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第六十話 城壁

「おい、伝令だぞ」

 コッフェルニアが森の向こう、ヘクゼダス達が来た方向を指さした。悪魔たちはいっせいにその方向を見上げると、向こうの方から頭が人間の男のフクロウのような鳥が音も無く羽ばたいてこちらに近づいているではないか。その者のおぞましい見た目はさておき、彼が一体の悪魔、副隊長であるギリメスの差し出した腕に止まるとかなり小さいことに気づき猶のこと気味悪く感じるヘクゼダスであった。無論、他の悪魔たちはまったくもってそんなことは思わない。

 伝令の人面鳥はなにやら聞きなれない言語で口早にギリメスに内容を伝えると、間髪入れずに飛び立って森の中へと消えてしまった。

「何だろうか」

「さあ」

 伝令の内容が何なのかとざわつく悪魔たちを、ギリメスが鎮まるように制し咳ばらいを一つ。

「……ゴルシュガーテテ様より御命令である。我々第二、第十一突撃部隊は臨時編成として合併、モリトゥンの森を離脱し後方にて待機する」

 後方離脱、つまり一旦戦闘から離れて休めるということである。その朗報にヘクゼダスは気持ちを逸らせる。

「とすると……ギラメ城壁かな」

 とコッフェルニア。ギラメ城壁とはどこだろうか、ヘクゼダスは尋ねてみた。

「ギラメ城壁はマヨルドロッタ城とその周囲を隔てる四連の壁の一つ、外から二番目の壁さ。そこはガミオンデ守備隊が警護しているはずだが」

「四連?そんなにあるのか。というか遠そうだな……」

 城壁だからそれなりの距離を歩かなければいけないのではないかと思ったが、彼はそんなことはないと否定した。

「何せここは最も外の城壁、ニューシャビスチとギラメの間だからな」

「え?城壁の外じゃないのか?」

 驚きの事実にヘクゼダスは目を丸くして驚いて見せた。この森から城まではかなりの距離があるはずである。それなのにまだもう一つ壁があるとは。いや、それ以前に壁をまともに見た覚えがない。一番内側の壁は以前初陣で三人で放り出された際に目にしている何のことはない普通の城壁であった。だがこのモリトゥンの森にくるまで結構な距離を歩いたが第二、第三の壁は一度も見た覚えがないのだ。どうなっているのだろうか。

「第二の城壁クアロマイタン・セルグレナは不可視の壁だ。呪術で見えないように覆われている。第三のギラメは本来大きく囲っていたんだが、二百年前の大地震で多くが失われて以来修復が追いついていないんだ。西側と北はおおよそ完了したらしいんだが、我々が通った東と南側に関してはまだまだ修繕できていないのが現状だな」

「へえ~」

 こちらにも地震があることに驚いたが、それよりも人間よりも強く素早い悪魔でも未だに壁一つ修復でいていないということが不思議であった。悪魔の力なら何百キロものレンガの塊でも一人で風のように運べそうなものだが。

「サイカロスならすぐ運んで積んで終わりじゃないのか?」

「そう簡単なものじゃあない。一度建築したら千年はもつように造らねばならない。だから少しずつ壁を高くしながら呪術を組み込んでいくんだ。耐震、耐火、対魔法、耐衝撃、自己修復、自動迎撃砲台とかなんとか色々とな。それに城壁職人も数が足りていないからというのもある」

「ハイテクだな」

 壁といっても悪魔の城壁はどうやら多機能らしい。特に自己修復と自動迎撃システムがあるなんてかなりSFチックな要素で、とても石やレンガで出来ているとは思えない代物である。

 悪魔たちが移動を始めた。ヘクゼダスたちも移動しようとしたが、その前にサイカをどうにかしなければいけない。仕方がないので移動させるためにヘクゼダスが持ち上げようと手を回し力を入れて踏ん張る。

「ふんっ……ふんぐぬぬぬ……お、重いいい」

 硬化した彼女は思いのほか重く、なかなか持ち上げられない。まるで地面に釘付けされているかのように。

「だらしねえなあ……ったく」

 コッフェルニアでも持ち上げられないのを見て黙っていられなかったのか、ガイウストが重い腰を上げてサイカの体に腕を回した。

「こういうのはコツってもんがあるんだろうが」

 そう言うと全身に力を込めてサイカを持ち上げようとした。ようやく数センチ動いた、かと思うとそれ以上は動かず、限界が来たガイウストは息を吐き出すとそのままサイカを落として後ろに転がってしまった。

「っくはあーー!なんだこりゃあ!」

 怪力自慢の自分でも持ち上げられなかったことで、これは単に重いというわけではなくこの覆っている物質のせいではないかと感づいたガイウストは、キウヴォッカルの方に向き直ると呪術をかけるように指示した。

「こりゃ数十倍に重くなるようにしてあるな。あるいは解けるまでそこに縛るまじないでもかけてるか。いずれにせよ力じゃ持ち上がんねえ」

「仕方ないねえ」

 キウヴォッカルはサイカに両手を当てるや否や、次の瞬間にはあのビクともしなかったサイカの体が地面からニ十センチくらいの高さまで浮いてしまっていた。どうやら彼女は呪術のエキスパートらしい。こうなるともうあとは押すだけである。試しにコッフェルニアが指先で軽く押してみると、それはほどよい重さを保ったまま滑るように高さを維持しつつ前に進んだ。

「チャリオマ・ジュラベナス・ポリパンタンテンマイヤっていう浮遊術よ。こうして一定の高さに保って物の重さをかなり軽減してくれるの」

「便利だなあ」

 一行は彼女の呪術の腕に感心しながらも、集団から遅れないように二人がかりで彼女を押して森を戻って行った。いったいどうすれば彼女の呪いは解けるのであろうか。あの変な人間を探し出して拷問にでもかけてでも吐かせなければならない。

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