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第六十七話 隙間

 光に包まれたあと再び彼らが現れるまでに一秒も要さなかった。腹の底からひっくり返されるような奇妙奇天烈な感覚に眩暈を覚えながらも薄れゆく光の向こうに何やら人工物が。

「テント?」

 見覚えのある物体にヘクゼダスはつぶやいた。ただ、それはテントといってもアウトドアに用いられるような小さなものではなく、五メートルはあろうかという高さに広々とした居住空間を持った、簡易的な建物のような大型テントであった。その天辺には翻る旗が一振り。だがそれを注視する前に彼の目に飛び込んできたのは、大きな岩であった。赤ん坊よりも大きな石の玉が、彼の顔面に直撃したのである。

「おんぐうっ」

 くぐもった声を上げて後ろに勢いよく倒れるヘクゼダス。このまま彼は五分ほど気を失っているのだが、この攻撃の主を見て他の悪魔たちは唸り声を上げ睨みつける。

「待ち伏せ?やるじゃないか」

 誰かが呟いた。現在、八十五体の悪魔を取り囲むのは二千名にも及ぶミンガナス王国軍兵士であった。それもただの兵士ではない。彼らはミンガナスでも生え抜きの実力を持った精鋭部隊である。精鋭部隊たちはどうやって知ったかは知らないが、あらかじめこの場所に悪魔たちが移動してくることを予見しており多段構えで悪魔たちを迎え撃ったのだった。その第一の被害者が運悪くヘクゼダスとなった。一番前にいたというわけでもなく、彼がずば抜けて周りより背が高いというわけでもないのに、何故彼の顔面に直撃したのかは不明である。

 第一撃を皮切りに一斉に包囲された悪魔たち目がけて攻撃が放たれる。投石、矢、魔法、槍、多種多様な攻撃が浴びせられるが、悪魔たちもまたむざむざやられるようなタマではない。彼らは狂喜の雄たけびを上げて突撃を敢行した。突撃部隊の名に恥じぬ突撃ぶりは、一瞬にして最前列の兵士たちを八つ裂きにし血の噴水を生み出す。精鋭部隊とはいえ、力では悪魔たちにははるかに劣り、魔法も彼らを簡単には仕留めるほどの威力はない。二十倍以上の戦力差と待ち伏せにも関わらず、第十一突撃部隊は勇敢に戦い続けた。

 丁度十体目の悪魔が倒れたところだろうか、何故か全身に及ぶ痛みに呻きながらヘクゼダスが目を覚ました。

「あいつつつ……あれ?」

 気づけば周りには誰もおらず、あたり一面に血やら腕やらが散乱している。叫び声もやかましい。軽い脳震盪のようなものを起こして理解ができていない彼に事態を教えてくれたのはキウヴォッカルである。

「待ち伏せされたの。ま、でも勝てるんじゃない?」

「待ち伏せえ?……待ち伏せ……ああ、待ち伏せねハイハイ。ところで、なんでこんなに体が痛いんだ。魔法か?」

 すると彼女は笑いをこらえながらもこう言った。

「貴方皆に踏まれてたのよ。面白かったわあ……」

「じゃあ助けろよ!!」

「いやよ、面白かったモン」

「呆れた!」

 実に薄情な悪魔である。いや、悪魔だから薄情なのか?いまだはっきりしない頭をさすりながら彼も参戦しようと立ち上がる。そこに何かが足元に飛んできて鈍い打突音と水音が。見下ろすと目を見開いたまま絶命している兵士の顎から上が一つ転がっていた。

「オエッ……」

 彼はそれを横に蹴飛ばすと、ふらつきながら戦列に歩んでいった。

「コッフェルニアとガイウストはどこいった?……あれ?」

 振り返るとキウヴォッカルがいない。どこかと立ち止まって探したが、既に百メートルはむこうの戦いに加わっており、意外と素早いことに驚くヘクゼダスであった。

「ったくよ……」

 久々にアニメが見たいなんて、悠久のかなたのネットに思いを馳せながら彼は足元にある手斧を拾った。それは人間には大きな両手で持つ木こり用のものであったが、彼の身長だと片手用の斧にしか見えない。重さと持ちやすい場所を確かめると、手始めに傷ついて防御の列から孤立してしまった兵士を見つけると、その目の前に立ちはだかる。兵士は周りが暗くなったことに気づき顔を上げると、ヘクゼダスの姿を見てわなわなと体を震わせた。

「怖いかよ?」

 そう尋ねるが、彼からすると、巨大な悪魔が唸り声を上げているようにしか聞こえないのだから、恐ろしかった。彼は涙を流し抵抗する様子も見せなかった。それを見て、普段のヘクゼダスなら攻撃を躊躇ったかもしれない。だが今のヘクゼダスは頭をしこたま打っており、物事の判断が少ししづらくなっていた。手斧を振り上げると、兵士の頭目がけて投げおろした。斧の刃は兵士の頭を貫いてなお勢いを持ったまま地面に深々と突き刺さる。足に返り血の着いているが彼は特に動じる様子も見せず、ただ黙ってしゃがむと斧を引き抜いて立ち上がった。

「あークソはっきりしないったらねえ……ア?アガグググ……」

 何かが変な気がしているが、頭をやられたせいだろうと思い込み彼は戦いに戻る。それが一体何の予兆なのか、果たして……

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