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第四十六話 気まぐれと空

 ヘクゼダス達が地下で待機して四日が経過した。悪魔たちはそのあいだ休息をとったり食事のことや仕事のことについて雑談をしていた。気づいたことは誰も特に勢いだって戦果の話をする者はいない。皆どことなく落ち着いているというか、戦闘があった時はそれなりに興奮してはいたようだが非戦闘時は嫌に落ち着いている。

「そろそろ地上に出るみたいだ」

 悪魔たちがざわめきだす。重々しい音を上げて、広間の入り口の扉が開かれ悪魔たちは四日前に降りた階段を上っていく。

「外の様子はどうなんだ」

 階段を上りながらヘクゼダスはコッフェルニアに尋ねる。

「既に五千の兵士が上を通ってキッチ沼近くに展開しているらしい」

 そう淡々と告げる彼とは対照的に、ヘクゼダスは上ずった声で驚く。

「五千!しかもキッチ沼じゃあ城は目前だぜ!」

 そう、キッチ沼はマヨルドロッタ城から僅かに十キロ。二、三時間であっという間に兵士が攻め込んでしまうだろう。どうしてそんなに落ち着いていられるのかと問いただすと、彼はさも当然のようにこう答えた。

「後方から別動隊と挟んで殲滅するだけじゃないか」

 その答えは実に事務的で、悪魔的であった。

「少し数が足りんがな」

 と、この二日ほど口を開いていなかったガイウストが付け加える。彼にとっては数でどうにか質を補っているようだ。その横顔からはやはり強敵と戦いたくて仕方がないとうずうずしているようなのが隠せていなかった。

「なーるほど……」

「強い奴、か……勇者一行でもミンガナスが雇っているといいけどね」

 そう答えるコッフェルニアにヘクゼダスは縁起でもない、と吐き捨てた。

「さあ、そろそろ地上に抜けるぞ、目の前はすぐ敵らしい。一気に襲い掛かるぞいいな!」

「っわ、わかった!」

 槍を両手に握りしめ構える。最後の扉の前でやはり入る時と同じように二人の悪魔どこからともなく現れて呪文を唱える。数十秒の後、音もなく大扉が千二百名の兵士の背後に現れた。そこからはいつものように惨劇が繰り広げられる。撃ちだされた弾丸のように飛び出した悪魔たちは、先日のように背後から無防備な背中を切り裂いてく。ヘクゼダスも乱戦の中で負けじと槍を振るっては兵士たちを薙ぎ払い貫く。

「はああ!」

 数十キロの槍が鎧も骨も関係なく兵士の体を打ち砕き、切り裂いていく。返り血を浴びる度、また一つ悪魔へと近づく。

「ヘクゼダス、見ていろ!」

 コッフェルニアの呼び声に彼の方を振り向くと、彼の背中からぱっくりと硬い前羽、次いで薄い後ろ羽が展開しコッフェルニアの巨体が宙に浮く。激しい羽音を鳴らしながら彼は兵士たちの頭上を舞って、上から両手の剣を振り回しかち割っていった。

「どうだ、これが私の飛行だ!」

 はっはっは、と高らかに笑い声を上げながら巨大なカブトムシが剣を振り回しながら飛び回っている光景はなんとも形容しがたい様子であった。

(もう少し絵面が穏やかなら子供向けアニメみたいなんだけどなあ)

 脳裏に浮かんでいたのはどれというわけでもないが、日曜の朝七時くらいにやってそうな子供向けのアニメのシーンであった。

「ハッ!」

 一人の兵士を貫いて投げ捨てようとしたとき、死に様に彼が発した言葉が気になった。

「ごぐうう……お前たちなんぞ……うううう、ティリスざまだぢに……かがれ……ばぁ……」

「あ?誰だ、ティリス?」

 どうせ大したことはないだろう、そう思い込んで彼を打ち捨てると再び戦いに戻る。しかしこの兵士の残した言葉が後に非常に重要な名前であることをこの時の彼はまだ知らなかった。もしそのことをせめて誰かに話しておけば対策を練ることができた可能性はあったかもしれない。ただ、彼でなくともその言葉を気に留めていたかは不明であるが。

「いい加減!戦いにっ!はああ!ハッ!慣れたかい?」

「サイカか、ああ。まあ内臓を見ても吐かないくらいにはっ!」

 そう答えながら敵を薙ぎ払う彼を見てサイカは笑った。

「それくらいにはなってもらわないとねえ!」

 人間に忍び寄る悪魔の謀略の影から更に人間の手が迫っていることに、悪魔たちは気づいていなかった。

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