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光芒のライト=ブリンガ  作者: Yuki=Mitsuhashi
Chapter:02
13/31

Chapter:02-05

Chapter:02-05



【snipe】

[名詞]:(複数形) [snipe]:(snipes)

[鳥] シギ、タシギ (猟鳥)

[動詞] [自動詞]

 1. シギ猟を行う

 2. 狙撃する


 現代社会にいて『狙撃手』の意味合いとして広く認知されている『sniper』と言う単語、その語源は実は野鳥のシギ科、タシギ(英: snipe)にあった。


 『シギ』は大変に敏捷びんしょうで、且つ複雑な飛行を可能としている野鳥であり、その当時の――18世紀から19世紀と言われている――銃器の射撃精度では仕留める事が大変に困難な存在であった。


 故に、他鳥類の狩猟とは別にシギ猟は『Snipe Shooting』と呼称される様になり、結果的に『Sniping』と言う言葉が派生――そして、特にシギ猟に優れた猟師の事を『Sniper』と呼ぶようになった、とされている。



   ・

   ・

   ・


 時が過ぎ、近現代に及び至っては、『スナイパー』と呼ばれる存在がどのようなものであるのか、説明する必要は無いだろう。


 地上、陸上を始めとした直接戦闘がすっかりと過去のものになり始めているこの時代にあって、『スナイパー』の存在はそれこそ限られた軍隊、警察機構にあって細々と育成が行われている日陰の存在に過ぎなかったが、完全な消滅、絶滅へと至らないその理由は重火力を必要としないピンポイントでの目標破壊――言葉を飾っても仕方ないので、まあ殺人――が必要とされる場面、状況は絶対的に必要とされていた、その一点にあった。

 凶悪犯であるとか、テロリストに対する無慈悲だが絶対の、即時の無力化手段は社会にとっては必要不可欠の技術だったのである。


 しかしと言うべきか、更に、と続けるべきか。この時代、限られた状況下。従来の『狙撃』とされる行為には新たな意味合い、意義が産み出される事とはなっていた。


 宇宙空間における、『艦載機を介した狙撃行為』がそれである。


 かの人類史上初の宇宙戦争となった『火星沖会戦』において、『第99特殊作戦航空団』が深刻な物資に始まる火力不足にあえぐ中、不要品扱いで艦内武器庫にて固定放置されたままの『狙撃ユニット』に着目したのが切っ掛けではあった。


 本来は艦艇の外壁等に直接固定する代物であり、有人、或いは無人で運用する代物だったらしいが、使途が極めて限定されることと、狙撃銃ならではの使い勝手の悪さ――連続射撃が困難なのは言うまでも無い――もあって実質放置、言ってしまうと『無駄な重石』になっていた存在であったらしい。


 こいつの実弾、弾薬だけは山のようにあるんですよ、と大いに嘆いた補給課の担当者だったが、現物を前にした『第99特戦団』隊長は腕を組んだまま、ゆっくりと口を開いたそうだ。


「……これ、『ワイヴァーン』で使えるんじゃないですか?」


 既に撃墜王として整備士達を含め全乗組員から神聖視されていた沖田隊長のその発言は直ちに検討に移され、程なく『ワイヴァーン』のメインOS、人工知能群と『狙撃ユニット』のそれが奇跡的にマッチングする事が判明。また、設計者の『こんなこともあろうかと』とばかりに設けられた機体中心、上面のハードポイントにあつらえたようにユニット基部が収まる事が確認された。嘘みたいな本当の話と、奇蹟の連続が産んだ、まさかの『ワイヴァーン』新兵器、が誕生した瞬間であった。それも戦場、ただ中で。


「これで、次の補給が来るまではしのぐ事にしましょうか!」


 半ばの『その場凌ぎ』的に考案、実行に移すこととなった『狙撃』に徹した特殊戦闘であったが、何しろ敵味方共に運用それ自体の前例が無かっただけに、これは距離を置いた上での最前線の押し出しに成功、貴重な時間稼ぎに成功する、そんな地味ながらも得難い戦果をもたらすこととなった。


 後方から補給、正規需品(じゅひん)が届き始めてなお、『第99特戦団』のワイヴァーン数機はこの狙撃ユニットの装備を継続していたが、これは止むに止まれなかった筈の武装選択が、戦術、戦略的に正しかった事を証明していた顕著な一例、証明となるのだろう。


 最も過酷、困難な出撃任務に従事していた彼等、鬼の『第99特戦団』、通称『モーニング・スター大隊』はこのように、最前線にありながらも独自の組織、戦術進化を貪欲どんよくに、つ柔軟に続けた事もあって、


