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第四十話 極彩色の羽根

 ヘクゼダス、サイカそしてガイウストの三名は今、多数の悪魔たちと共にマヨルドロッタ城より南東に十キロいった場所にあるモルムンクの森の東に位置するキッチ沼のそのまた東部にて、何も知らずにのこのこやってくる人間の軍勢を迎え撃つべく潜んでいた。一見不気味なだけの湿地に見えるこの場所には、あのキリムエの障壁の大本、キリムエの術がかけられている一角があり、百を超す悪魔たちが悠々と身を隠せるだけのスペースがあった。外から内は見えないが、内から外は丸見えというマジックミラーのようなこの術は、人魔神問わず利用されてきた。ただ非常に高度かつ人外向けの構築をされた術であるため、まず人間は使うことはできないのだが。

「ううう……」

 形容しがたき容姿をした化け物たちに囲まれ、慣れてきたはずのこの悪魔の世界だったはずなのに再び恐怖が蘇ってきたヘクゼダスは、槍を抱え込むように両手で握りしめ体を縮こまらせたまま周囲にせわしなく目線を動かしていた。

「そんな怖がることはないだろう」

 サイカがにんまりと笑みを浮かべて、その鱗のひんやりとした皮膚を体に這わせるように後ろから抱きしめてきた。それは彼女なりに安心させようとしたようだが、当の本人には逆効果で、恐怖に冷たさがプラスしより増幅させるだけとなった。この時彼女の胸が背中に押し付けられていたのだが、この時の彼には興奮する心の余裕など微塵もなかったのであった。

「ハハハ、腕がなるぜ」

 一方のガイウストはこの調子で、他の悪魔たちと何本背骨を引き抜くかで競争しようとしている。その話を聞いてヘクゼダスはえずくばかりである。

「よしよし」

 サイカが今度は彼の喉を人差し指と中指でさすり始めたため、彼は困惑してその理由を尋ねた。すると彼女は一瞬微笑んだまま固まると、すぐにあっそうかと口にした。

「これはドルゴームのね、怖がっている子供を落ち着かせるためのものなんだ。つい君にもやってしまったね」

 ははは、と真顔で笑う彼女はやはり不気味な雰囲気があった。

「よう、お前が元人間のかあ!」

 突如、大きな酒焼け声と共に何者かが彼の目の前に現れた。

「どおおおお!?」

 素っ頓狂な声を上げて後ろにサイカごと倒れるが、サイカは彼の大声に驚いてその前に後ろに飛びずさっていたので彼に潰されることはなかった。

「おいおい、そんなにビビんなよ。オレはユデュメシだ。ジュルのユデュメシ。よろしくってな!ははは」

 そうおおらかに笑う一つ目の筋骨隆々な人型の悪魔は、いうなればサイクロプスという類の悪魔だろうか。しゃがんではいたもののヘクゼダスと同等かそれ以上と思われる巨体に赤い肌、一つ目と肩には三十センチくらいの角が生えている。なんとも発音しにくい名を名乗った彼はヘクゼダスの肩を力強くたたくと、笑いながらまた別の悪魔に笑いながら話しかけに行っていた。

「脅かすなよ……ったく」

「ユディは元気な奴だから、悪気があったわけじゃないんだよ」

「ああ、わかったよ……」

 今度は隣に並んだサイカが、ユデュメシの方を見るでもなく、どこか彼方に目をやりながら呟いた。

「そうだ、先に紹介しておくよ。危険になったら今からいう名の奴のとこにいくといい。そいつらは比較的いい奴らだから。私が保証しておこうかな」

 というと彼女は向こうを指さした。

「あの人間の骸骨の頭に泳ぎ兎の体の奴。あれがチュート、強いから安心しな。そしてあのほら、両腕がハサミのやつ。厳密にはあれは闘腕で普通の腕が一対あるんだけどまあそれはいいとしてあれがクイントユヌスっていうので私の友人だから、五百年来のね。そしてあとキウヴォッカル。あっちの私と同じような見た目の黄色い奴。あれがドルゴームの一族で従妹。セクシーだから気を付けてね」

「えー?チュートにクイン……キヴォール?セクシー?」

 言われるままに目線で追っていたが、まったくもってなじみのない名前ばかりで覚えられない。その旨を伝えると彼女は少し困ったような表情をして、そしてこういった。

「じゃあ私とガイウストから離れないように。そうすれば少なくとも死にはしないさ。きっと」

「そうか、そうかな」

 なんとなくだが、彼女のその言葉に安心し口元を緩める。戦いだというのに自分の心は安らかなことに気づくと、彼は自分が悪魔の、サイカロスの一員となっていることに最早喜びを覚えているように思えた。

ガイウストの名前がガイウストとガリウストで混用されていたためガイウストに統一しました。

ゴルシュガーテテの名を変更しました。

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