っていないと思う――ま、嫌われたのならとことん嫌われてやろうじゃないか。イマイチ、バカ共が何を目的にしているのか分からないけれど、これより『震電』は敵の旗艦を無慈悲に強襲する。お二人は、フォローをお願いします――」
『沖田少佐、強襲に際して本機の武装選択をお願いします』
もはや、茶々を入れないルミナの凛とした声だった。
「カチコミ、とは良く言ったルミナ!! 右腕に『エクレール』、左腕に『ヴィントレス』、副腕に『長ドス』、で行こうかいッ!」
了解、とルミナが応じるのと同時、『震電』の背面に固定されていたガトリング砲が副腕、サブ・マニピュレータによって右腕に、また同じく狙撃砲が左腕に装備され、続いて最初の役割を終えた副腕の左右、それぞれが高振動ブレード、その柄を固定する事となった。正式名称は『ベヨネット』であったが、『第101特戦団』にあっては『長ドス』と呼ばれている存在であり、実質史上初の『宇宙空間に於ける白兵武器』でもあった。無論、装備可能なのは『震電』、ただ一機であったが。現時点では。
火器類、それぞれの応答信号、他に一切の問題無し。完全な攻撃の、『型』となった『震電』、その小刻みに震える巨体の全身、節々から眩い光が零れ漏れ始めた。地球上の『蛍』に喩えられる、あくまでも朧で儚げな光が半透明、白色の装甲を大いに輝き飾り立てる。
機体名、『震電』。
その真名は、『RLightning』。
この『発現』の瞬間を目の当たりとして初めて、観察者はこの機体が所有する名称、響きの真なる意味を知ることとなるのだろう。
機体、左肩部の装甲が二度、三度といや増しに輝き、そこに反映されたのは果たして紅一色、『日本刀を構える鳳凰』の意匠であり、その背景にはまた薄紅色で『RL』の二文字が大きく、引き延ばされていた。
『トラクタフィールドの各部循環、問題無し――耐慣性負荷、機動限界値にまで更新、完了――各種機関、良好――いつでもいけます、少佐』
すぅ、と沖田クリストファは大きく、息を吸い込んだ。
「敵艦隊へ強襲するよ!! 着いてこい!!!」
『『了解っ!!』』
脱兎のように、それこそ宇宙空間を全力で蹴り付けるように飛び出した『震電』の跡を、二機の『ワイヴァーン』が、やはり全力で続く。