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第四十四話 カケヒキ

 ここで視点は再びヘクゼダスへと戻る。数名の生存者を捕虜とした悪魔軍はそのまま進軍し、ミンガナス王国軍に早速圧力をかける。現状悪魔軍が優勢のようにおもえるが、実はその逆現在ミンガナス王国軍が各地で勝利し悪魔たちは敗走していたのだ。何故このような事態が起きているのか。

 それは全て悪魔軍による計略であった。数で劣るが力は圧倒的に勝る悪魔たちは、その数の少なさを逆に利用し、人間たちに敗走しているように見せかける。勢いづいた人間たちはそのまま領地深く進攻してくるはずである。そうすればあとは一気に囲んで逃げ場をなくし殺戮の限りを尽くすだけである。

 一つ言っておくと、別にこんなことせずとも正面からぶつかったって悪魔軍は勝利できる。ならばなぜそうしないのか。簡単な話、それじゃあつまらないからである。彼らはこれを戦争とは見ていない。戦争という名のゲームである。無論、必死に戦う者も重く受け止める者もいる。だが大多数の悪魔たちが戦いを待ち望み楽しんでいるのである。

 ヘクゼダス達第十一突撃部隊は更に東へと進む。この部隊は数少ない進攻用部隊である。全ての部隊が敗走しては疑われる。であるからこうして敢えて勝利を見せつける必要もあるのだ。

 まだ殺戮現場にいたヘクゼダスが、死体の山で何かをしている悪魔に気づきサイカに尋ねた。

「あれ、何してんだ」

 人間の死体をいくつか選んで魔法をかけているようだ。死体隠しでもするのかと思っていたが、思いもよらぬ答えが返ってきた。

「あれは見た目を変えてるんだよ。変異術の一つゥルガモレイナ・サーキェンクヮイヤス・テルマイトだね」

やけに長ったらしく発音しにくそうな名前だ。

「何で見た目を変える必要がある」

「今回人間が三百五十と四死んだ。でもこっちは二人だけ。ちょっと勝ちすぎてるんだよ。だから呪術で簡易的に見た目を変えてサイカロスの死体に見せてこっちにもそれなりに損害を出したように見せるんだ」

 それを聞いて背筋がゾッとした。わざわざ相手によく見せてやるということに、そのために人間を根本的ではないとはいえ悪魔の姿に変えてしまうということに。これが元の世界なら死体の損壊だとか死者への冒涜だとかで面倒な団体やら民衆によって総叩きにされていただろう。ここでふとこの行為の欠点に気づいた。

「だが、これを見つけた人間たちが数が少ないことに気づかないか?」

 人間の、と付け加える。数十体の人間の死体を悪魔に変えるのだ。ばれないはずがない。そう思っていたがそんな彼の心配をサイカとガイウストは大きく笑って一蹴した。

「奴らがわざわざこんなもの数えると思うか?え?」

 そういってガイウストは足元の人間のパーツをいくつか拾い上げて投げた。

「綺麗な死体なら数えられるかもしれないけどこれではね。それに戦争で出た大量の死体なんて、人間たちは穴を掘って全部そこに埋めるのさ」

 そういえば、映画で見た覚えがある。敵も味方も大きな穴を掘って並べて一斉に埋葬していた。うろたえる彼に、更に追撃をするサイカ。

「死体を片付ける役目の人間たちは皆奴隷とか下層の無学な奴らだからね。文字も読めなけりゃ計算なんて出来やしないんだよ。そんな心配するだけ無駄なの」

「ど、奴隷なんて……やってんのか」 

 奴隷、未だにやっているのが異世界。ラノベでよく主人公が転生先で奴隷の少女を解放して――という展開は読んだ覚えがある。自分もしょっちゅう転生して美少女奴隷を助けてその持ち主を懲らしめ少女をハーレムの一員にすることを夢想していた。だが、実際に転生してみると異世界のいろいろな現実に自分は対応できずこうしてうろたえてしまっている。うつむいてしまった彼に思うところがあったのか、サイカは彼にそっと声をかける。

「まあ、君にとってこっちはまだまだ異世界さ。慣れていけばいいってことじゃない、こっちに」

 珍しく優しい言葉をかけてくれるサイカに泣きそうになっていると、更に彼女は抱きしめてくれた。そしてちょっと喉を指でさすった。

(惚れそうだ……)

 情けない男の性がまだ残っているようだった、人間の。

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