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第八十三話 散策へ行こう

 あまりにも予想外の巨人の正体を知ったところで、彼ら使節団はギダリアド族の村へとたどり着いた。

「ふーん、結構しっかりしてんだな」

 ヘクゼダスは村の様子を見てそう感想を述べた。村は丸太を組んだログハウス調の物や岩肌をくりぬいて作られた洞窟型の家々が数十件も並んでいるが、地形に合わせて建てているようで家の高さは隣同士でも何メートルも違うことはザラのように思われる。山を切り開かない、自然に適合する暮らしが彼らのモットーなのだろうか。村の中心にある広場には広場を埋め尽くすように敷物が敷かれており、一番奥には青い小山が築かれていた。あれが交換する向こう側の用意したものだろうか。ヘクゼダスにはそれがなんなのかわからなかったが、わざわざ悪魔たちが交換という立場をとってまで欲しがるというものはそれなりに価値のある代物ではないだろうか。

 敷物の敷き詰められた四隅には四人の男が立っており、彼らは鎧を身にまとい武器を携えて直立不動の体勢でいた。兜の奥にはきっと険しい表情が待っていることだろう。彼らの存在は役に立っているようで、村人たちはこちらをじっと見つめてはいるものの、決して広場には近づきすぎないように一定の距離を保って見えた。

「こちらです、フラーさん」

 老人は敷物の前にヴェッチェを促すと、彼女は会釈をして立ち止まり敷物の上に荷物を並べるように悪魔たちに指示を出したのでヘクゼダスたちもそれに従って列に並び順番に綺麗に交易品の数々を敷き詰めていく。悪魔たちが並べたにしては実に綺麗に並べられているため彼らはしっかりしているようにみえるかもしれない、しかしその原因は明らかに殺気を出しているヴェッチェの意図を理解していた悪魔たちが察して並べていったためという理由があった。

 すべての品物が並べられ終わると、ヴェッチェと老人は互いに向き合いそれぞれ礼を述べる。

「サイカロスの方々のおかげで我々はこの地にて生活を営み責務を果たすことが出来ます。本当にありがたいことです」

 ギダリアド族の言葉も、ヘクゼダスは理解ができていた。彼らの言葉がわかるのはやはりごく一部、というよりは彼を覗くとヴェッチェとその御付 (フィーリアではない)くらいしか理解していないようで、何故そう思ったかと言うと、隣りのキエリエスが悪く言えばアホ面をかましていたからだ。ガイウストもわからないようで、他の悪魔たちも内容を理解できていないような雰囲気を醸し出したり、小声で会話をしていた。

(俺にはシフスの流れの一部が見えるだけじゃなくて人間の言葉を理解できる力ももっているってことか?だとしたらなんでだ)

 彼は自分が持っていると思わしきこの人間系の種族の言葉を理解する能力に疑問を抱いていた。この能力を発揮するには人間たちと常に接することが出来る立場にいる必要があるが、悪魔は人間と対立しており話など聞かず一方的に殺していく側で、交渉のこの字も無いに等しい。この力を最大限発揮するなら自分は本来自分が望んでいた転生を為さねばならないはずだ。どうしてこの能力をエッシャザール皇帝は自分に付与したのか、それとも皇帝のあずかり知らぬところで偶然にも与えられたものなのか、果たして。

 そういったことを考えているうちに話は終わったようで、こういう時は大抵人間なら面倒で回りくどい話をグダグダとされるはずだが、二人の話はものの二分ほどで終わってしまった。これは単にヴェッチェが面倒で長ったらしい話は好まないためであった。

 こうして話が終わると、悪魔たちはなんとしばらく自由時間を与えられた。いったいこんな場所で悪魔が自由時間を与えられてどうしろというのかとヘクゼダスは思ったが、それを言うと面倒なことになりそうなので黙っていることにした。当然だが、ギダリアド族に危害を加えてはならないという厳命付きだが。いずれにせよ彼女に厳命されなくとも誰も手を出さなかったと思われるが。ここで彼らとの交流がなくなるとサイカロスは大きな損失を得ることになるため、それこそ何万年という拷問を受け続けなければならなくなるだろうことは、誰でも理解していた。

「ヘクゼダスーあっち行ってみよ」

 と、キエリエスが小さな手で腕を引っ張るので、ヘクゼダスは顔をにやけさせながらついていった。彼女が引っ張るままに彼はついていく、目の前で飛び跳ねるように駆けていく彼女の揺れる髪の一本一本すらサキュバスもといセイケビエントの魅惑のフェロモンを発して止まないように感じられ、ヘクゼダスは食い入るように見つめる。

 彼女はそのまましばらく進んだところで崖っぷちに何やら施設があることに気づきそこに向かった。

「なんだ、あれ」

 崖から突き出すようにして建っているそれは、いうなれば港のようにも見えるが元の世界で人間たちが使っていたそれとは規模が著しく異なり非常に小規模ではあったものの、村の建物と比べると一際力を入れて建設されたもののようにも思われる。近づいていくと、建物の周りには先ほどと同様に見張りの男たちがいた。彼らは初めは二体の接近に警戒していたようだが、それが使節の悪魔だと気づくと構えていた武器を引いた。だが、彼らの眼からは警戒の印は消えてはいなかったのはヘクゼダスでもわかるほどありありとギラついていた。

「ここは港ですので、あまりなんでも触らないようにお願いします」

 男の一人がそう述べたので、ヘクゼダスは頷いて同意しキエリエスに訳してあげる。開け放たれた大きな扉から中に入ると二十人ほどの男女が中で作業をしていた。

「本当に港なんだな」

 中は港らしく船着き場となっているように入り組んで船が入れるようになっており、その奥行からしてそこまで大きな船ではないようだが、幅は長さに対して十分にとってあったので幅の広い船なのかもしれない。が、彼の疑問はどんな船がここに着くのだろうかということであった。普通の船なら水場でなければ使えないが、ここは水どころか川すら見えないためただの船ではないことは火を見るよりも明らかだった。

「港って初めて見るなー」

 キエリエスは目を輝かせてあちこちを見て回っていた。突然現れた悪魔に作業員たちは驚いていたものの、おびえた様子はあまり見られずこれも悪魔と長い間交流を保ってきたおかげなのだろうか。

「あいたっ」

 ヘクゼダスは四メートルに迫る高身長のために頭をキャットウォークらしき出っ張りにぶつけてしまった。

「アハハッ」

 頭をさすっているヘクゼダスを見てキエリエスが笑っている。彼は頭をぶつけたところを見上げると、木でできた足場は亀裂が入ってしまっていた。

「あ、やべっ」

 何事もなかったかのように退散したいところだが、悪魔というだけでも注目を引くのに彼の巨体のために彼が頭をぶつけた直後に多くの者に目撃されてしまっていたために彼は困ったように作業員たちを見返していた。

「あーあ、壊したな悪魔ぁ」

 彼は背後から聞こえた声に振り返る。心底面倒くさそうにそう言った声の主は、若い男だった。ヴェッチェといたものとはまた別の青年は、頭頂部の部分が無い筒のような帽子をかぶっており、中心からは逆立った髪が突き出ているのがヘクゼダスの目線からはよくわかった。彼は踏み台をすぐそばから引っぱり出すとすぐヘクゼダスの目の前に立つことも厭わずに損傷の具合を見ていた。ヘクゼダスの顔の前五十センチほどに青年の顔があり、彼の肘はヘクゼダスの胸に時々ぶつかっていた。

 何て肝の座った奴なんだ、とこの時ヘクゼダスはそう思っていた。

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