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第八十八話 不穏の風

「ひいーっ、ひいーっ、いてえよお……」

 穴に落ち込んでしまっていたヘクゼダスは、何十メートルも壁に激突しつつ落下してようやく穴の終わりに着いたのは落下から二分ほどのことであった。彼は目を潤ませながら痛む腕を抑えつつ、壁に体を預けながら立ち上がる。上を見上げても外の明るみはまったく漏れておらず自分がどれだけの距離を落下したのかが見当もつかなかったので、彼は早々に諦めて下から出口を探すことにした。

 穴の底は意外にも歩くのに支障がない程度には明るく、天井や地面、壁そこら中に紫に光る水晶のようなものが露出しており、無数のそれらのおかげで彼は視界を確保できていた。

 外ほどではないが、大きく規則的な揺れが体を引っ張っていくことから、予想通りここは巨人の中であることを確認する。

「やだなあ」

 未知なる場所へと進むのは、今でも十分怖く突然横穴からオバケが出てくるのではないだろかという恐怖に彼は腕の痛みも若干忘れるくらいには支配されていた。壁に体を押し当てつつゆっくりゆっくりと歩を進めていくヘクゼダス。一本道ではあったものの、上下左右に曲がっており自分が現在どの方角を向いているのか見失っていたが、すぐにこの世界の方角などはなから知らなかったことに気づいて、方向については考えるのをやめた。

「ん?」

 彼は一本の筋が宙に浮いて先へと延びていることに気づいた。小指くらいの太さのそれは滑らかに線を描きながら向こうの方へと途切れることなく続いており、それに恐る恐る触れてみたが、触ることはできないかった。不思議な光で彼も見るのは初めてであったが、彼はそれを直感でシフスの流れだと気づいていた。シフスが具現化するほどにここにはあふれているのだろうか。

 穴はしばらくいくと、やがて次第に広がり始め何やらこの先に空間があることを予期させており、彼の予想通り先には学校の教室ほどの広さの空間が広がっていた。縦横に対し高さは十メートルそこらはあるようだが、彼の眼を引いたのはその中心に浮かんでいる、ひときわ大きな紫の結晶体であった。見た感じはそこらへんで明かりになっているものと同じ種類の石に見えるが、大きさは恐らく彼の背丈よりも大きいのではないだろうか。彼はそのまま石の元へ進もうと思ったが、空間の反対側から誰かが近づいて来るのに気づき、彼は慌てて身を潜めた。話声は近づいて来ると、謎の人物たちは三人組のようだった。

「レッヴァリッキド、他の引導石柱はもっているな」

 男の声が誰かの名前らしきものと一緒に、重要そうな道具の名前と考えられる名称を口にしたが、ヘクゼダスの知識の中にはそれらのものは一切心当たりは無く、ヴェッチェの言う通り資料室に通っておけばよかったと遅すぎる後悔をするばかりであった。

「当然だろう?」

 女の声だった、レッヴァリッキドであろう人物はそう答えた直後に石だか金属だかのぶつかり合うような甲高い音を連続で鳴らしている。

「あと四体か」

 何が四体なのだろうか。あれこれ考えを巡らせているうちに謎の人物たちは向こうの廊下から姿を現し、その姿にヘクゼダスは息を飲んだ。

(あ、あれサイカロスみてえだ……)

 彼の抱いた感想の通り、現れた三人の姿はまさにサイカロスと言っても不思議ではないという容姿をしていた。真ん中のリーダーらしき男は、頭は右半分が酷く変形していたがもう半分はほぼ人間と言える姿をしており、体は全体的に黒く鎧なのかそれとも表皮なのかはわからなかったがそういったいかつい形をしていた。レッヴァリッキドらしき女は、翼の生えた女騎士だがただし堕天しているようだ。そしてもう一人、二人の後ろにいる大男はサイのようにがっちりとしたガタイに大きく太い角を頭から生やしており、どうみても友好的に話せそうな相手には見えなかった。

