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第九十二話 あくまでも

「そういえばさ、ヘクゼダスだっけ?が光に飲みこまれたとき他の仲間とかもいたんでしょ?なら一緒に飛ばされた可能性もあるよね」

「……そう、かもな」

 言われてみればその可能性は十分にあるはずだ、自分だけがこんな遠くの地に飛ばされたとは考えにくい。だとしたら少なくともあの三人組とヴェッチェは自分同様飛ばされた可能性があるのだが、かといって全員がこの周辺に飛ばされたという確証もないわけで。

 彼が考え込んでいる裏でユーリィは同じく異世界に飛ばされたよしみで、彼の仲間を探してあげないかという提案をしてたのだが、その提案を上げた瞬間ジェイラスが顔色を変えて彼女を引っ張ると小声で叱咤する。

「な、なに!?」

「バカッ!あいつが話が通じる奴だからってその仲間も俺たちを見ても襲ってこないっていう保証はないだろ!!それに聞けば敵の三人組もいるかもしれねえんならなおのこと探すのはマズイ!」

「あっ」

 自分の迂闊さにあきれるユーリィ。彼の言うことは正しい、どうも彼の仲間の悪魔は彼よりも強く、そして敵もかなりの強さを誇るらしい。ジェイラスたちはそこまで強い冒険者グループというわけではないので、そんな悪魔たちに遭遇して勝てるのかはわからないのだ。そもそもこの目の前にいるヘクゼダスとかいう悪魔の強さもよくわかっていないのだ、実は彼はなんだかんだ力はちょっとしたボスなみにあるという危険性もなくはないのだから。

「あ、そうだ、そろそろ私たちいかないといけないから……じゃ、頑張って」

 随分と唐突にジェイラスたちは別れを告げて去ろうとしていくので、彼は眉をひそめていると流石にあんまりだろうかと考えたメナースが戻ってきて、懐から何かを取り出して彼の手に収めた。

「悪魔が何を食べるかしらないけど、でも結構いけるしよかったら」

 そう言って彼女は小走りで向こうへと駆けていってしまった。よく事態を把握できぬまま手を振って別れたヘクゼダスは、座りこんだまま渡された小さな包みを開くと中にはナッツのようなものが十粒ほど収まっており、彼は一つ摘まみ上げると空に透かした。緑色でピスタチオのようだが、見た目は小さなリンゴみたいで、しかし硬く臭いもどことなくナッツ類のような香ばしさとどことなく油っぽいものが混じったような、そんな薫りが鼻腔を撫でつける。

「まあ、ひとまず安心なんだろうか」

 そう呟いて彼は一かけ口に放り込んで噛み砕くと、カシューナッツのような味が口いっぱいに広がった。なんだか久々に人間らしい食べ物を口にした気がする。

 彼らは一体どこへ行くのだろうか、彼らは何を目的として旅をしているのだろうか。彼らがもし数ある勇者のような存在の一つなら、きっと最終的な目標はエッシャザール皇帝を倒すことだろう。でもそうでなかったとしたら?ただ旅をしながら生活を営み、いろいろなものを見て回ることを目的としているだけならば?自分は彼らをどうすればいいのだろうか、サイカロスは全ての人間を味方以外ならば殺すのだろうか。考えれば考えるほど、サイカロスという悪魔の存在理由がわからなくなってきた。いや、わかっている。自分たちはピレイマに侵攻して神々を殺すための尖兵なのだと。だが、だがだ……

 これ以上考えるのはよそうと、彼は立ち上がると向こうから悲鳴が聞こえた。まさかと思い、彼は草木をかき分け声の元へ走る。すると、遺跡の後のようなところで先ほどのジェイラスたちが謎の集団に囲まれているのが見えた。

「なんだこいつら!」

 ジェイラスは槍を構えて自分たちの周りを飛び跳ねている謎の装束をした人間のような者たちをにらみつけいてる。

「キモイてか怖い!!」

 メナースが怯えるのも無理はない。何故なら彼らを囲んでいる集団はどれもみな半裸で体中に顔料で模様を描き、顔には大きな半円形のお面をつけていて、彼らが本当に人間なのかすらわからなかった。少なくともわかることは、敵だということだ。

