出発
揺られているのは何故か。
電車に乗っているからか。
ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
陳腐な音が骨に響く。
馬鹿みたいだ。
鉄の箱の中で私は、独り、唇を噛みしめる。
乾燥で少しかさついた唇からは、少しだけ電車の味がした。
車窓からは生まれ育った街が見える。
ああ、いや。
街なんてそんないいものではない。
田舎なのか、都会なのか分からない所だ。
都会を象徴する高すぎるガラス張りのビルなんてなければ、田舎を象徴する田んぼや畑などがそこら辺に広がっている訳でもない。
そんなあやふやな所だ。
普通の住宅街と、普通の道と、少しでこぼこの踏切と。
通る風だけはいつも穏やかだったっけ。
電車の中にいればそんなのとっくに関係ないんだけれど。
肩にかかる髪が、電車の動く度に揺れる。
まるで自分が世界最後の一人になったみたいに思う。
それは恐らく地獄で、恐らく天国のようなものなのだろう。
ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
快速は止まらない。
自分の道を真っすぐ進んでいく。
怖くないのだろうか。
間違っているのでは?と思わないのだろうか。
私はそんな真似、とてもじゃないけど出来ない。
きっと普通なんだ。
お前はすごいね、と触り心地の良い椅子を撫でた。
それはそうと、私はどこに向かっているのだろう。