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08-01:ダーウィン少年探偵団

 一月十一日、前日の夕方ダーウィンに着いたAB社の観光バスの乗客は、ダーウィンの何処にいてもこの町の子供たちに見張られていた。実際子供たちは市内のありとあらゆる所に潜み、乗客たちの行動を逐一、作戦本部と定めた彼らのリーダー、コリン・リーの家の二階に通報していたのだ。


 コリンは市の中央にある中国料理店の一人息子で、中学二年生。ワイプルダンヤがダーウィンにいる時は、彼から数学とフランス語を習うのを常としていた。昨日、相前後してダーウィン入りしたワイプルダンヤ、ツギオ、シロ―の三人、それにコリンは、今朝からこの中国料理店の二階に陣取っていたのである。


 この日最初にもたらされた情報は、郊外のキャンプ場から市内見物にやってきたAB社のバスに、ライケン家の人々とジョルジュが乗っていないというものだった。時を移さずキャンプ場に自転車をとばした少年から、ライケン家の三人、ライケン夫人、シモーヌ、フランソワが彼らのテントの前に座り込んで、ぼんやり南の空を見つめているという報告が入った。




 ダーウィン市の目抜き通り、スミスストリートを、乳母車を押しながら所在なげに行ったり来たりしているアボリジニの少女がいた。乳母車に乗っているのは彼女の弟、縮れ毛の金髪に、前日までツギオがしていた鉢巻をしている。彼女は時々、弟から鉢巻を取り上げようとするのだが、そうすると弟の方は乳母車の中で立ち上がって、大声で泣き喚くのだった。弟が、通りに面したスーパーマーケットの前で今朝何度目かの大声を上げ始めた時、店から新聞を買って出て来た痩せっぽちの雀斑娘が、脇を通り過ぎようとして立ち止った。


「まあ素敵な鉢巻ね。赤ちゃんのお気に入りなのね」

「ええ、本当は私のなのに」

「まあ、お姉さんは大変ねえ。あなたお名前は……」

「ハンナ」

「私はルイーズ。ハンナ、これはあなたたち部族の鉢巻なの?」

「いいえ、貰ったの、外国の人に。その人、連れのニュージーランド人のお爺さんとはぐれちゃったの。それで私たちで捜してあげたんで」

「そのお礼って訳ね。それで、その人はもしかして日本人じゃなかったかしら、私ぐらいの身長の」

「日本人かどうかは分かんないけど、東洋人、色の黒い。でもどうして知ってるの」

「私の知ってる人じゃないかと思って。コンノっていうんだけど、彼もそれとそっくりな鉢巻をしていたので。それで、彼に会ったのはいつ頃のことだったの」

「確か、二日前の朝よ。でもまだダーウィンにいるかも、仕事があるって言ってたから」

「何処にいるか分からない? 何とか見つけたいんだけど」

「さあねえ、でもそれなら私たちのたまり場に来てみれば。他の子が知ってるかも」


 ハンナは何処かへ電話した後、ルイーズを作戦本部へ案内した。


「あの外国人を捜しているんだって?」


 コリンが言った。部屋はすでにきれいに片づけられ、コリンの他に二、三人の少年がルイーズを迎えた。コリンが続けた。


「僕、あの時からちょっと気になってたんだ。その人、僕たちがその連れの人を見つけてあげたのに、なかなか腰を上げずに、ここで落ち着き払ってコーヒーなんか飲んでてね。それでホテルまで案内しようというのを断って一人でウッズ通りの方へ歩いて行っちゃった。連れの人はホテルダーウィンにいるっていうのに、まるで反対の方向じゃないか。奇妙な話だろ。あのお爺さんに迷惑をかけたんじゃないかと、それが心配だよ」