「どうする、一気に爆破する?」

 とメナースが問うが、ユーリィがそれを押しとどめる。

「ダメッ、ここはバローロミナンの史跡の一つだから、壊したら大変なことになるよ!」

「もーうっ!!」

 爆破魔法さえ使えればこんな奴らは一網打尽なのだが。かといって倍以上いる相手をたった四人で相手するのも危険である。彼らは先ほどの悪魔を置いてきてしまったことを後悔していた。

「やっぱ仲間にしとけばよかったね」

「言うな」

 彼らの危機を安全なところで眺めていたヘクゼダスは迷っていた。ここで助けようと飛び出せば自分はあこがれていた主人公さながらも活躍ができるだろう。だが、正直出たくない。飛び跳ねてるやつらは怖くて気持ち悪いとしか思えないし、強いかもしれない。大抵こういうところはゲームだと物語の後半に訪れるから敵も強い。そしてああいう奴らは大概変な踊りとか毒とかそういうのを使ってくるというのが定石だろう。そんな気味悪いものを相手にしたくなどなかった。

「うーん」

 せめてキエリエスが見ててくれるならなあ、と邪な心がある彼はボリボリとナッツをかじりながらじんわり体に広がってきた謎の力を覚えていた。何かこう、どことなく力が、そう、なんというか漠然としてはいるが体の中心、腹のそこからゆっくりと燃えるような何かが。彼はその力を発散したいという気持ちに駆られ始める。だが、ここで奮うということはあそこに飛び出して行ってジェイラスとかいう奴らに加勢することに他ならない。自分をバカにしている元クラスメイトもだ。彼の心に微かに残る正義感と邪悪な心がせめぎ合っていたが、遂に彼らが戦い始めメナースが肩を負傷したところでいてもたってもいられなくなってしまった。

「ヴェルリドウ!!」

 傷ついたメナースを盾で必死に庇うノルと、それを支援するジェイラスとユーリィ。彼らの運命も最早ここまでかというその時、何処かから悪魔の咆哮のような大声が轟いた。

「なんだ!」 

 ジェイラスたちだけでなく、謎の部族たちも周囲を見渡し警戒する。その直後、地響きを立てながらヘクゼダスが両手を広げて突進し、部族の一人を緑色の炎のようなものが宿った手で切り裂いた。不意を突かれたその部族は、体が四つ以上に切り裂かれて辺り一面に内臓と血をまき散らすと地面に転がり痙攣していた。

「へ、ヘクゼダス!?」

 思いもよらぬ助け舟に、彼らは声を上げた。ヘクゼダスは叫ぶ。

「助けるつもりはなかった!だがよくわからんのだが力を奮いたくなったんだ!行けよ今のうちに!」

 何故自分でもこんなかっこいい台詞を吐いているのかがわからなかった。そんな柄でもないのに、どうしてだろう。きっとヴェッチェなら誰彼構わず皆殺しにしていただろうな、そう思いながら彼は拳を奮う。部族は盾でヘクゼダスの拳を防ごうとしたが、その程度の木の盾では悪魔の強靭な力を防ぐことはできない。ヴェルリドウで腐食の炎の力を宿した彼の爪は、盾に触れる前に溶かしてしまい勢い余って相手の腕を溶かし落す。左腕の肘から先を切り落とされた部族は、おおよそ人間のそれとは思えない叫び声を上げて倒れもがいている。それをヘクゼダスは楽にしてやろうという親切心、などではなく止めを刺すべく一気に踏み潰した。パキャッと鳴ったのは、仮面の割れる音かはたまた頭蓋骨の砕ける音か、生卵のように中身を飛び散らせて二人目が逝った。

 今は彼の方が優先すべき脅威と悟ったようで、残りの八人はジェイラスたちから離れてヘクゼダスの周囲を取り囲んだ。

「どうするんだお前は!」

 ジェイラスが叫ぶ。

「いいから、行けよ!俺の気が変わらないうちにさあ!!」

「しかし」

「ぶっ殺すぞ!!」

 迫力のある悪魔の脅しに気圧されたのか、ジェイラスたちはしぶしぶ戦闘から離れていく。残されたヘクゼダスと部族は、一対八の戦闘を再開した。

「やっちゃったぜ……」

 今になって一人くらい残らせればよかったと後悔するヘクゼダスであったが、もう遅かった。

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