 終戦へと至るその時までただ一人の欠員も出すことが無かった。



「……シモーヌさんはこれ、向いているんじゃないのかな。この高い狙撃技術はみがき続けるべきだと思いますが、本人的にはどうです?」

 狙撃ユニット入手の当時、部隊総出での試射を行った後に、そんな射撃結果のデータを片手に沖田隊長はそう呟いたのだった。

「……あ、そうね、うーん、まあ……隊長に及ばないのは分かってますが、それでも部隊内でこれだけ数字で出ている、ってのはそう言う事なんでしょーねえ……」

 実際、非情な現実として、目標ドローン(無人機)に対するグルーピング(集弾率)は『第99特戦団』の中では沖田隊長が圧倒的、次点が私ことシモーヌ、後は越えられない壁、と言う数字ではあったのだが。あ、他の部隊メンバーの名誉の為に付け加えておくと、彼等の水準はこれでも一般パイロットのそれを遥かに凌駕りょうがしていた、とはね。


 本当に、何もかも、この隊長にはかなわないのがなあー。今回ばかりはちょっと、自信有ったんだけどなー……。ほんっと自信無くすわぁぁぁぁぁ。


「……僕と張り合う必要なんて無いんですよ。役回りが全然違いますし、大体シモーヌさんが副長やってくれていて、本当に助かっているんですから」

 あくまでも涼しげな沖田クリストファ大尉(※数週間前まで准尉)が限り無く伊達だての眼鏡を優雅に下ろしながら言ってくる。


「……お、おう……」


 ったく、このクソ美形のロリ隊長め、いつかその寝込みを襲って前から後ろから攻め立ててヒイヒイとカワイイ悲鳴を立てさせてくれるわ!!


 と言う段階、妄想その他は当時のシモーヌ・ムラサメ大尉(※先任)にとっては既に過去のものとなっていたので、


 ど う と 言 う こ と は 無 か っ た 。


 そう。大丈夫大丈夫。


 だいじょうぶだ…… おれは しょうきに もどった!


「……なんかセクハラめいたこと、考えてませんか大尉?」

「NOじゃけえ!」

 男の癖にやたらと長い睫毛まつげ奥二重おくぶたえ――ジト目一つ取ってもなんか妖艶ようえんな色気を漂わす沖田隊長に対して、即答出来るぐらいには、NO! エロス!! なんで広島弁になったのか、自分でも分からぬが!


「……大尉が後方で牽制けんせいしてくれると、非常に助かりますね。この狙撃精度だったら世辞抜きに信頼出来ますし」

 追求を諦めたのか、それともはなから求めていないのか、沖田大尉はあくまでも平静であった。 


「……まあねえ、性格的には前線でヒャッハー寄りかなあ、とは自覚していたんで、正直自分でもこの結果には驚いていますが」

 てへへ、と照れながら後ろ頭をいたりしてみたけれど、180センチの私がやっても全然『カワイク』はないんだろーな。


「……ええ、正直、私もシモーヌさんは前線でバーサーカーとかアマゾネスよろしくアッララララーイ! って雄叫び上げて戦うタイプだと思っていたので意外でした――まさかのスナイパー適性ですもんねえ! あっはははははは!!!!!」

 両方の人差し指で鬼の角、を模しているらしい沖田隊長が珍しく、大きく笑ったようだった。


「――隊長、今どんなパンツ履いてるんですか?」


 室内の空気が固まった。自分の発言だった、と知ったのはその状況になってからだった。本当は私、


『――隊長は私の事そう思っているんですねーウフフ』


 としなを作ろうと、流そうと思ってたのに。いや、否定はしない。確かに、こいつ、どんなパンツ履いているのかな、とは思っていた。ブリーフなのかトランクスなのか、或いはボクサーか、まさかのフンドシとか伝説の『男おいどん』的、猿股さるまたとか。


「……え、質問の意味が本当にわかんないんだけど――今、僕の耳が間違って無かったら大尉、パンツって言いました?」

 ガタッ、と大きく椅子ごと更にズザァと距離を置く沖田であった。その判断は多分正しい。


「私、今日は赤いの履いているの。髪の色、他とかと同じなんですよヌフフ」

 なんかもう、ヤケクソで一歩をずい、と詰めてみた。ほうほう、怯える隊長の顔もなかなか、そそるではないか。ヨイデハナイカ。もうここまで来たら突き進もう、シモーヌ! 実際に疲れているのは事実なんだし! 戦場に潤いを!!


