第二十三話 五人の始まり
「うう……どうせ私なんて酷いんでしょ……見なくてもわかるもん」
美優のそのいじけた言葉に、玲奈はそんなことないと励ましの言葉をかけるが、男どもは言葉を詰まらせていた。フォローしたいところだが、そんな言葉すら馬鹿にすることになるのではないかという危惧があった。何故なら
「あれ、獣人とかだよな……」
俊が小声で二人に尋ねた。すると二人とも神妙な顔つきで頷く。
「毛むくじゃらだし、ちょっと手が人間というより動物ぽいもんな」
「人の形はしてるけど、顔が良く見えないからね」
先ほど驚いたときはよく見てなかったので詳しくはわからない、が袖からでた手が毛でおおわれていたので後のことは想像に難くなかった。
「犬?」
「猫か」
「いや、別のかも」
「別って……何さ」
「いや、さあ……」
「ちょっと!」
こそこそと額を寄せて話し合っている男どもにイラついたのか、玲奈が突然怒りを含んだ声を発し、三人は飛び上がらんばかりに驚いた。彼女のその声は普通の怒声よりも不思議と凄みを増していた。この時気づかなかったが。これはどうも転生した彼女独特の力であるようだ。聖なる圧力とでもいうのだろうか。
「なんだよ、脅かすなよ……」
「はあ?」
ぼやいた弘之を玲奈がにらみつけ、続きを封じる。
「あのさ、美優がこんななってんのに励ましの言葉一つかけらんないの?信じらんない!」
女子特有の勢いに男子三人は圧されつつも、ブツブツとなにやら言い訳をし、最後には小声で謝った。やはり男は女に口では勝てる気がしない。それに悪いことをしたわけではなくこちらも配慮してのことであったため、理不尽さとわだかまりを感じていた。
「あのさ、とにかく顔を見せてもらえないかな」
と俊。そうそう、と弘之が続ける。
「ほら、こんなことになったけどさ、つまりこの世界にはそういう人もいたりさ、それを直せる人とかもいるかもしんないしさ」
「うんうん!」
どうにかこうにか頭を回転させて、美優と玲奈を落ち着かせようと必死になる。
「まあ、確かにそーいう可能性もないことも、ない?」
なんとなくだが納得しかけている玲奈は、美優に顔を上げるように促した。それでもいやいやと首を振ってべそをかいていた彼女であったが、玲奈の説得に遂にしぶしぶではあったが顔を上げてくれた。明らかになった顔を見て、四人は口をぽかんと開けて言葉を失った。
「………」
「あー…………」
なるほど、沈黙が痛かったが、ここで何かを言ってやらねばまた泣き出してしまいかねないと剛紀が慌てて言葉を紡ぎだす。
「猫いいよね!猫型獣人みたいだ。でも完全に猫になったわけじゃないし!うん」
はたしてそれでよかったのか彼自身も疑問に思ったが、わなわなと震え始めた彼女を見て失敗を痛感した。と同時にこちらを恐ろしい眼力でにらみつけてくる玲奈の視線を横目に感じ取っていた。
「そうだ、ここがどこか確かめなきゃじゃん!よっと」
俊は椅子から飛び上がるように駆け出すと、小屋のドアノブに手をかけ、思いっきり押し開いた。眩い光が小屋の中に差し込んだ。
わあ……
俊は光に包まれたまま、ドアを開け放った体勢で固まってしまった。
「どした?」
弘之が声をかけるが、返事はない。
「え?」
弘之と剛紀が立ち上がり、彼のもとに歩み寄った。そして外の光景を目にして同様に固まってしまった。
「なんじゃあ……こりゃあ……」
小屋の一歩外に広がっていたのはまさにRPGのゲームやファンタジー世界の景色であった。周囲には巨大な浮島のようなものが多数浮遊しており、眼下にはこれまた広大な都市が広がっていた。ようやく動けるようになった三人は、小屋の外に恐る恐る出る。小さな庭の先は途切れており、そっと顔を覗くと恐れていた通り、自分たちのいる場所も同様に空中浮遊している一角であった。
「ありえねえありえねえ!!!んだよこれよお!!は?」
混乱した弘之が手足をばたつかせて庭を転げまわり始めた。
「あ、危ないって!」
すぐに二人が羽交い絞めにして彼の動きを止めるが、本当は二人も彼のように現実を受け止めることができず、同じようにできたらどれだけいいかと感じていた。
「おーちーつーけー!」
剛紀は押さえつけながらも周囲を改めて見渡していた。ただでさえこの転生やら神の声やら信じられなかったが、この空中世界を見ると余計に自分の神経が理解できないほどに参っているようであった。これからどうすればいいのだろうか、他の皆はどこにいってしまったのだろうか。近くにいるのか、それとも全く別の場所にいるのか。これからまず何をすればいいのか。途方もない旅路の予感に、彼は脂汗をどっぷりとかいていた。




