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第四十五話 コッフェルニア・オートローマンシェ・トルクバーター・ビエ・ロイモンスクトールハンピウシャーストン

 悪魔の一団は進む。最初の戦闘から更に遭遇した百人ほどの人間の兵士たちを血祭りにあげながら。

漸く戦いに慣れ始めたヘクゼダスは、心に余裕ができたのか幾分歩みの速度も速くなりこびりついた血も気に留めることはなくなってきた。

 またこの戦いの中で彼は友を一人得ることとなる。それが今彼の隣を行くコッフェルニア・オートローマンシェという昆虫系の悪魔である。等級はグライバ、カブトムシをそのまま人型にしたような見た目をした彼は、正義感の強い戦士である。悪魔だのに正義感が強いとはこれ如何にと思うかもしれないが、あくまで悪魔としての正義感であり、人間の感覚とはまったくもって異なることを留意してもらいたい。鈍く黒光りするその甲殻は並大抵の魔法は通さず、剣を振り下ろせば剣の方が刃こぼれするか折れるほどでヘクゼダスのそれを遥かに凌ぐ。体躯はヘクゼダスとさほど変わらない。

「お前はよくやっているじゃないか、もともと違う世界から来た人間とはとても思えないな」

 コッフェルニアが若干頷くような動きを見せて言う。体の構造上、コッフェルニアは首の可動範囲が狭く、また腰も殆ど動かないため横を向く際は体ごと動かさねばならないという。これも強固な防御力を得たハンデということか。

「まあ、どうにかやっている」

 まだ少し痛む胸をさすりながら彼は答える。二人がこうして話すきっかけとなったのは、戦っているコッフェルニアの背後からメイスで殴り掛かろうとしていた敵を、気づいたヘクゼダスが槍を投げて倒し、助けたことによる。それから戦いの後改めて礼を述べたコッフェルニアと話すうちに親しくなったのである。いつの間にかコミュ障じゃなくなり始めていることに当の本人は気づくそぶりはない。

「そういえばコッフェルニアは飛べるのか?」

 気になっていたことを尋ねる。コッフェルニアの背中には、肩甲骨のあたりから下に向かって緩やかなカーブを描きつつ伸びる立派な羽がついており、先ほどから少し気になっていたのだ。聞かれた彼は(恐らく笑って)勿論だ、と答えた。昆虫の顔だから表情が全く分からない。仏頂面のガイウストですら嬉しい時はなんとなく犬っぽい雰囲気を感じるというのに。ちなみに彼が犬系の悪魔とはいえ、尻尾を振ったりはしない。彼にとって尻尾とはバランスをとったりするためのものらしい。

「体が重いからトットネンよりはめっぽう遅いけれど」

「トットネン?」

 誰かと思うと、彼が前方にいる魚みたいな悪魔を指さした。

「あの、背中が青い奴か?あの見た目で?」

羽根すらない魚の悪魔のくせに空を飛ぶのかと疑いの目を向けるが、どうやら彼は魚の悪魔ではないらしい。

「見た目は確かに魚みたいだが彼は体内のシフスを飛行用に変えるのが得意でね。集めたシフスをこう、後方に噴射するらしい。そうすることで飛んでいるんだと」

「へえ……」 

 変な奴もいたものだと、ヘクゼダスは眉間に皺を寄せた。

「ん、そろそろ着くな」

 と、サイカ。一体どこに着いたのだろうと辺りを見回すが、周囲には悪魔の一団が集まれそうな空き地も敵の姿も見られない。

「次の待機地点か?」

 そう尋ねたが、サイカは首を横に振って言った。

「ここから城の地下空間に入れるんだ。ここでしばらく待機するんだよ」

「こんなところに?どこから入るんだ」

「まあ見ていればわかるよ」

 とコッフェルニア。言われた通りに黙って待っていると、やがて二人の悪魔が中心に集い、何やら地面に手を当て呟いた。恐らく術を唱えたのだろう。それはすぐに効果を発揮する。突然、巨大な地下へと続く門が二人の隣に現れ、音もなく扉が開いた。

「おおう……」

 やはり魔法はすごい、そう感動したヘクゼダスであった。悪魔たちは次々と門を潜り地下へと向かっていく。ヘクゼダス達も後に続き冷たい石の階段を下っていく。壁には松明が一定の間隔で掛けてあるため、先が見えないこともなく、わりと安心して進んでいくことができた。

「あ、もう着いたのか」

 思ったよりも早く階段の終わりに着き、そのまま進むとだだっ広い空間が広がっていた。

「ここでどれくらい待つんだ」

 槍をそっと床に下ろしながら、何気なく尋ねた。するとこれまた何気ない口調でサイカが、

「四日くらいじゃないかな」

 と答える。

「四日!?そんなに?」

思わず聞き返すヘクゼダス。ほんの一、二時間かあっても今日はここで一晩明かす位に考えていたが、予想外の四日という返答に大声を上げてしまった。

「そうだけど……」

 何かおかしかった?と言いたげにサイカはこちらを見つめ返してくる。目をそらすヘクゼダス。なんとなく察したのか、ガイウストが珍しく口を開いて彼に適当に説明した。

「戦争ってのは一日そこらじゃ終わらねんだよ。数か月単位でかかるってことだ」

 意味が分からない、もう少し説明をしてもらわねば。見かねたコッフェルニアが付け加えて言うことには、

「この先の作戦を考えての四日ということさ。この間にも他の部隊が動いているから戦争を放棄したわけでもなければ、城に攻め込まれるということもない。何カ月も先のことも考えなければいけないんだ、戦争ってのは」

 それでもなんとなくでしか理解できなかったヘクゼダスは、馬鹿にされたくないのでそうなのか、と理解したふりをして誤魔化した。


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