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第四十九話 血筋

 モリトゥンの森での出来事はヘクゼダス達の耳にも届いていた。たかが六人程度の人間たちにいかに勇者とはいえ悪魔軍が苦戦を強いられていることにヘクゼダスは疑問を抱いた。

「前に俺が倒した勇者たちは強かったけどそんなにみんなが苦戦するほどのものではないだろう、どうしてそんなにも被害が出ているんだ?」

 彼は以前城の近くで戦った勇者たちのことを思い出していた。確かにあれは強かったがそれはまだ当時の自分が悪魔になったばかりの新米であったためであり、悪魔としての経験を積んでいる者達ならば片手でもひねりつぶせたのではないだろうか。そう思い尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「そうでもないよ、あれはそれなりに経験を積んだ戦士たちだった。だからと言ってそこまでの強さは無いんだけれどね」

 尻尾の先を振りながらサイカはそう言った。その答えに彼は首を傾げざるを得ない気持ちに陥る。

「凄い技を使っていたぞ。復活呪文とかシャイニング何たらとか……」

 真っ二つになった勇者が目を離したすきに再び剣を振りかざして襲い掛かってきたことを思い出す。

「ああ、ただの人間としてはね。でも血統のある者たちと比べるとそうでもない。彼らに比べればあれも所詮有象無象に過ぎない」

「血統?」

 この世界の人間には犬みたいなブランドでもあるのだろうか、頭のあまり良くないヘクゼダスは馬鹿な考えに至る。それを知ってか知らずか、サイカはわかりやすく説明してくれた。

「勇者とか私たちに歯向かう愚か者達の中には、ただの人間の者と、先祖に名を馳せた英雄だとか大魔導士だとかはたまたサイカロスの血が入ってるだとかそういう生まれながらにして力を持った奴らもいるんだよ」

 その説明を受けてヘクゼダスはなるほどと頷く。よくあるゲームの設定みたいなものだ。主人公が特別な技を使えたり呪いが効かないのは実は先祖がかつて魔王と渡り合った英雄だったとかそういう話。ラノベでもよくある気がする。この世界でもそう言ったものは特別なんだなと思わぬところで共通点を見出した彼は、何故自分が賢者の孫とかに転生しなかったのだろうかという虚しさと悔しさを噛み締めていた。

「恐らく、モリトゥンの森に現れたのはそう言う奴らだろう」

 コッフェルニアが少し微妙そうに頭を掻いた。甲虫である彼の顔には表情というものがない。そのため彼の機嫌や感情を理解するためには話の文脈や口ぶりから察するしかないのである。

「奴らってことは、まさか複数?」

「そのまさかだな」

と、コッフェルニア。

「大体一人の血統者に雑魚が率いられるものなんだけど、今回は血統者達のパーティみたいだねえ」

「マジかよ……」

 そんな強力な奴らと対峙したら、まず間違いなく自分は死ぬだろうと確信した。まだまだ雑魚の域を出ない自分は勇者の経験値の肥やしになることは必至である。

「しかも悪いことにこっちに向かってきているとかなんとか」

「ええええっ!!」

 ごく普通の会話のトーンでとんでもないことを言ってのけたコッフェルニアに驚きを隠せないヘクゼダスは、勢いよく仰け反ると同時に頭を岩の角でぶつけしゃがみ込んだ。

「イッツツ……」

「愉快だねえ……」

 かわいそうなものを見る目でサイカは彼を見下ろしてため息をついた。余裕そうに見えるヘクゼダスを除く三人であったが、その実内心では一抹の不安を抱いていた。ただの自称勇者程度なら苦も無く倒せる。しかし血統のある真の勇者達が六人も来ているとなると話は別だ。正直な話、三人のうちでそう言った者と戦ったことのある者はガイウストただ一人である上に、彼もまた一人を仕留めたに過ぎない。それに聞いていた話によると、ガイウストが倒した者よりも更に強力な人間と見た。

 人間やエルフ、そう言った悪魔たちに反抗する者達からは、彼らは選ばれし者とも言われ世界の希望を託されてきた。多くのものが遺伝子による正義感に立ち上がり多くの悪魔や魔物たちを狩り打倒魔王を掲げては立ち上がり、斃れてきた。今回もその無数の勇者の中の一つであればいいのだが。

「あーいてててて……」

 ガイウストは足元で後頭部をさすっている元異世界人の悪魔を見下ろして思う。

(こいつはいまだに成長しないな……それが人間という者だっていうのか、ハッ……)

 羨ましいよ、彼は小さく唸った。



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