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第三話 サヴェッチェ・オウィストラストス・ラクラクーガスヘスヴィトスフラー

 山口功改め、ヘクゼダス・アグログアールは小さな石造りの部屋に放置されていた。あの後意識のはっきりしないまま彼は他の魔族たちによってこの小部屋へと運ばれ丁寧に放り投げられたのだった。意外と痛みがなかったのは朦朧としているせいか、それともこの変化した体のせいか。

「ああ、マジかよ……」

 元の声より数段低くなった声で彼は呟いた。本来ならクラスごと転生ないし転移させて、自分がチート能力でハーレムを築くはずだったのに、自分だけが魔界に放り込まれてしまったのだ。いまだに現実を受け入れられない彼は、起き上がることもなく、苔むした天井を眺めていた。

「起きてください。ヘクゼダス」

 突如顔を覗き込むように何者かが現れた。突然の来訪者に度肝を抜かれたヘクゼダスは、ロケットのような速度で後ずさり壁に激突した。

「これだから人間は。気を抜きすぎなんです」

「だ、誰だ」

 恥ずかしさをごまかすかのごとく威厳あるように務めたが、床にへたり込んだ状態ではいかに気の利いた言葉でも情けないというものだ。実際、来訪者は眉をピクリともさせずに彼を眺めていた。

「私、ヴェッチェ・フラーです。本当はもっと長いのですがこれでいいです。役目はあなたの付き人です」

 そう言って彼女は目を細めた。魔界でも彼女は美人なのだろうか。もし彼女が人間の体になれば間違いなく美人の部類に入るだろう。容姿は例えるなら、肌は全体的に緑と紫のマーブル。髪は黒で長い。目は黄色で額にもう一つ目があり上半身は腕が禍々しい骨だけである以外は人間のようである、人間のようとは言いづらいが。だが彼女を更に悪魔たらしめているのが下半身で、複数の植物の根のようなものが絡み合いまるでスカートをはいているかのようなシルエットであった。だがそれはやはり足らしく、彼女が彼に歩み寄る際、うねうねと動いているのが容易に見て取れた。

「つ、付き人?」

 ヒロインメイドみたいなものだろうか。もうちょっと人間っぽいのがよかったけど。紫肌のセクシーなサキュバスとか。

「はい、とはいっても別に召使ではないです。あなたより上ですし」

 無表情だが、そう言って口角をあげた口からは残酷な笑みがこぼれていた。

「じゃあなんで」

「付き人か?ですか」

 先に言われてしまい、彼は言葉を詰まらせた。どうも苦手である。いつその骨の腕で首を絞められるか分かったものではない。実に悪魔らしいおぞましさを感じる。

(俺も悪魔だったよな)

「情けない人間であったあなたはこちらでの振る舞いをご存じありません。ですから情けない醜態をさらさないようにしつけて差し上げるよう、フォウ様より申し付けられました」

 やけに情けないを強調する言い方に若干不快感を覚えたが、仕方がない。向こうが上であるし、こちらはついさっきまでその情けない人間であったのだから。女にへえこらするのは少々納得のいかないところがあったが、彼は黙って頷くことにしておいた。それより気になるのは先ほど彼女が口にしたフォウという名前である。一体それは誰なのだろうか。彼は恐る恐る尋ねてみた。

「フォ、フォウ様って……誰ですか?」

 彼が言い終えるが早いか、ヴェッチェの目が鋭く彼を睨み、目にも止まらぬ速さで腕が彼の首を締めあげた。

「ぐっぐるじい……」

 彼は一生懸命腕を解こうともがくが、片腕にもかかわらず恐ろしい力で指の一本すら引き剝がすことはできなかった。変異して硬化したはずのかれの喉に、容赦なく鋭い爪が食い込む。

「誰ですか、ではないでしょう。どなたでしょう、でしょう?」

「ごめんなざい、ごめんなざい……」


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