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覘くシャソウ  作者: 仁科百太郎
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二駅目

甲高い音が鳴り、電車が停まる。

ため息の様な音を出して扉が開くと、一組のマーモセットの家族が乗り込んだ。

仲睦まじく、父親と母親の間に子供がちょこん、と座った。

子どもは電車が珍しいのかきょろきょろと当たりを見渡している。

父親はそれを少し咎めるように軽く頭をなでると、優しい笑みを浮かべた。


扉が閉まる。


私一人ではなくなった電車で、私はまた独りになる。

マーモセットの子どもは私には目もくれない。

走り出した電車は、興味を持たれない私も、マーモセットも差別せず置いて行こうとする。


慣性の法則といったっけ。


浅い物理の知識を頭の引き出しから出そうと思ったけれど、勿論、引き出しが浅いのでそれ以上は出てこなかった。

例えば、私が物理に富んでいたら、この席を立ちあがって、マーモセットの子どもに


「電車が動くと逆方向に引っ張られるわけはね…」


なんて話しかけていたのかもしれない。


…いや、ないな。


心の中で通説を唱えて終わりだっただろう。

そこまで考えて、思考を止めた。


とんとん。


何者かに膝を叩かれる。


そして私は思わず笑ってしまう。


興味がなかったのではないのか。

相手ももしかしたら、どこか照れ臭かったのかもしれない。


マーモセットの子どもは笑顔で私にピンクの包み紙に入った飴を差し出していた。


もしかしたら私が困っているように見えたのか、マーモセットの父親が駆けつけて頭を下げる。

母親も席からではあるが頭を下げている。


「…ありがとう。

いただきます。」


差し出してくれた飴を受け取って、出来る限りの笑顔を返す。

父親と母親は再度頭を下げていた。

子どもは満足したのか席に戻っていく。

遅れて父親も戻っていく。

もう、この先この一家と目線が合うことはないだろう。

せめて何かお返しできるお菓子があればよかったのかもしれないのだけれど。

トマトを残した私にそんな資格はないのかもしれない。


嗚呼、なんて気まずい箱の中。


私はただひたすら、窓の外を見るしかなかった。

手には飴玉を握って。


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