表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/383

第六話 狂者ステフェへの謁見

 三人はそれから階段を上り、廊下を進み、また階段を上って少し進むと明らかにこの先にボスがいますよと主張している大きなドアの前に着いた。それは巨大化したヘクゼダスでも悠々と通れそうなほど大きな扉であった。金縁の赤黒い絨毯の両脇には騎士の鎧が二体陣取っており、巨大なハルバードを構え扉を守っていた。鎧にも得物にも豪奢なエングレーブが施してあり、また両者ともに少しの汚れもなくピカピカに磨き上げられており、些か悪魔の城の敵とは思えない。この二体はあの彷徨う鎧の類なのだろうかと思案していると、不意に二人が止まりぶつかるかぶつからないかのギリギリで彼も足を止めた。

「サヴェッチェ・オウィストラストス・ラクラクーガスヘスヴィトスフラー。クラボラット城死刑執行者」

「ギゼ。マヨルドロッタ城執政官」

 二人は首を垂れ名乗った。一瞬の沈黙の後、ヘクゼダスも名乗らなければいけないことを察す、しかし自分には何も役職がない。慌てて頭を回転させた結果、こう名乗った。

「ヘクゼダス・アグログアール!元人間!」

 再び沈黙が流れた。やはり今のはまずかっただろうか。するとヴェッチェから小さく喉が鳴ったような空気の漏れたような音がしたかと思うと、一発太ももに肘を入れられ彼は顔を歪ませて体を捩じって痛みをごまかそうとした。彼はこの時気づいていなかったが、彼女の口角は少し上がっていた。

 二体の鎧が構えていたハルバードを扉から放すと、金属と木の軋む音を上げながら重厚な扉が開いた。(いよいよ中ボスさんにお目にかかるぞ)

 三人はゆっくりと入り口を潜り、部屋の中へと進んだ。部屋はとても天井が高く、正面の壁は何やらカーテン状のもので遮られており全く様子がうかがえない。ふと彼は天井の異変に気付いた。何かが大量にぶら下がっているようだ。彼は歩きながら天井を注視すると、どうやらそれらがいくつもの剣や弓、鎧やローブ等の彼が装備したくてやまなかった装備品の数々であることが判明した。ただの変なディスプレイのされ方をしたコレクションかともおもったのだが、しかしどれも服ならば破れていたり、武器類は欠けるか折れるかしていた。またどれにも共通していたのは赤黒いものがこびりついていることであった。それらは風に揺れながらも絶妙にぶつかり合わずに一定の間隔を保っていた。

「こりゃ……まあ」

 悪趣味なものだ。これじゃあホラーだぞ、と突っ込みたくなる気持ちを抑えた。目の前にはきっとおぞましい悪魔の首領が鎮座しているかもしれないのだ。三人は再び現れた護衛、今度は体がライオンの蛇頭の怪物に促された位置で停止し、静かに待機した。

「なあ、悪魔式の作法とか知らないんだけど」

 そっとヴェッチェに耳打ちをしたが、彼女は彼の足を踏みつけただけで一言たりとも口を聞こうとしてくれなかった。

(はいはい、黙ってろってことねハアーイハアイ)

 ヘクゼダスはやってられないという風に首を傾げる。

「……その者が転生をしてきた人間か」

 いくつもの声が同時に再生されたような声が、幕の向こう側から聞こえてきた。ずいぶんと突然なのだなあと思っていると、ギゼがそれに答えた。

「ハイ、ステフェ様。ユエグティ・クウという人間の男でございます」

「いや、やまぐち こう なんだけ」

 ついうっかり名前を訂正しようと声を上げてしまい、瞬きする隙すらなく蛇ライオンがとびかかりヘクゼダスを押し倒すと、彼の喉元に牙を突き付けた。

「ヒイ」

 なんとも情けない悲鳴を小さく上げて体を硬直させた。避ける構えすら与えられなかったことに、自分と周囲のレベルの差と例えようのない屈辱を実感したヘクゼダスは、無言で悔しがりながらも目でヴェッチェたちに助けを求めた。

「この者は愚かにも旧世界に侵入しようとし、奴に止められてこちらに放り込まれたのでございます。それを皇帝陛下がお拾いになさり、御慈悲深くこうして人間を我らと同族に生まれ変わらせたのでございます」

「ハイ、そしてフォウ刑務大臣の命により、私めがこの者を連れてステフェ様の御下へと馳せ参じた次第でございます」

「なるほど。ジュルか。ならお前がこれより一月この者に礼儀と作法を躾け、戦えるように仕込むが良い」

 そういうと、声は完全に止み部屋は再び沈黙を取り戻した。やがて蛇ライオンは彼から離れると、元いた位置に戻り、行儀よく座り込んでしまった。一瞬のことで尚且つ目の前にずっと恐ろしい蛇の鱗肌と天井しか見えていなかったため、話の内容をよくつかめなかったヘクゼダスは、口をポカンと開けたまま、じっと固まっていた。

「行きますよ。間抜け」

 それはそれは蔑みの素晴らしい目線で言い捨てられた彼は、まったくもって新しい扉を開くこともなく黙って立ち上がった。

(偉い奴と会うときって、ラノベはこんな感じだったかなあ……)

 まだそんなことを考えながら、彼はこの部屋を後にした。これ以降、彼がこの部屋を訪れたのはもっとずっと先になる。それは彼の運命を大きく変え、また世界が変わろうとしている時であった……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