「その老人は多分彼の知り合いでしょう。白人の老人とケアンズのホテルで一緒にいるところを見た人がいるの」

「ケアンズだって。そんな遠くからずっと追っかけて来たのか。彼はいったい何者なの。よかったら、どういうことなのか教えてほしいな」


 ルイーズは少し躊躇っていたが、自分と年の近い甘いマスクの少年に親しげに話しかけられ、つい打ち明ける気になったようだ。


「実は、私のパパは探偵なの。ある人の依頼で彼を内偵していたのよ。依頼人によると、マニラから帰る時に乗った飛行機の中で、コンノの持っていたショルダーバッグと依頼人のが取り替わってしまったのですって。それで、その人はメルボルンの空港で逮捕されちゃったのよ。ヘロインが入ってたんですって。五百グラムも」

「うわあ、凄いなあ。本物の探偵だなんて、僕、憧れてたんだ。ルイーズ、君はいつもそうやって調査の手伝いをしてるのかい。羨ましいね」

「いつもって訳じゃないわ。今回は特別。これは今度の事件の捜査方法と関係あるのよ。パパが今度の仕事を引き受けた時に分かっていたのは、ヘロインの本当の持ち主がツギオって名前の日本人で、メルボルンの郊外のボックスヒルって町に日本人の知り合いがいるって言っていたっていうことだけだったの。もちろん名前だってでたらめかも知れない。麻薬を持ち歩いているような人の言うことなんて、何処まで信じていいか分からないでしょ」


 ツギオを犯人扱いするルイーズの態度に、反論しかけた仲間の少年を、コリンは眼つきで止めた。


「パパは最初にその日本人の言ったことが本当かどうか試してみることにした訳。ボックスヒルの電話番号から日本人らしい名前をピックアップして、その人たちに片端から電話してみたのよ。そしたら、ナカタという人がコンノのことを知っていて、AB社の観光バスに乗っているって教えてくれたわけよ。そこでパパはそのバスに観光客を装って乗り込むことにしたんだけど、私が一緒の方が観光客らしく見えるし、二人の方が何かと便利かもしれないと考えたの」

「それじゃ、メルボルンからずっと?」

「いいえ、コンノがどの観光バスに乗ったのかがはっきり分かったのはクリスマスの日だったの。その時にはバスはもう出発してしまっていたわ。だからツアーに参加したのはシドニーから」

「そうだったのか、でも一つ分からないことがあるな」

「どんなことかしら」

「なぜその、依頼人の持ち込んだショルダーバッグが、コンノって人のものだってことになるんだい」

「それは、そのバッグの中に入っていた色々な品物についていた指紋とコンノの指紋が一致したの。コンノの指紋はパパが彼のカメラのレンズキャップから採取したものなんだけど」

「バッグや麻薬の包みにも彼の指紋が付いてたの」

「いいえ、バッグからは、はっきりした指紋は取れなかったし、麻薬の包みの方は消したらしいって。でも同じことじゃないかしら、だってバッグの中に入っていた絵葉書やなんかに付いていたんだから」

「証拠はそれだけ?」


 やや挑戦的なコリンの質問に、ルイーズは勢い込んで答えた。


「ナカタさんの家から押収されたバッグからは、依頼人の言ってた通りの品物が出て来たのよ。フィリピン土産の民芸品とか。依頼人の指紋まで付いていたわ。それも包装紙に包まれた貝殻細工や何かに付いていたのよ。勿論そんな所にコンノの指紋はなかったわ」

「ツアーの人たちびっくりしたろうね、密輸犯と何日も一緒にいたなんて」

「最初のうちは皆半信半疑だったみたい。とてもそんな悪い人には見えなかったの。ハガサってお婆さんなんか、いまだに“そんなこと信じてやるものですか”って言ってる位よ。その人コンノがお気に入りだったのよ。でも間違いないわ」

「証拠が揃いすぎてるね」

「警察だって逮捕状を取って捜してるのよ」

「それじゃ、その依頼人の無実は証明されたって訳だ。でも君、まだコンノを捜しているって言ってたみたいだけど」

「依頼人の希望でそうしてるの。犯人のコンノが捕まらないうちは何か宙ぶらりんみたいで気持ちが悪いって」


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