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第二十九話 再び資料室へ

 やむを得ず訓練を中断せざるを得なくなったヘクゼダスは、訓練場を後にし一人資料室へと足を運んでいた。彼にはふと思い当たる節があったのだった。

「どこへ」

 ヴェッチェの問いかけに、彼は短く、資料室へ、と答えると少し早歩きで石の廊下を駆けた。

(もしかすると、またヒントは図書館にあるのかもしれない)

 彼の脳裏には、転生前の学校の図書館での出来事があった。彼が転生術の本を偶然発見したのは学校の図書館であった。大きく彼の人生を変えたきっかけは図書室にあり、彼はもしかすると今度も何かしらの答えないし切っ掛けがあるのではないかという希望のようなものを抱いていた。再びあの螺旋階段を駆け下りる。まだ悪魔としてよちよち歩きだった右も左もわからぬ自分と、恐ろしい女悪魔とがここを歩いたのはまだごく最近のことである。

「着いた着いた」

 鉄の扉を勢いよく開け放ち資料室へと飛び込んだ。と、同時に開け放たれた扉がそのまま壁に激突し壁を少し壊してしまった。ヘクゼダスは少しのあいだ固まると、ため息をついて書架へと向かう。黙っとけばいいだろう、どうせあまり人もとい悪魔は来ないみたいだし。

「さて、と……」

 膨大な書物の並ぶ書架を前にして、彼は腰に手を当て見回す。高さは三メートル近くある彼よりもはるかに大きく、幅は更にその数倍だ。前に来た時よりも大きくなっているような気がするが、気のせいだろう。

 別に確信があって来たわけではない。あの時は、英語だのドイツ語だのの古臭く分厚い本の中に、一冊だけ異様な雰囲気を放つ本があったからわかりやすかったが、今回はそうはいかない。何せどの本も異様な雰囲気を醸し出しているのだ。そのことを考えていなかったため、首を捻って立ち尽くした。

「せめて誰か一人くらいついてきてもらえばよかっただろうか……サイカとか」

「呼んだ?」

「おわあああ!!!!!ア゛イ゛ッ」

 一人でに呟いたつもりであったのに背後で唐突に声がしたために、驚いたヘクゼダスは勢いよく書架に激突し、そのまま跳ね返されて机のふちでしこたま後頭部をぶつけ悶絶していた。棚は思いのほか重くどっかりと構えていたようだ。

「大丈夫か?」

そうは言いつつも手を貸してもくれないサイカに若干の不満を覚えつつ傷む後頭部をさすりながら彼はゆっくり立ち上がる。

「いつの間に」

 そう尋ねた彼に、彼女は何を言っているんだと言いたげな表情でこう言った。

「私たちドルゴームは蛇とその血筋を同じくする、つまり気配無く忍び寄ることくらい……ああそうか、君は別世界の人間だったか。そうか、そういえばそうだったな……うん。そうだった」

 ひとりでに納得している彼女を睨みつけてヘクゼダスは再び書架を眺めまわす。いったいどれが魔法、いや呪術の本なのだろうか。見つけてもその中から目的のものが見つけられるような気はしなかった。

「ああそうだそうだ。私は君がここで何か探すんだろうと思ってついてきたんだけど、何を探しているんだ?」

「え、ああそれは」

振り返らずに答えようとしたが、彼が言い終わらないうちに彼女はその答えを言い当ててしまった。

「術に関するもの、とりわけ基礎、そして空間術の」

「基礎の……え?」

 まさか彼女の種族には考えていることがわかる能力があるのだろうか。

「言っておくけれど、私に読心の力なんてないよ。さっきのこともあるし大方術に関する書物を探しに行くことは想像できるよ」

「なんだ、そうか……」

 期待して損したが、言われてみれば確かにそうだ。

「まあ術を使えないサイカロスなんて山ほどいるし気にする必要はないんだけれどね。でも君は術が使いたい。それで基礎の基礎を知ることと、可能性のあるキリムエについて調べようと」

「これもお見通しか……」

 ハハハ、と乾いた笑いをすると、彼は思い切って尋ねてみた。

「サイカは、どれがそれについての本かわかるのか?」

 すると彼女は少しだけ口角を上げて微笑んだ。

「勿論。ちなみに君が今見てるのは拷問についての書物だよ」

「えっ」

 思わず後ずさりした。

「これ全部?」

 彼女は頷いた。彼はあきれると同時に眩暈を感じていた。ざっと見ただけでも数百、いや千はあるだろう。でれだけ悪魔というものは拷問が好きなのだろうか。今まで色々と想像を裏切ってきた悪魔だったが、こういうところは何故か想像通りというか。


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