第三十二話 外と内
「……シフスはミジョーム理論の……えっと、キステリア内の体内への分散が行われてサイゴスがシスでコフォースウシアノイアス化の過程でヴィットール器官を伝わり……んん?はあ?」
黙々と読み進めては見たものの、既に二ページ目から意味の分からない単語の連続である。言語がわかっても専門用語までは理解できるようには作られていないようだった。今にも頭が沸騰しそうになっているヘクゼダスを見かねてか、サイカは微妙そうな顔で彼を見て解説を挟んだ。
「ミジョームってのは今から四百九十年くらい前まで生きてた呪術学者のサイカロスで、彼の確立させた理論が、シフスの流れはキステリアという術構築の基礎の……で……をサイゴスっていってそのサイゴス…………ヴィットール器官というのが、術を使えるすべての生物に種を問わず備わっている器官でどうたらコフォ……がこうたら」
と、彼女は空ですらすらとそう述べてはくれたが、彼の理解を二割ほど助けることしかできなかった。
「ちょっと待ってくれ、えー……つまり術を使えるにはヴィットール器官?とかいうのが必要で……」
必死に彼女の話を思い出しつつ思い浮かべては見るものの、やはり難しいことに変わりはなく、ミジョームが悪魔の人物でヴィットール器官が魔力の流れに必要な体の部品であることは分かった。しかしそれ以外はやはり理解しがたい。もっと成績の良いものだったらわかったのかもしれないが、残念ながら彼は中の下あたりの人間であったため、彼女の話をうまく理解することは叶わなかった。それを彼女も理解してか、もっと簡潔な方法を考え始めた。
「これが理解できないとなると……ならばまず二章十五節を、いやでも三節を飛ばすのは……しかし」
時折彼女はヘクゼダスを一瞥しながらあれやこれやと考えを巡らせた。そんな彼女を見て彼は思う。
(こういう時流れとしては実戦で身に着けようとか流れになって、それでも使えないんだけど命の危機に瀕したときに覚醒する、てのがお決まりだけれども……)
よくあるお約束の展開という奴だ。
「仕方がないな、なら創造系統よりも体内系統のほうがいいかもしれない」
「それは?」
「創造系統の術はゾイフォンデのように一見何もない場所から物体を生み出す。それはシフスを体内から外へ放出するという仕組みで、体内系統は体外には放出せずに中で生成し巡らせる。だから放出の過程が必要がなくなるということ」
「成程」
これくらいなら彼にも理解が可能だった。確かに、実際に体の中にある見えない何かを外に出すという慣れないことをするよりも、人間の時から無意識の内にこなしていた循環なら余計な技術や素養もいらないかもしれない。
「だとすると、こっちか」
彼女は一旦第一章第一節の書を閉じると脇へどけ、反対側の山から赤の表紙の書物を取り出し彼の前に置いた。表紙には金文字で『第三章第四節 体内循環術とその全て』とあった。厚さは先ほどのものよりも分厚くはなっているが、「全て」とあるためこの一冊である種の完結を行えるのはそれはそれでありがたいものであった。
「それの三百五十五頁を」
いわれるがままに指定のページを開いた。そこには「硬化術の使用方法と効果について」という項目が一番上にあった。
「まず君は強くない。だから防禦術で生存率を少しでも高められるようにした方がいい。そうすればまたあとでどうとでもなるから」
「でも俺の皮膚はかなり硬いぞ」
「でも盗人のちっぽけな人間のナイフすら砕くことはできなかった、だろう?」
そういわれると返す言葉がない。あの初陣が鮮明に蘇る。確かにナイフと剣で思いっきり岩のように固い肌が貫かれてしまった。しかし剣ならともかく何故ナイフ風情にこの屈強な表皮が敗れたのだろうか。
「それは君の皮膚は衝撃には強いが一点的な破壊には弱いからだろう。特に術をまとったものには」
「つまりあの時の敵は術をまとった武器を使っていたということか?」
「そう、まあここいらはそれなりに旅をしてきた者たちが攻めてくる場所だから。服も綺麗な新米とはわけが違うんだよ」
「うーむ」




