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第三十七話 憂い無し

「へえ、武器庫って意外と……ふうん……」

 悪魔の城の武器庫、それは人間であったヘクゼダスのイメージとしては宝箱がいくつかあって、その中に一つ、その時点でのレア武器が入っているというようなものが固定観念としてあった。だがマヨルドロッタ城の武器庫の中は非常に整然としていた。何百という槍や剣、斧に棒の先に鉄球のついたもの(モーニングスター)、盾といった元の世界でも使われていたような武器がそれぞれ別々に分けられて並んでいた。宝箱のような、いうなればダンジョンの御褒美的ワクワクオブジェクトは一つとして存在しなかった。が、一角には鉄格子がはめられた空間があり、隙間からは何やらたくさんの木箱が積み上げられていた。

「あれは?」

 指さして誰となしに尋ねると、フィーリアが思い出したように答えてくれた。

「あーえっとあれはですね、厳重に管理する必要性のあるものを管理人によって守られているんですよ」

「へえ、管理人……ん?ってことは管理人がここにいるってことか?」

 武器庫の門番、きっと屈強な戦士かはたまたいくつもの傷を負った歴戦の元兵士がそういう仕事を請け負っているのが相場というか、そんな設定の話は多かった気もしなくもない。

「ええ、いますよ。ザイオニウケスが。どこに行ったんでしょうね」

 ザイオニウケスという言葉に好奇心が昂る。どう考えても強戦士な名前ではないか。どことなく古代ギリシャのような響きを持った名前に期待に胸を膨らませつつ、彼は当たりを見回した。

「まあいいでしょう、さ、貴方の武器を選びましょう。何か得意なものはあって?」

「えっ、あっ得意な?」

 得意な武器などあるわけがない。剣はおろか、竹刀すら握ったことはないのだ。かつては剣道部に入り武士道を身に着け女子部員といい感じになる………ことを夢想したりもした。現実は奇声を上げ激しく打ちまわる光景にドン引きし入らなかったが、まあとにかく武器なんて素人だ。妄想の中では二丁拳銃の名手だが、現実では本物なんて見たことすらない。あらためて自分がチート能力を持って転生しなかったことを恨んだ。

「素人、なら槍がいいんじゃない?」

 とサイカが手近な槍を一本手に取り、ヘクゼダスに放って寄こした。

「おっととと」

 両腕で抱え込むように受け取ると、意外と重く、柄から切っ先まで全金属製であることに気づく。こういう兵士用の量産の槍と言えば、柄は木、先だけシンプルな刃がついているような気がするが、この渡された槍はずっしりと重く、それでいてしなやかで飾りも少しだがある。

 槍をまっすぐ自分の横に立ててみると柄だけでも自分よりも背が高い。石突きから穂先までざっと四メートルといったところか。穂先は刃渡りは実に八十センチはあろうかという大槍であった。

「金属製なのは我々サイカロスは人間よりも強い力を振るうからですよ」

「ああ、なるほど」

 だから柄まで鉄だかなんだかわからないが、何かしらの重たい金属でできているのかと彼は感心していた。

「とりあえず剣とかも持っていきましょうか」

 促され、ヘクゼダスは槍に剣、盾に斧などを両手に抱え武器庫を後にした。結局ザイオなんちゃらとかいう門番は出てこなかったな、と少し名残惜しさを胸に訓練場へと戻る。

「さて、まずは槍で行こうか」

 サイカが顎をくいっと動かした。最初はどういういみかわからなかったがすぐに理解すると槍を思い思いに構え、力強く一閃、振り下ろす。鈍い風切り音と共に槍が振り下ろされ、先が地面に刺さる。

「あっ」

 すぐに周囲を振り返るが、思いのほか誰も怒ったようには見えず、寧ろどうした、問題が?と問いたげであったことに、どうにもまだ悪魔との微妙な雰囲気の差がつかめないと首を傾げるヘクゼダスであった。

「ふんっ!」

 彼は何となしに槍を振り回している。勿論この世界の槍の達人や訓練を重ねた悪魔からすれば、彼の身のこなしはとても拙いものではあるが、その威力は本人も気づいてはいないが人間のそれをはるかに上回る代物であった。何せ四メートルほどの巨躯に加え悪魔の強靭な肉体、更に人間がまず抱えることすら出来ないような重さの槍はただ薙いだだけでも人の骨を粉砕する威力である。これで修練を積めば、人間の兵士など彼一人で一騎当千できるほどにもなろう。だが、恐ろしいのはそうなったとしても彼は下っ端のほうにすぎないだろうということである。


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