 彼らがサイカロスならばこちらの姿を見れば敵対はしなさそうではあるが、こういった場合は味方だと思い込んでノコノコ出ていった危機感の薄い奴が殺されるのがよくある展開であることを熟知していたため、彼は呑気に手を振って出ていくような真似はしなかったのであった。

「ドラグロを動かせれば、他のフォルタニッツァを操れるも同然だな」

 大男が野太い声で嬉しそうにそう言い、他の二人も頷いている。どうもこいつらがこのドラグロを操っているようである。彼らは一体どうやってこの何千年も動かなかった巨人を操っているのだろうか。その答えはすぐに判明する。男は両手を水晶にかざすと、水晶の一部から紫色ではなく黄色い光が見えたのだ。ヘクゼダスのいる場所からは見えなかったが、確実にそこに何か別のものがあってそれで巨人を操っていることは間違いなかった。

(だとすると……あのデカいのは制御装置的な、いやコア?んー?)

 馬鹿みたいに大きな巨人の重要部分がこんなに小さいことにも驚きだが何より巨人を操れている彼らが何者なのかが気がかりであった。絶対にろくな奴らではない。レッヴァなんとかとかいう女は美人だから命くらいは助けてやらないこともないが……

 彼はここでいらぬ色気を出してしまう。まず彼は慎重に無事な右手を左腕の折れた箇所にそっと当て呪文を唱える。

「サグジャル」

 痛みがいくらか和らいだ。これは出発前にジューヴァルナスと練習した呪術の一つで、折れた骨を再びつなげる効果を持つ代物である。骨にしか使えないが、骨ならなんでも治せるためこういった時に役に立つ。彼はあまり適正がなかったため治すのに若干の時間を要したが、それでも三分もしないうちに骨は完全にくっついてしまった。

 その間三人組はその場から動いてはおらず、ヘクゼダスの存在にも気づいていなかった。これは三人も知らなかったことであったが、巨人の内部は膨大な量のシフスが流れているためにそれが感覚にジャミングを起こしヘクゼダスの気配を気取ることを妨げていたのだ。

 一度深く深呼吸をしたヘクゼダスは、意を決して立ち上がり三人の元へと歩いていった。

「やあやあやあ、こんちは」

 できるだけフレンドリーに言ったつもりだったが、やあと言っている途中で彼の頭の横を石の槍が掠めていき後方の壁に突き刺さっていた。

「ひっ」

 かなり遅い反応で固まるヘクゼダスに、三人は彼にいつでも次の攻撃を放てるように身構えていた。

「誰だ、いや、サイカロスか?」

 男はヘクゼダスの姿を見て一目でサイカロスだと気づき、二人に攻撃をしないように指示する。その様子にひとまず安心したのだが、それは早とちりであった。

「ま、まあまあ、落ち着いてくれ。別に攻撃するつもりなんてない。ほら、な?あんたらもサッ、サイカロスだろ?だろ?」

 自分では精一杯冷静に努めているつもりであったが、声は上ずり何度も言葉に詰まっていた。男は突然現れた彼に警戒を解くそぶりは無く寧ろ警戒の色を強めたような表情になって彼に問い詰め始めた。

「何故ここにいる、どうやってここに来た。貴様は誰だ!」

 徐々に語気を強めていく威圧感のある物言いに思わず竦んでしまう。そんなに脅すような物言いで迫られては、彼のような度胸の無い人物は途端にまともに口をきけなくなってしまうことは必然であった。

「あ、えっと……そ、そお、そのあの」

「はっきり言え!」

 レッヴァリッキドに一喝されてヘクゼダスは跳びあがるとたどたどしく簡単にだが自分のこととここに来た経緯を話し始めた。それを聞いている間は三人はヘクゼダスに攻撃をすることは無かったため、彼はいつもう一度石の槍を投げられるか怯えながらの説明であったが、どうにか相手は理解をしてくれたようだ。その上で、彼らは敵意を露わにしてきた。

「悪いがエッシャザールの手の奴には死んでもらおう」

「なんでだよ!!!」

 男の手が光った。

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