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第五十話 将軍ゴルシュガーテテの些末事

 悪魔のような強さを誇る勇者たちが現れたことに対し、マヨルドロッタ軍は何も手を打たなかったわけではなかった。当然野放しにしておけばいかに少数の人間とは言え、軍を総崩れにする要因に十分なりうるというもの。そんなものが現れて自軍の兵士を虐殺されれば当然焦り憂慮し手練れの者達を差し向けるのが上層部というものだが、その状況下でも焦りを見せることなく落ち着いて構えているのは、悪魔と人間の違いといったところか。

 マヨルドロッタ城のいずこかに存在している城の軍司令部には四体の悪魔と、それに仕える下級悪魔たちが数十体が中で職務についていた。中心にある大きなテーブルには実に魔術的な見た目をした立体地図が置かれてあり、実際の状況とリアルタイムで連動して表示が行われている様は、ファンタジーというよりは寧ろ近未来的な感想を抱く。そのテーブルを囲んでいるのは三体の悪魔、中心らしき悪魔はゴルシュガーテテ・エッグレン・ソウ・ヴェーテミヤーナ・リガウステッラ、マヨルドロッタ城で軍事に関する業務を司っている。こうした戦いでは彼女が中心となって戦いを動かす。彼女の見た目は実に悪魔らしいといったところで、以前フィーリアが彼女のことを美しいと評したが、きっとヘクゼダスの人間的美的感覚にはそぐわない美しさであろうことは確実である。複雑な姿をしているため言葉では上手く形容しがたいが、兎に角人間からしてみればおぞましいの一言であった。無論、彼女の前でそんなことを口にしてはいけない。すれば瞬きをする間もなく自分の体が爆発しているだろうから。

 そしてその両脇に控えるのが直属の部下のセリュースとミユース。名前の似ている二体は想像通り双子の悪魔で、見た目は非常に瓜二つ。まず見分けはつかないがセリュースのほうは若干青みがかっており、ミユースは瞳が宇宙である。どういう意味か、文字通り眼球全体が宇宙のような柄をしているのである。実際に彼の目には二つの宇宙が広がっているという噂もあるが、定かではない。

 二体は彼女の補佐をしており、業務の補助や重要な伝達事項を直接相手に伝えるためまたはゴルシュガーテテに伝えるといったことを行っている。

「こいつらはコルームントに相手させようか」

 セリュースがミユースに尋ねる。ミユースは少し悩んで首を横に振って曰く、

「無理だろう、迅速に対応するには卿は離れすぎている。それまでに我が方に余計な被害がかかるだろう」

「セルメネス草原からリクネ街道までは……ふうむ……」

 どうしたものかと頭を悩ませ、二人は同時にゴルシュガーテテの方を見る。彼女は五対の眼でジッと地図を睨みつけたまま動こうとはしない。今彼女の四つの脳内では同時に十二の戦場での作戦を計算している最中であり、モリトゥンの森に現れた勇者たちだけに全ての脳を割くわけにはいかないのだ。

「ボリュス、お茶をご用意して差し上げろ」

 ミユースが傍らの給仕のヴィヴェルに指示すると、火の玉のような見た目をした小さな悪魔はすぐに厨房にすっ飛んで行った。

「……勇者には」

 不意にゴルシュガーテテが口を開き、二人はほぼ同時に彼女の方をうやうやしく向いて耳を傾けた。彼女への敬意は絶対である、もしヘクゼダスなんかが相対すれば一度で彼はミンチにされてしまうだろう。絶対に今の彼を彼女に会わせてはならない。

「……第二突撃部隊と第六騎兵隊、それに……そうだな…………第十一突撃部隊を向かわせよう」

 彼女の言葉ど同時進行で、地図上に三色の光で光点が示される。更に続ける。

「まず騎兵隊で一なぶり、続けて第二突撃部隊に両脇から十分間攻撃、そこに第十一部隊に襲わせろ」

 三つの光が彼女の指示した順番通りに勇者たちを示す点に向かっていく。

「かしこまりました……」

 彼女の命令は術を通して各部隊の隊長に送られる。タイムラグの少ない円滑な伝達方法がこういう時は役に立つ。

「そう……」

 彼女が付け加える。

「セレノイオンの部隊とガレメネ特爆隊も付近に向かわせる……以上」

 セレノイオンという上級悪魔の率いる部隊とガレメネという特別爆破部隊にも指示が送られる。

「ホーロインに伝えよ、いつ貴様は出るのか、と」

 もう一つ、ある悪魔の名を口にした彼女は少し不機嫌そうに椅子に座りなおした。すぐさま別のヴィヴェルが城内のどこかへと飛んだ。それが行きつく場所にホーロインという悪魔はいるようだが、ホーロインとは。

 ホーロイン、それはこの城に存在するザーリアの一人にして狂魔、彼が一度過ぎ去れば、一つの国が亡ぶと言われている。そのような悪魔がこの城にはまだ戦力として控えていたが、彼は本来なら命令で既に戦場にて待機しているはずなのだが、上級である彼は同じ階級のゴルシュガーテテの言うことなど聞こうとはしなかった。しかしこれも戦争である、恐らく彼ほどの者が出る必要性はないだろうが一応形式として出てもらわねば困るのだ。

「さて、確かヘクゼダスとかいうものがいたな……」

「ハイ、皇帝陛下自ら転生させた異世界人にてございます」

 セリュース達は首を傾げた、何故ゴルシュガーテテ様のような上位のお方が異世界人の低級の者のことをお気にかけなさるのか、と。彼らのような彼女よりも下の者が知る由も無かったが、上級の悪魔たちにとって彼の存在は非常に気になる存在であった。何故ならゴルシュガーテテのような上級悪魔でさえ皇帝陛下と直接言葉を交わすどころか謁見することもそうそう叶わない。にもかかわらず、異世界からやってきた人間というだけで陛下自ら直接我らが同族とした理由がわからなかったのである。異世界から転移転生してきた生物はたくさんいる。その中でニフェリアルに転生してきたものは極稀であり、大体がすぐに殺される。が、彼は違った。生かされているどころか新たな肉体と力を与えられ、直接のご下命でこの地に送り込まれたのである。気にならないわけがない。

 どうしても彼のことを知りたいと思ったゴルシュガーテテは、この部屋にいるもう一体の悪魔、彷徨う魂キサナネセに彼を見張るように指示した。実体を持たぬそれは、一礼すると壁をすり抜けヘクゼダスの元へ一直線に向かった。キサナネセは不可視である、霊能力者にもみることは出来ぬ。見ることが叶うのはごく一部のサイカロスか神だけである。かわりに実体がないため攻撃も出来ないが。しかし監視役としては最適であった。見えず、気取られず、安全にそれの目を通してそれが見たものが彼女の元に送られる。こうして知らず知らずのうちにヘクゼダスは、上級悪魔の注目を浴びていた。

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