第四十七話 奥の手
戦いも三週間を過ぎようとしていたころ、マヨルドロッタ城より南八十キロ地点にあるミンガナス王国軍の指令所では重苦しい雰囲気が立ち込めていた。給仕の者や士官たちは中央指令室の前を通ることを出来る限り避けていた。何故ならそこには気を苛立たせた君主が居座っていたためであった。下の者たちは気まぐれや八つ当たりで首を刎ねられたりしたならばたまったものじゃないと避けているのである。
「司令官、何故!!!三週間も経っておきながらいまだに悪魔城に誰一人として侵入できておらんのだ!!!」
煌びやかな戦衣装に身を包んだエリオムス三世が、軍の司令官セッケンテスに口角泡を飛ばしながら激しく怒鳴りつけていた。彼もまた王同様に考えており、司令部で立てられた作戦はどう見ても完璧で、計画通りならば十日以内には城内に侵攻できているはずであった。が、現状はそれには程遠く、城の五キロ圏内にすら入りこめていない。最初は気楽に構えていた王も、流石に余裕がなくなったのかわざわざ指令所まで足を運んできたのだ。
「申し訳ございませんんん、どうやら悪魔軍は戦力を隠し持っていたようで非常に多くの軍勢で反抗をしているようで……」
気弱そうな面持ちの彼に、一国の司令としての風格はない。それもそのはず、彼もまた大臣などと同様に能力ではなく賄賂、コネ、ゴマスリでこの司令官の地位を獲得したのである。であるからして、無能の彼に万の将兵を率いる能力など微塵も持ち合わせてはいなかったのである。それでも僅かな力のある参謀、将兵達の尽力によって戦線を維持しているのであった。
「もうよい、お前たちに期待した予が愚かであった!」
「……と、申しますと?」
王はにんまりと笑みを浮かべる。どうやら王には秘策があるようだ、が、すぐに司令官も察したのか血相を変えて王の足に縋りつく。
「王よ、どうか、まだ陛下の軍は戦えます!私はまだやれます!」
涙を浮かべて懇願する彼を王は冷たく見下し蹴り飛ばす。
「あぐう……」
「汚らわしい、司令官の分際で予の戦装束に触れるでない!!貴様なんぞの命よりよっぽど価値のあるものであるぞ!」
「も、申し訳ありません!!」
すぐに額を床にこすりつけて謝るセッケンテスであったが、最早彼の命運は決していた。王の眼中に彼はない、王は配下の者を呼ぶとただ一つ簡単なジェスチャーをした。
「やめてください!王よ!まだ!!やめろ離せえ!!私はミンガナス王国軍のおお!!」
背後から現れた二人の屈強な戦士に肩を抱えられ、司令官は指令室から連れ出される。彼の涙ながらの命乞いを他所に、王はもう一人、今度は普通の体格をした従者にある者たちを呼んでくるように伝えた。すぐさま従者は司令部を後にすると、早馬に跨り城へと風のように駆けていく。
「勇者ティリス達よ……貴様らこそが予に最高の勝利をもたらし、醜き魔王の首を刎ねる選ばれし者達ぞ……ふふふふ……ハーッハッハッハッハッハ!!!!」
王の高らかな笑いと共に、水の飛び散る音が、一度。
マヨルドロッタ軍に、勇者の手が忍び寄る。ヘクゼダス達の運命や、如何に。