 アッララララーイ!!


「いや、聞いてないし! そんな予備情報、知りたくないよ! ちょ、なに、大丈夫ですか大尉!? まさか酒、入れてますか!?」


「……大丈夫じゃ無いんですよ、きっと――さあパンツ見せるのだ。私も見せてやるからホレホレ。隊長の務めですよ、それ」


「ちょ、それ以上近付いたらアレですよ、考えありますよ!」

「階級同じでしょ」

「え、ちょ、なに、まじ――」




「アッ――――!!!!!!!!」


 



   ・

   ・

   ・


「ちっ、余計なこと思い出しちまった」

 余計どころじゃ無いだろ、と自身のツッコミを含め、改めて呼吸を整える現在のシモーヌさんであった。しかし、その間も抱える銃器ユニットはビクともしていない。ふう、最後にもう一度、息を吐き切った。


 米粒大の目標、その一点。コンピュータ補正によって拡大されて、なお朧気おぼろげな、それ。


 各種カメラを経由し、自らの眼球、その一点。


 点と点が結ばれ、線となる感覚の獲得に成功した。


 いける、そんな直感と確信。


 これは、言葉にするのは、とても、難しい。



『いけ――』

 覚悟と共に、その引き金を引いた。


 狙撃銃『ヴィントレス』の銃口、激しいマズルフラッシュが発生する中、シモーヌは二度、三度、四度と躊躇ちゅうちょ無く引き金を続けて絞った。計、四発を連続射撃した計算となった。

「24号機、リロード。予備弾倉は『ショットシェル』に差し替えろ」

『リロード了解しました。予備弾倉を散弾に切り替えます』

「オーケー!」


「13号機、そのまま予定通りに先行する里山達と合流しろ。こちらはもう充分。24号機はこれより独立狙撃行動に移る。幸運を祈るよ、ミランダ!!」

『了解しました! せめて、弾着は見届けたかったですが!』

 13号機が両主翼を器用にバタつかせる。

「なあに、見届ける必要は無いよ――」

 ちょっとぐらい、気取っても良い筈だったので、シモーヌ。


「――私の撃った弾はね、あたるようになっているのさね!!」


 ……決まった! と自己満足に浸れたのも、ただの数秒間。


『隊長のハートも狙い撃てればいいのにね!! ――13号機、先行します』


 とんでもないミランダの置き土産。どんな爆弾よりも破壊力はあったようである。


「てめっ、ミラン――ちょ――いやん!! ごふっ、ぐふっ――ぬふぅ」


 自らの姿勢を機内で元に戻す中、膝を滑らせたシモーヌはその顔面をしたたかにフットペダルにぶつけ、翻筋斗もんどりを打つ事となった。



   ◆ ◆ ◆



「たったの二機だが、舐めて掛かるなよ、凄腕に決まっているからな! きちんと演習通りにフォーメーションを組んで集団で当たるようにしろ、サシで渡り合おうなんてバカな色気を出すんじゃないぞ、ヒヨッコ共!!」

 出撃を控えた艦載機陣に直接、指示を行う艦長だった。甲板長に指示をしている暇が本当に無かったのである。


「え、なに、これ――」

 オペレーターの発言に具体性を要求しようとした艦長だったが、艦の管制システム、人工知能の応答の方が早かった。すっかり馴染みとなった警告音が鳴り響く。


『推定、超長距離射撃による攻撃を受けました。第二艦橋被弾、損害評価『中』、また第二カタパルトに被弾、これは損害評価『小』――』

 バカな、一体どこから……人間はおろか、システムが警告を発する前に被弾しているとか、どれだけ遠距離からの攻撃なのか??


 まさか、これが噂の『シギ撃ち』か!?


 艦長は、しかし最後まで考えることは出来なかった。次の瞬間、第一艦橋に命中、装甲を貫き、乱入した敵弾が爆発。


 軽空母『ローザンヌ』は、完全に指揮系統を喪失した。




   ◆ ◆ ◆



「もうアイツ等だけでいいんじゃないかな……」

 戦略概況図を眺めながら、呟いた。いや、本当に、ここまでやられると、なんかこう、困ると言うか……嬉しい反面、複雑でもあった。まあ、頼もしくて実に結構、なんだけどね……。


