一駅目
トンネルでもあればいいのに。
代り映えしない窓の外をちらりと覗いてそう考える。
トンネルがあれば、ひどい耳鳴りがきーんと頭を支配した後、変わった世界を見られるのに。
この線路の上にトンネルは恐らくない。
私の進む道にもトンネルなんて恐らくない。
抜けちゃえば違う世界なんてあり得るはずがない。
「なら、なければいいのに」
道諸共、無ければいいのに。
傍らでは小さめのキャリーバッグが電車の振動に合わせて、私から離れていこうとしている。
そんなに必死に離れなくてもいいのに。
広い車内はがらんどう。
走り回ることだって出来そうで。
いや、勿論しないけれど。
そう考えて首を振る。
私がもしも、今、この瞬間、この広い空間を走り回れる人間だったら恐らくきっと今よりも良かったのかもしれない。
そんなのはすべて憶測でしかないけれど。
キィ…
不安な音を立てて、身体が意図しない方向へと引っ張られる。
キャリーバッグは更に遠くへ行こうと身を乗り出した。
…駅だ。
私の乗った駅の一つ隣の半無人駅。
今日もナマケモノの様な顔をした起きているのか、寝ているのか、はたまた死んでいるのかも分からない駅員さんが駅員室から顔も出さずに、滞在しているのだろう。
勿論、誰も乗ってこなくて車内は依然として私一人だけだった。
プシュー。
重たい音がして扉が閉まる。
降りて帰ろうか。
そんな気持ちを一瞬持ったけれど、ナマケモノが死んでる所なんて見たくないからやめた。
電車はまた進みだす。
そして私はどこへ行くのだろうか。