第五十四話 交差する命
「それはいいとして、これ」
と、ヘクゼダスが足元に散らばる悪魔たちの死骸を指し示す。先ほどの光の矢が襲来した地点からちらほらと確認していたバラバラになった悪魔の死体だが、前進するにつれその数も増していることに気づく。
「騎兵隊だね。多分全滅さ」
サイカはまるで人ごとのように素っ気無く言ってのける。
「恐らく、あの呪文が飛んできた場所辺りに探知術を仕掛けていたんだろう。あそこに踏み入れた時から奴らの攻撃に晒され始めるというわけだ」
コッフェルニアが体ごと後方を振り返って言った。後ろにはまだ四十体近い悪魔が続いており、既に森の始めは見えなくなっており、彼らは完全に森の中に飲みこまれていた。
「そういうのもあるのか」
「ああ、だがかなり広い範囲で張るのは力のいることだ」
魔法使いの方もかなり強力なようだ。ガイウストが鼻で笑う。
「ハン、俺たちの森なのに主導権を握ってるのは敵かよ」
ホームグラウンドにも関わらず、敵に一方的にやられているというのはなんとも屈辱的な現実である。その上なすすべもなく皆殺しにされているのだから、笑えない。ここでどうにか一発かましてやらないと、サイカロスとしてのプライドが立たないというもの。
「来る」
誰かが発した警告の直後、複数の矢、火球、巨大な岩が彼らを襲った。
「ヴァ、ヴァール・グラオラス!!」
かざした右手に火球の一つが直撃する。
「あっちゃっちゃ!!」
ヴァール・グラオラスは攻撃を防御はしても、熱までは防げない。あくまでちょっとした呪術なのである。そのため攻撃を受け止めたらそのままではなく左右に受け流さなければならない。それを彼は知らなかった。それでも図らずも弾かれた火球は、横にある木を包み焼いた。炎上する木の熱に再び驚いてこけるヘクゼダス。サイカとガイウストは既に攻撃をかわしており、コッフェルニアは木を盾に矢を防いでいた。矢はどんな効果を付与されているかわからない。いたずらに防ぐよりも避けた方が賢明なのだ。
さらに七体数を減らした悪魔たちは、歩みの速度を速め駆け足で森を突き進む。
「見えた!」
「マジか!!」
ヘクゼダス達の眼にも、敵の姿が入る。現在確認できたのは魔法使いらしき女と煌びやかない出で立ちをした勇者だか騎士だかといった人物のみである。報告では六人と聞いており、更に騎兵隊は他に弓使いと騎士を確認したと報告している。さきほどの矢のこともあるのでどこかに弓使いも潜んでいるはずだが、現状姿は見えない。姿が見えないというものは実に厄介なことである。どこから攻撃が来るかわからないというのが一番の要因だ。
「行くぞおおーーー!!!」
掛け声に、悪魔たちは咆哮を上げ突進した。
「セルニエス!」
一体の悪魔が術を放つ。彼の手から棘のようなものが生じ、まっすぐ魔法使いに飛んでいく。直撃すれば、人間なら即死は免れない。だが選ばれし戦士でありエルフである魔法使いジーティはそうやすやすとはやられない。彼女はすぐさま盾の魔法を張り、それを弾き飛ばすと、カウンターのように倒れている木を投げ返した。セルニエスを放った者は避けることができたが、その真後ろにいた悪魔は上半身を千切られ下半身だけがその場に倒れこんだ。
「ヴァルフェグか!喰ってやる!!」
急に眼の色を変えたガイウストが、四足歩行から二足歩行に戻って魔法使いめがけて全力で突進した。非常に低い姿勢ながらもその速度は黒人の短距離走選手よりよっぽど早く見える。あの突進を食らえばいかに強力な魔法使いとはいえ、ひとたまりもないだろう。
「ヴァルフェグって?」
「呪術を使うのに長けている連中だよ」
サイカの漠然とした説明に納得いかないヘクゼダス。彼に分かりやすく説明するならばエルフであるが、ヘクゼダスの世界の言語など誰も知らないため、無理な話である。それに彼がその魔法使いの姿をみてもエルフとは認識しなかっただろう。何故なら日本で知られているエルフの姿のように彼らは耳は尖っていないし、森の奥で禁欲的な生活などしていない、普通にそこら中に広がって生活している。オークに必ず負けたりもしない。
しかし、何故ガイウストが目の色変えて捕食宣言をしたのかはわからなかった。それはサイカにもわからないことであった。理由は誰にもわからない、ただ推測だがガイウストはエルフの肉が好きなのかもしれないし、ただの言葉の綾かもしれなかった。だがそれはともかくガイウストは我先にと魔法使いを殺しに走っている執念がすごかった。
「ほらあっちも気を付けるんだ」
と、コッフェルニアが指さす方向には、剣の先に雷を帯びさせて構える勇者の姿があった。確実にサンダーブレードだかそんな攻撃を放ってくるに違いない。
「アイッッタ!!」
サイカが声を上げた。振り向くとサイカの肩に一本の矢が刺さっているではないか。弓使いの仕業に違いない。あたふたするヘクゼダスをしり目に彼女はやれやれといったふうに矢をさっさと引き抜くと矢の飛んできた方向に術を一発放った。青白い玉が向こうの木の上の方に命中すると激しい爆発を起こした。しかし、その直前に弓使いは脱出しており、仕留めるには至らなかった。
「だ、大丈夫……みたいだな」
自分が先日射られた時はかなり痛かったのに、彼女はちょっと服に泥が撥ねた位の反応で効いているようにはとても見えなかった。
「あんなの」
これが強さの違いというものなのだろうか。
呪術と魔法:サイカロスが使うものは呪術、エルフや人間などが使うものは魔法とそれぞれ言われている。違いはない。