「ボコボコにファックしてやれ、って煽ったのは沖田隊長っすよ……にしても艦艇をふた隻撃沈、でもって一隻を行動不能って……」

 格納庫内、車座でそれぞれの立体映像画面を眺めている中、隣のパイロットスーツが同じように頭を抱えた。


「う、ううん――まさかここまでヒャッハーされるとは……凄いのね、僕達……って、たまに忘れそうになるんだけどさ」

 沖田隊長と呼ばれた気密服はここでシモーヌ副長の狙撃結果のリストを開いた。


「凄いなシモーヌさん、四射、皆中かいちゅう決めてる……」

「よくもまあ、あの距離で全部、てるもんね……さすが、『シギ撃ち』」

「アルトリアさん、そっちのデータ、貰えますか」

 はいよっ、と立て膝のまま、アルトリアと呼ばれたパイロット女子が眼前の立体映像を右手指で弾き飛ばしてくれた。


「カタパルトにイチ、副艦橋にイチ、でメインにフタ……いやはや……凄いですね、副長は」

「狙撃勘、って言うんですかね――隊長、副長のそれは見習いたいところですけどねー」

 感嘆せざるを得ない、大戦果であろう。多分、自分アルトリアが同じ条件下で狙撃を試みたとすれば、一発でも当たれば御の字、ではないかと思われる。命中率は三割あるかどうか、ってところだろうか。


 部隊のナンバーツーであり、副長でもあるシモーヌは、ああ見えて凄腕も凄腕なのだ。本当に、一見すれば『ああしか見えない』のが彼女の恐ろしさの本質でもあるのかもしれないが。それを言うと、目の前に居る隊長は隊長で、別の意味でもっと恐ろしい存在であったが。


 傍から見れば『絶対に軍人に見えない』、沖田クリストファ隊長。


 階級は中佐待遇の少佐であり年齢は21になったばかり。その身の丈は成人男性の平均値よりも低いぐらいであり、体格も細身、処女雪の輝きを思わせるほどの銀の混じる白髪を首元で結ぶ、言わばホーステイル、と言うものだろうか。まあ、より表現を加えるのならば、『軍人に見えない』どころじゃなくて『男性に見えない』のが正確なところか。クリストファでなく、仮に女性名のクリスティナ等と名乗っても、多分誰も違和感を覚えることは無いだろう。虫も殺さない、さながら花の蜜とか吸いながら花から花へと舞い飛び渡る妖精みたいな顔、面持ちは部隊の女性陣からすればややもしなくても嫉妬しっとの対象となるほどに整ったものであった。


 が、この虫も殺さない妖精みたいな美人男子は、先の『火星沖会戦』で獅子奮迅ししふんじんに留まらない、さながら魔王無双まおうむそうのような戦果を叩き出した結果、『白の戦慄せんりつ』となんとも物騒な二つ名をいただくくこととなっている人間、存在だ。


 なお、当の本人はあまり気に入っていない模様であるから、部隊内でのこの呼称の扱いには地味に注意が必要である。豆知識ね。


 当初、準士官である准尉の階級であった沖田は実に終戦時には大尉にまで昇進しており、また一年が経過した今にあっては少佐という階級に着いているが、これはこれで昇進スピードが極端に速すぎること、問題点を本人は元より、上層部も勘案した結果、ここで無理矢理に留め置かれている感が半端無く大きい現実があった。中佐待遇の少佐、そんなややこしい背景にはそんな事情が伴っていたのだ。オマケだが、『第101』のメンバーは同じ理由で、基本的に『実階級より一階級上』の待遇を受けていることは触れておくべきだろう。


 軍務外にあっては、部下の自分が言うのも難であるが、沖田クリストファは偉ぶることも無く周囲と接し、余暇を共に満喫するなど、極々普通、年相応の青年男子でしかなかった。

 前例の無い昇進速度、また異例の部隊長への抜擢ばってき、そんな特殊事情が盛大に重なった結果、周囲が年上の部下ばかりとなっている事もあって、普段は敬語を用いる事すらあったし、部隊員達もそれは分かっているのでどこか弟、或いは妹のように相手している部分も……色々とアレだがあるのだ、これが。


 『ロリ隊長』


 この呼ばれ方の破壊力たるや。そう。『ショタ隊長』ですらないのだ。


 恐るべし、としか言えない、『第101特殊作戦航空団モーニング・スター』、その深い闇部分、本質であった。


   ・

   ・

   ・


「……まあ、ともかくそろそろ僕達も備えるとするか」

 沖田ロリ隊長がゆっくりと立ち上がるのに、アルトリアも続いた。遅れて、男子パイロットが慌てて体を起こす。


「ま、三人だけで寂しいけれど――形式は、大事さね」

 ヘルメット片手の沖田隊長が顎をビシ、と天井面に向けた。


「62号機、リチャード・ホアン中尉!」

 はいっ、完璧な宇宙軍、二段階式敬礼を決めたリチャードであった。名前こそ中華系だが、日本自治国の出身であり、工業コロニー『出雲』にて生まれ育った、根っからの宇宙っ子である。パイロットの腕前のみならず、情報関連技術に強く、部隊でも重宝されている存在だ。


「110号機、アルトリア・オブライエン中尉!」

 ヤー! 元気良く、弾むような敬礼。ブリティッシュ自治国の出身であり、噂では『騎士号』を持つ家系だそうだが、どこまでが真実なのかは誰も知らない。執事とメイドがいるような実家らしく、いつか『第101』のみんなで遊びに行こうぜ、と冗談抜きで話が及んだら、全員泊まることは出来るよ、と応じて本当にその周囲を驚かせたとか。


「御両人には僕の両翼を固めて貰います――さて行きますよ、助さん、格さん」

 キリッ、と袖口の気密服パネルを操作する沖田隊長だったが。


「「はい、ご老公――ってアンタの方が年下やんけー!!」」


「うむ、流れるようなノリツッコミ、素敵ですね――ま、ほんじゃ『第101』、B班、推して参るとしましょう。各自、搭乗!」


 アイッサァ――、とそれぞれの専用機に向かって駆け出すリチャード(助さん)アルトリア(格さん)であった。


 うっし、と強めに鼻で息を吐いて、沖田クリストファは自機の元へ向かう――必要は無かった。


「さあ、僕達も始めようとするかいっ!!」

 キ、と沖田が振り向いた先、ほとんど格納庫内壁の奥面を占領する形で存在していたのは巨大なコンテナであった。実にその高さ、20メートル、ほとんど格納庫の天井にまで及ぶ程のものであり、対して横面と奥行きはその半分ぐらい、の直方体であろうか。


 『許可無く接触するな』、『昇るな』、『取扱注意』、と警告文が節々に刻まれているところはさながら劇物の含まれる弾薬コンテナのそれを彷彿とさせるかもしれない。


『RL-000《アールエル-ゼロ》、起動します』


「『第101』隊長である沖田クリストファ、起動を承認する」

 外部発信された人工音声に応じた沖田隊長の前で、『RL-000』と大きく刻まれたそんなコンテナ、頑健な金属で作られた封印であるロッキング・シールが激しい音を立てて解除され、少々の爆発にも耐えられそうなゲートが重々しく左右に開かれて行く。


 格納庫内、対面で既に自機コックピットに昇っていたリチャードがピュ、と口笛を大きく立て、アルトリアが投げキッスを送る中、コンテナの中に収容されていた『それ』は、ゆっくりと『一歩』を踏み出した。重量感を周囲に感じさせない、『り足』のそれであったかもしれない。本当に、ス、と。


 観る者が目の当たりとすれば、その視覚を疑うレベルの存在が、そこにあった。


 その巨体には四肢が、両の手足が存在していた。


 また、よりその特異な形状をいや増して、『ある形』に連想させる部位、頭部としか呼べない存在。


 輝く両目、筋、通った鼻梁びりょう


 横一線、どこか苦痛に食い縛っているかのように見える口元。


 それは、まがう事なき『人型』であった。


 全長、実に15メートルを軽く超える存在であり、機体――こう呼称して良いのか迷う向きもあるだろうが――のカラーリングは白で全身の装甲が統一されており、半透明掛かった表面加工は、ただただ観察者に神々しさを感じさせる程のものであっただろう。神々しさ、と表現したが、その意味では正に華奢きゃしゃな女神像をかたどったような、とも表せるだろう。


 さながら白亜の大理石をそのまま削り上げたような『人型の機体』はしかし、造形物ではないのだとばかりに身動みじろぎ、その『顔』を、『面』を上げた。人体にたとえれば、その両目部位をカバーするバイザーが勢い下りて、その口元を無粋なフェイスガードが覆う。四肢のみならず、背面各部に接続された翼、『ワイヴァーン』のそれを彷彿ほうふつとさせる存在が大きく展開し、いよいよ翼持つ『女神』、『天使』然としたそれは、ある意味では雄々しく、しかし正確には女々しく二歩目を踏み出す。やはり、その頭頂高、質量から連想される重量感は皆無な歩み、二歩目であった。


 ぼう、とその両目に力強い光が発生したが、これはバイザーでも減衰出来ない程の光量であった。


『型式番号『RL-000《アールエル-ゼロ》』


RLightningライトニング零号機』


『機体名『震電しんでん』ここに起動完了しました!!』







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